上 下
51 / 60
第二章

ここまで来たら最後まで

しおりを挟む
「山崎さん! 早くこの子たち直してあげてください」

 隣の部屋から腹の割かれたぬいぐるみを抱きしめながら、真が泣きそうな顔で駆け寄ってくる。

「あぁ、痛かっただろすぐ直してあげるからね」

 着ぐるみを腰まで下ろし本物の人間の手をだすと、山崎はまるで神業のようにぬいぐるみたちを見事に修復していった。

「こいつらのお仕置きは、こんなものでいいだろう」

 自慢の服にもそのきれいな髪にも全てに埃をつけたアリスが、それを払いならが言いはなつ。

「アリスちゃん、また腕を上げましたね」

 真がアリスについた埃を払うのを手伝いながら言った。

「秋之助さんも敵わないんじゃないか」

 山崎もなぜか誇らしげにアリスを褒める。

「まだ、まだだ」

 なぜか褒められたのに、口を尖らし怒ったような口調でアリスはそっぽを向く。しかし言葉とは裏腹に、その頬がほんのり赤く染まって見えたのは気のせいではないだろう。
 山崎と真はそんなアリスを微笑ましく眺めた。
 アリスの父秋之助は、このままいけば人間国宝とまでいわれるくらい人形を操るのが巧みな人形遣いだった。
 そしてアリスはその技を、ぬいぐるみで受け継いでいたのだ。
 そしてこの階の天井裏に潜んで、ハルの身代わりになったウサギのぬいぐるみを操っていたのだった。

「さあ、親分はどんなおもてなしをしようか」

 気を失っている堂本と子分をしっかり縄で結わいて部屋の隅に転がしながら、山崎は子供がいたずらを考える時のようににんまりと微笑した。
 やれやれと子供を見守る親のように、アリスと真が肩をすくめて見せる。

「といいたいところだが、さすがに親分のほうは何人でくるかわからないし、俺たちができるのはここまでかな」

 山崎が言った。その時である、何かに呼ばれるように、アリスが振り返った。そして段ボールの奥に置かれている机をじっと見つめる。

「どうしたアリス」

 アリスは自然にその机の引き出しに手を掛ける。しかし鍵がかかっているのかビクともしない。
 アリスは周りをキョロキョロ見回すと、目的のものを見つけてそれを使って鍵を壊した。

 ――パーン!

 突然行動に、真と山崎も止めることができなかった。

「キャ!」
「いや、すまん、まさかこんなに大きな音がするとは」

 床に尻餅をつきながらアリスはそう言うと、堂本から借りた(この場合、本人は気を失っているので無許可だが)銃を床に置いた。

「アリス、なに馬鹿なことしてるんだ! これは子供のおもちゃじゃないんだぞ」

 本気で怒っている山崎をしかしアリスは無視した。今はそれより感心を引くものがあるらしい。
 こういうことはちゃんとけじめをつけないといけない。山崎が、アリスのもとに近づく。
 しかし山崎も、アリスの手にしたそれを見て動きを止めた。

「なにか感じるのか?」

 そっと目を伏せたアリスに、山崎が打って変わって静かな声で訊く。
 アリスが手にしていたのは、丁度一円玉をひとまわり小さくしたぐらいの大きさの、古ぼけた紺色のボタンだった。

「まったく、私も自分がつくづくおせっかいで嫌になる」

 アリスはそう言って、悲しそうに小さく微笑むと、そのボタンを強く握り締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八天閣奇談〜大正時代の異能デスゲーム

Tempp
キャラ文芸
大正8年秋の夜長。 常磐青嵐は気がつけば、高層展望塔八天閣の屋上にいた。突然声が響く。 ここには自らを『唯一人』と認識する者たちが集められ、これから新月のたびに相互に戦い、最後に残った1人が神へと至る。そのための力がそれぞれに与えられる。 翌朝目がさめ、夢かと思ったが、手の甲に奇妙な紋様が刻みつけられていた。 今6章の30話くらいまでできてるんだけど、修正しながらぽちぽちする。 そういえば表紙まだ書いてないな。去年の年賀状がこの話の浜比嘉アルネというキャラだったので、仮においておきます。プロローグに出てくるから丁度いい。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...