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第2話 婚礼式
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日も傾き空に美しい満月が昇るころ婚礼の儀式が始まる。
「リーン様は今頃──」
「今頃俺がなんだって?」
「リーン様ッ。どうしてこちらに!?」
決してここにいてはならないはずのリーンの姿に、ベットに半身を起こしたまま信じられないという顔で固まる。
「だいぶ顔色良くなったな。ベジタリアンなんてやめて肉とか食べたほうがいいんじゃないか」
だがそれには答えず自ら椅子をラシェルのベットの脇まで寄せるとそこに陣取る。
「そうではなく……」
「細っこい体して」
「私の体の心配はもういいですから。それより婚礼式はどうなったのですか!」
光神祭だけならまだしも、今日はそのまま婚礼式が行われるはずだ。主役である王子には抜け出して誰かに会う時間の余裕などないはずである。
だが、いわんとしていることをわかってるはずなのに、リーンはわざとそれを口にしない。
「リーン様!」
たまらず悲痛な声を上げる。
刹那リーンの真面目な端正な顔がラシェルの黒曜石の瞳に映る。一瞬その鳶色の瞳の美しさに言葉を飲み込む。
「この時間に、その……リーン様がここにいるということは……」
リーンが物憂げに髪をかきあげる。サラリと揺れる美しい栗色の髪。一瞬言うか言うまいか思考するように視線を流す。
その妖艶なしぐさに、ラシェルがおもわず顔を伏せる。
「お前のせいだよ」
恨みがましげにリーンが呟いた。心臓がドクンと大きく打った。さきほどまでうっすら色づいていた頬から一瞬で血の気が引く。
光神際しかり王太子妃となる姫が選ばれる日はそれ以上に清い日でなければならない。
太陽の光は国に富と繁栄をもたらし、月の光は魔物から国を守ってくれると信じられている。だから月の使者とされる姫を花嫁として城に迎える日は、それこそ城内では虫一匹殺すことも禁じられるほどだ。
(まさか自分が貧血で倒れたから──)
プルプルと震えるラシャルをじっと見ていたリーンがもう耐えられないとばかりに、プハっと噴き出した。
そして腹を抱えて笑い出す。
「お前のせいじゃないよ。そんな家臣一人の貧血ごときで式が取りやめになるわけないだろ」
「どれだけこの婚礼式に人や時間やお金が動いていると思う」とおかしそうに笑う。
カッと頬が真っ赤に染まる。
やられた!そうなのだリーンはそういう少年だった。人をからかってはいつもおかしそうに笑っているのだ。
「なんか月の姫たちが穢れの日に入っちまったらしく、それで式は次の満月まで延期になるそうだぞ」
まるで他人事のように話す。
そんなことがあるのだろうか?
月の姫は一人ではなくそういう事態も考え数人用意されている。
そのすべての姫がそんなことになるなんて。
しかし王子はこうしていま自分のもとにいる。
「そんなこと……」
ラシェルは迷信など信じないほうではあるが、これはとても些細なこととして済ませていい問題ではない気がした。
ラシェルの顔がますます悲愴なものに変わる。
しかし当の本人はそんなこと全然気にしてないというように、きわめて明るく加えて心なしかいつもより上機嫌だ。
「まだ俺に結婚は早いって神様の思し召しだよ」
そんなことまで言って笑っている。
「リーン様なんてことを!」
ラシェルが慌てて辺りを見渡す、幸い部屋には自分たち以外誰もいなかった。
リーンがいうと冗談ではすまない、そして今の発言がリーンの本心だということもラシェルは知っていた。
「あなたは、自分の立場をわかっていらっしゃるのですか」
ため息をつく。しかし心のどこかでラシェルもリーンに結婚はまだ早いという思いと、式が延びたことに安堵しいる自分を感じた。
それを悟られまいと、あえてきつい口調でリーンをたしなめる。
「わかってるって、でも今回は俺のせいじゃないだろ」
そういってリーンは笑った。
「リーン様は今頃──」
「今頃俺がなんだって?」
「リーン様ッ。どうしてこちらに!?」
決してここにいてはならないはずのリーンの姿に、ベットに半身を起こしたまま信じられないという顔で固まる。
「だいぶ顔色良くなったな。ベジタリアンなんてやめて肉とか食べたほうがいいんじゃないか」
だがそれには答えず自ら椅子をラシェルのベットの脇まで寄せるとそこに陣取る。
「そうではなく……」
「細っこい体して」
「私の体の心配はもういいですから。それより婚礼式はどうなったのですか!」
光神祭だけならまだしも、今日はそのまま婚礼式が行われるはずだ。主役である王子には抜け出して誰かに会う時間の余裕などないはずである。
だが、いわんとしていることをわかってるはずなのに、リーンはわざとそれを口にしない。
「リーン様!」
たまらず悲痛な声を上げる。
刹那リーンの真面目な端正な顔がラシェルの黒曜石の瞳に映る。一瞬その鳶色の瞳の美しさに言葉を飲み込む。
「この時間に、その……リーン様がここにいるということは……」
リーンが物憂げに髪をかきあげる。サラリと揺れる美しい栗色の髪。一瞬言うか言うまいか思考するように視線を流す。
その妖艶なしぐさに、ラシェルがおもわず顔を伏せる。
「お前のせいだよ」
恨みがましげにリーンが呟いた。心臓がドクンと大きく打った。さきほどまでうっすら色づいていた頬から一瞬で血の気が引く。
光神際しかり王太子妃となる姫が選ばれる日はそれ以上に清い日でなければならない。
太陽の光は国に富と繁栄をもたらし、月の光は魔物から国を守ってくれると信じられている。だから月の使者とされる姫を花嫁として城に迎える日は、それこそ城内では虫一匹殺すことも禁じられるほどだ。
(まさか自分が貧血で倒れたから──)
プルプルと震えるラシャルをじっと見ていたリーンがもう耐えられないとばかりに、プハっと噴き出した。
そして腹を抱えて笑い出す。
「お前のせいじゃないよ。そんな家臣一人の貧血ごときで式が取りやめになるわけないだろ」
「どれだけこの婚礼式に人や時間やお金が動いていると思う」とおかしそうに笑う。
カッと頬が真っ赤に染まる。
やられた!そうなのだリーンはそういう少年だった。人をからかってはいつもおかしそうに笑っているのだ。
「なんか月の姫たちが穢れの日に入っちまったらしく、それで式は次の満月まで延期になるそうだぞ」
まるで他人事のように話す。
そんなことがあるのだろうか?
月の姫は一人ではなくそういう事態も考え数人用意されている。
そのすべての姫がそんなことになるなんて。
しかし王子はこうしていま自分のもとにいる。
「そんなこと……」
ラシェルは迷信など信じないほうではあるが、これはとても些細なこととして済ませていい問題ではない気がした。
ラシェルの顔がますます悲愴なものに変わる。
しかし当の本人はそんなこと全然気にしてないというように、きわめて明るく加えて心なしかいつもより上機嫌だ。
「まだ俺に結婚は早いって神様の思し召しだよ」
そんなことまで言って笑っている。
「リーン様なんてことを!」
ラシェルが慌てて辺りを見渡す、幸い部屋には自分たち以外誰もいなかった。
リーンがいうと冗談ではすまない、そして今の発言がリーンの本心だということもラシェルは知っていた。
「あなたは、自分の立場をわかっていらっしゃるのですか」
ため息をつく。しかし心のどこかでラシェルもリーンに結婚はまだ早いという思いと、式が延びたことに安堵しいる自分を感じた。
それを悟られまいと、あえてきつい口調でリーンをたしなめる。
「わかってるって、でも今回は俺のせいじゃないだろ」
そういってリーンは笑った。
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