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第二章
彼らは彼らの道理を通す
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「開けろ、俺だ」
子分一人を引き連れて堂本が食事から帰ってきたのは、それから三十分ほど経ってからのことだった。
カチャと鍵を開ける音をきき、堂本が扉を開ける。
「なにか変わったことはあったか?」
堂本は無言で出迎えた小島を別に不審がることなく部屋の中に入る。
「ガキはまだ寝ているか?」
ソファーで背中を向けたまま横たわっている少年に近づく。
「――?」
しかし近づくにつれ堂本の眉間が険しくなる。
「なんだか少し太ってないか」
連れてきた時は華奢な体格をしていたのに、今はひと回り大きくなっているような気がする。
「大丈夫なのか、死んだら使い物に」
顔色を確かめようと少年の体に手を掛ける。
「――ッ!」
だがその手が少年の体に触れた瞬間、思いっきり引っ込められた。
人間の体とは明らかに違うやわらかな感触。
引っ込めた手の勢いで、背中を向けていた少年の体が、ゆっくりと向きを変える。
バサリと何かが床に落ちる。
「ヒィ」
おもわす短く声を上げる。
少年の髪の毛がまるまる全て床に落ちたのだ。
唖然と床の上に落ちた髪を凝視していた堂本が、恐る恐るソファーに視線を戻す。
そして目を見開いて、そこにあるものを見た。
そこには堂本が思い描いていた少年の姿はどこにもなかった、代わりに髪の毛が落ちた所からぴょんと飛び出た二本の耳、クルリと丸い目のようなボタンが堂本を見詰めていた。
「ウサギ……」
堂本の後ろから、その様子を見ていた子分の一人が呟くのが聞こえた。
その声で堂本が我にかえる。
「小島どういうことだ」
怒気を荒げながら、堂本は小島に詰問した。
そのとたん、今まで扉の前で取っ手に手を掛けたまま頭を下げて立っていた小島が、まるで糸が切れた人形のように、ゴトリと床に崩れ落ちる。
そしてその小島の陰から一匹の人間の大きさ程あるウサギが飛び出してきたかと思うと、もう一人の部下の首筋に何か鋭いものを突き刺す。
「なんだお前たちは!」
普通の人間なら堂本は全く驚かなかっただろう、しかし、このあまりにふざけたシチュエーションに逆に動揺する。しかしそれもすぐに、懐に隠していた冷たい重みを手にするといつもの冷静さを取り戻した。
「着ぐるみなんかで脅かしやがって!」
銃を着ぐるみに向ける。しかしその上にぴょんと飛び乗ったものがあった。
「────」
先ほど少年の代わりに転がり落ちたウサギのぬいぐるみである。目の前の人間ほどの大きさのウサギは、あきらかに着ぐるみだろうと予想はつく、だが──
(この小さなウサギはなんだ?)
銃を構えた腕に乗るウサギからは、ぬいぐるみの柔らかさと重さしか感じられない予想外のことに一瞬頭が付いていかず、堂本の動きがとまる。
瞬間背後に堂本は人間の息遣いを感じた。
ある意味、それが敵であろうとなんであろうと、人間であるという確信が堂本を少し安心させた。だから、今目の前に着ぐるみがいるにもかかわらず、背後に拳銃を構えたまま振り返えってしまった。
そして見た。
「またウサギか!!」
振り返った堂本のその目に飛び込んできたものは、見上げるばかりの巨大なウサギのぬいぐるみだった。
叫びと同時に堂本の顎をウサギの大きなこぶしがとらえた。一瞬宙を舞うように堂本の体が浮き上がる。
その顔は、いまだに自分の身に起きたことが理解できないという表情だった。
そしてその答えがでたかどうかわからないが、床に倒れピクリとも動かなくなった。
気を失ったのだ。
「どうだ、ウサギさんの怨み思い知ったか」
巨大なウサギ、もとい山崎はそういって満足げにフンと鼻を鳴らしたのだった。
子分一人を引き連れて堂本が食事から帰ってきたのは、それから三十分ほど経ってからのことだった。
カチャと鍵を開ける音をきき、堂本が扉を開ける。
「なにか変わったことはあったか?」
堂本は無言で出迎えた小島を別に不審がることなく部屋の中に入る。
「ガキはまだ寝ているか?」
ソファーで背中を向けたまま横たわっている少年に近づく。
「――?」
しかし近づくにつれ堂本の眉間が険しくなる。
「なんだか少し太ってないか」
連れてきた時は華奢な体格をしていたのに、今はひと回り大きくなっているような気がする。
「大丈夫なのか、死んだら使い物に」
顔色を確かめようと少年の体に手を掛ける。
「――ッ!」
だがその手が少年の体に触れた瞬間、思いっきり引っ込められた。
人間の体とは明らかに違うやわらかな感触。
引っ込めた手の勢いで、背中を向けていた少年の体が、ゆっくりと向きを変える。
バサリと何かが床に落ちる。
「ヒィ」
おもわす短く声を上げる。
少年の髪の毛がまるまる全て床に落ちたのだ。
唖然と床の上に落ちた髪を凝視していた堂本が、恐る恐るソファーに視線を戻す。
そして目を見開いて、そこにあるものを見た。
そこには堂本が思い描いていた少年の姿はどこにもなかった、代わりに髪の毛が落ちた所からぴょんと飛び出た二本の耳、クルリと丸い目のようなボタンが堂本を見詰めていた。
「ウサギ……」
堂本の後ろから、その様子を見ていた子分の一人が呟くのが聞こえた。
その声で堂本が我にかえる。
「小島どういうことだ」
怒気を荒げながら、堂本は小島に詰問した。
そのとたん、今まで扉の前で取っ手に手を掛けたまま頭を下げて立っていた小島が、まるで糸が切れた人形のように、ゴトリと床に崩れ落ちる。
そしてその小島の陰から一匹の人間の大きさ程あるウサギが飛び出してきたかと思うと、もう一人の部下の首筋に何か鋭いものを突き刺す。
「なんだお前たちは!」
普通の人間なら堂本は全く驚かなかっただろう、しかし、このあまりにふざけたシチュエーションに逆に動揺する。しかしそれもすぐに、懐に隠していた冷たい重みを手にするといつもの冷静さを取り戻した。
「着ぐるみなんかで脅かしやがって!」
銃を着ぐるみに向ける。しかしその上にぴょんと飛び乗ったものがあった。
「────」
先ほど少年の代わりに転がり落ちたウサギのぬいぐるみである。目の前の人間ほどの大きさのウサギは、あきらかに着ぐるみだろうと予想はつく、だが──
(この小さなウサギはなんだ?)
銃を構えた腕に乗るウサギからは、ぬいぐるみの柔らかさと重さしか感じられない予想外のことに一瞬頭が付いていかず、堂本の動きがとまる。
瞬間背後に堂本は人間の息遣いを感じた。
ある意味、それが敵であろうとなんであろうと、人間であるという確信が堂本を少し安心させた。だから、今目の前に着ぐるみがいるにもかかわらず、背後に拳銃を構えたまま振り返えってしまった。
そして見た。
「またウサギか!!」
振り返った堂本のその目に飛び込んできたものは、見上げるばかりの巨大なウサギのぬいぐるみだった。
叫びと同時に堂本の顎をウサギの大きなこぶしがとらえた。一瞬宙を舞うように堂本の体が浮き上がる。
その顔は、いまだに自分の身に起きたことが理解できないという表情だった。
そしてその答えがでたかどうかわからないが、床に倒れピクリとも動かなくなった。
気を失ったのだ。
「どうだ、ウサギさんの怨み思い知ったか」
巨大なウサギ、もとい山崎はそういって満足げにフンと鼻を鳴らしたのだった。
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