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第二章
誘惑と殺気
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「おまたせしました、こちらにどうぞ」
先に下りた山崎が、待っていた客を店の奥のテーブルに導いて行く。
圭介はその背中に向かって「じゃあまた」と、頭を下げた。
山崎が片手を上げそれに応える。
「おじゃましました」
レジと店の扉の間ぐらいに立っている真に頭を下げると、そのまま店を後にしようとした。
「あれ、帰っちゃうんですか?」
弾むような軽やかな声が、店を出ようと扉に手を掛けた圭介になげかけられる。
「はい、まだ解決してないみたいなので、また今度時間ができたら……伺いたいとおもいます」
小さく微笑みながらそういった圭介の手を、真がそっとつかみ扉から離す。
「もうすぐお店も終わります」
「えっ!」
デートの誘い文句のようなセリフに、思わず圭介の背筋がピンと伸びる。
「アリスちゃんが、もうすぐ帰ってくるので、少し会っていってはどうですか?」
なんだ、そっちかとフウと額の汗をぬぐう。
「それに今日、ケーキ作ってきたんです。折角だし食べていってください」
ニコリと微笑むその表情に、再び心拍数が上がっていく気がした。
圭介は真の手を振る祓うこともできず、どうしていいかわからずしどろもどろになる。上目遣いで見上げてくる彼女に、耳まで真っ赤になりながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
(か、かわいい)
改めてまじかに見る真に、一瞬クラリと眩暈を覚える可愛さだった。
「えっ、あっ、……」
小首を傾げる真。
「いただきます」
ほぼ無意識に言葉にしていた。刹那圭介の背中に冷や汗が噴き出た。
(――殺気!)
鋭い視線を感じ、恐る恐る振る返る。
ぬいぐるみ作成の客が書類にサインしているその先に、じっとこちらを見めている山崎と視線が交差する。
山崎はの顔は営業スマイルを浮かべたままだった。しかしその目は、見るものを凍りつかさんばかりの冷たい光を放っていた。
「いや、でも、やっぱり……」
ぎこちない笑顔で真のほうに顔を向き直す。
「何か予定でもあるんですか?」
圭介は目の前の真の誘惑と山崎からの無言の圧力で、とめどなく変な汗が背中に流れているのを感じた。
その時店の扉が、カランコロンと音を立てて開かれた。
真には悪いが新たな客が来たこの隙に、帰る決意を固めた圭介は、真の手から自分の手を引き抜く。
(ごめんなさい真さん。でも僕はまだ命が惜しいんです!)
心の中でそんな謝罪の言葉を残す。しかし、
「なんだ、圭介ではないか」
扉のほうに足を向けた圭介のやや下のほうから声がかかった。
「アリスちゃんおかえりなさい」
「ただいま、どうした圭介なにかまたあったのか?」
前の言葉は真に、後の言葉は圭介にそれぞれアリスが投げかけた。
一瞬言葉に詰まった圭介より早く真の口が開いた。
「いま、ケーキを一緒に食べようって話ししていたんです」
「ケーキ」
ケーキという言葉に小学生らしく、アリスが目を輝かした。
「そうか、じゃあ早く上に行くぞ」
アリスの前をふさぐようなかたちになってしまっている圭介に、早く上に行けと目で訴える。
「いや、僕はもう帰ろうかと……」
「何だ、甘いものは嫌いか?」
「嫌いじゃないけど」
「じゃあよかったじゃないか、真のケーキは本当にうまいぞ」
無邪気な笑顔に言葉が詰まる。
「あぁ、それとハルの居場所の見当がついたぞ」
「えぇ!」
思い出したかのように突如言い放った言葉に、圭介が驚きの声をあげた。
「後で行こうと思うのだが、暇なら圭介も一緒に行かないか?」
アリスの言葉に思わず頷く。
「そうか。じゃあ早くあがれ、ぐずぐずするな」
アリスはそういうと圭介の横をすり抜け、暖簾の下から手招きしている。
頷いてしまってから、ハッとして山崎を見る。
あいかわらずニコニコとしているが「マコちゃんに変なことすんなよ、坊主」と、圭介には山崎が言っているのが聞こえた気がして、引きつった顔のまま大きく頷いた。
そして圭介は再び二階の部屋に上がっていったのであった。
先に下りた山崎が、待っていた客を店の奥のテーブルに導いて行く。
圭介はその背中に向かって「じゃあまた」と、頭を下げた。
山崎が片手を上げそれに応える。
「おじゃましました」
レジと店の扉の間ぐらいに立っている真に頭を下げると、そのまま店を後にしようとした。
「あれ、帰っちゃうんですか?」
弾むような軽やかな声が、店を出ようと扉に手を掛けた圭介になげかけられる。
「はい、まだ解決してないみたいなので、また今度時間ができたら……伺いたいとおもいます」
小さく微笑みながらそういった圭介の手を、真がそっとつかみ扉から離す。
「もうすぐお店も終わります」
「えっ!」
デートの誘い文句のようなセリフに、思わず圭介の背筋がピンと伸びる。
「アリスちゃんが、もうすぐ帰ってくるので、少し会っていってはどうですか?」
なんだ、そっちかとフウと額の汗をぬぐう。
「それに今日、ケーキ作ってきたんです。折角だし食べていってください」
ニコリと微笑むその表情に、再び心拍数が上がっていく気がした。
圭介は真の手を振る祓うこともできず、どうしていいかわからずしどろもどろになる。上目遣いで見上げてくる彼女に、耳まで真っ赤になりながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
(か、かわいい)
改めてまじかに見る真に、一瞬クラリと眩暈を覚える可愛さだった。
「えっ、あっ、……」
小首を傾げる真。
「いただきます」
ほぼ無意識に言葉にしていた。刹那圭介の背中に冷や汗が噴き出た。
(――殺気!)
鋭い視線を感じ、恐る恐る振る返る。
ぬいぐるみ作成の客が書類にサインしているその先に、じっとこちらを見めている山崎と視線が交差する。
山崎はの顔は営業スマイルを浮かべたままだった。しかしその目は、見るものを凍りつかさんばかりの冷たい光を放っていた。
「いや、でも、やっぱり……」
ぎこちない笑顔で真のほうに顔を向き直す。
「何か予定でもあるんですか?」
圭介は目の前の真の誘惑と山崎からの無言の圧力で、とめどなく変な汗が背中に流れているのを感じた。
その時店の扉が、カランコロンと音を立てて開かれた。
真には悪いが新たな客が来たこの隙に、帰る決意を固めた圭介は、真の手から自分の手を引き抜く。
(ごめんなさい真さん。でも僕はまだ命が惜しいんです!)
心の中でそんな謝罪の言葉を残す。しかし、
「なんだ、圭介ではないか」
扉のほうに足を向けた圭介のやや下のほうから声がかかった。
「アリスちゃんおかえりなさい」
「ただいま、どうした圭介なにかまたあったのか?」
前の言葉は真に、後の言葉は圭介にそれぞれアリスが投げかけた。
一瞬言葉に詰まった圭介より早く真の口が開いた。
「いま、ケーキを一緒に食べようって話ししていたんです」
「ケーキ」
ケーキという言葉に小学生らしく、アリスが目を輝かした。
「そうか、じゃあ早く上に行くぞ」
アリスの前をふさぐようなかたちになってしまっている圭介に、早く上に行けと目で訴える。
「いや、僕はもう帰ろうかと……」
「何だ、甘いものは嫌いか?」
「嫌いじゃないけど」
「じゃあよかったじゃないか、真のケーキは本当にうまいぞ」
無邪気な笑顔に言葉が詰まる。
「あぁ、それとハルの居場所の見当がついたぞ」
「えぇ!」
思い出したかのように突如言い放った言葉に、圭介が驚きの声をあげた。
「後で行こうと思うのだが、暇なら圭介も一緒に行かないか?」
アリスの言葉に思わず頷く。
「そうか。じゃあ早くあがれ、ぐずぐずするな」
アリスはそういうと圭介の横をすり抜け、暖簾の下から手招きしている。
頷いてしまってから、ハッとして山崎を見る。
あいかわらずニコニコとしているが「マコちゃんに変なことすんなよ、坊主」と、圭介には山崎が言っているのが聞こえた気がして、引きつった顔のまま大きく頷いた。
そして圭介は再び二階の部屋に上がっていったのであった。
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