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第二章

人とぬいぐるみ

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「よかった」

 アパートから出てくる山崎と、彼の腕に抱かれたハルの姿を車内から確認すると、圭介は大きく安堵の吐息を漏らした。
 そして、二人を迎えるためすばやく後部座席のドアを開ける。

「おかえりなさい、うまくいったんですね」

 少し興奮気味に言葉を掛ける。それから再びアパートのほうを確認して怪訝な表情を浮かべた。
 すぐ後から現れると思っていた二人の姿がまだ見えないのだ。

「アリスちゃんと真さんは?」

 後部座席でハルの手足を縛っていた縄をほどくと、そのまま返事もせず運転席側に回り込み車のボンネットを開ける。

「山崎さん!」

 嫌な胸騒ぎを覚え、圭介がボンネットに顔を突っ込んでいる山崎の横に駆け寄った。

「すまねぇ圭介、ハルを連れて先に親御さんのもとに行ってくれ」

 ボンネットから顔を上げた山崎の手には、大きな鞄が握られている。

「どういうことです?」

 圭介の顔に不安と緊張が走る。

「まさかアリスちゃんと真さんの身に、何かあったんですか!」
「俺たちには、やらなきゃならないことが出来たんだ」
「やらなきゃならないって、なにを!」

 ハルを救出した今これ以上なにをする必要があるのだ。

「あいつらを救ってやらないと」

 しかし、山崎はそう一言だけいうと遠い目をして口を閉ざしてしまった。

「あいつらって」
「他に誰か捕まっていたんですか?」

 途方にくれたように山崎の目を覗き込む。

「いいから行け、ただし警察にはまだ連絡するなよ」
「どういうことです、説明をしてくださいよ」

 圭介はそこで初めて山崎の瞳の中に、激しい怒りの炎が燃え上がっているのを見た。おもわず息を呑んで立ち尽くす。

「あいつらの怨みが晴らせるまでは」

 山崎は独り言をいうように呟くと、

「いいな連絡するまでハルの家で大人しくしていろ、でももし日付が変わっても連絡がなかったらそのまま警察にいくんだぞ」

 念を押すだけ押して、再びアパートの方に向かって歩き出した。
 圭介はどうすることもできず、山崎の背中がアパートに消えるまでただ見つめていた。
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