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第二章

だんだん大事になってきたような

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「さあ、第二作戦開始だ」

 アリスはそういうと、厳しい顔でエリザベーラに顔を埋めた。
 口の周りにケチャップがうっすらついているのが気になるが、祈りをささげるように黙祷する姿はなんだか神々しい光を放っているかのようだった。

「見えたぞ」

 エリザベーラとマスコットがうまく繋がったらしい。

「あっ」

 突然顔を埋めていたアリスがその姿勢のまま、驚きの声を上げた。

「どうした?」

 山崎の問いかけに答える代わりに、アリスはいままで引き締めていた口元をにんまりと緩めると、

「付けたぞ」

 うれしそうに言った。

「携帯に?」

 マスコットは携帯ストラップになっているのだ、だからハルをさらった男達の誰かがマスコットを携帯に付けたに違いない。

「いいセンスをしている」

 アリスの言葉に圭介以外の二人が同感だというように頷く。

「これでだいぶ見やすくなった」

 満足げにエリザベーラに顔を埋めたままアリスが再び頬を引き締めた。

「一、二、三、中の人物はハルを除けば、三人だけみたいだ。電話をしているな……」

 聞き耳を立てるかのように押し黙る。
 まるで圭介もそれを聞こうとするように、アリスを凝視したまま一切の動きを止める。

「……△×倉庫に移動するらしい、そしてそこにあいつらの親分もくるみたいだ」
「…………」
「時間は……二十時」

 山崎が時間を確認する、腕時計は三時を少し回ったところだった、後五時間ほどある。

「おぉ、どうやら一番下っ端を残して、後の二人で今からランチにいくみたいだ」

 アリスは顔をあげることなくそう続けた。

「さっきのピザの匂いで腹が減ったかな」

 ニヤリと山崎がほくそ笑む。

「ふむふむ、よし」

 そういったところで、ようやくエリザベーラから顔を離す。そうして、ぐるりと車内の面々の顔を覗きこむように見渡すと、

「二人が建物から出てきたら行くぞ」

 と宣言する。

「行くって?」

 わかってはいるが確かめずにはいられない。ちょっと及び腰で圭介が尋ねる。

「救出に決まっているだろ」

 そんな圭介を一瞥すると、さらりと言い返された。

「そんないくらなんでも危険ですよ、それに一人残っているんでしょ」
「そうだな、じゃあ圭介はここで待っていてくれ」

 一瞬何をいわれたか理解できなかったように、圭介が呆然とアリスを見詰めた。

「そうだな。俺たちが三十分しても帰ってこなかったら、そのまま警察に行ってくれ」

 腕を組みながらそういった山崎のほうを振り返る。

「車の運転は出来ますか?」

 真もいつもとかわらない、にこやかな笑顔のまま圭介に尋ねた。

「えぇ、あの、僕、本当に行かなくていいんですか……」
「なんだ行きたいのか?」

 山崎の言葉に思わず目を伏せる。さっき味わった恐怖が蘇って、体が強張った。
 そんな圭介をいたわるような眼差しで見詰めると、山崎は「ほら」と、圭介の手を取って車のキーと握らせた。

「運転できるんだろうな」

 押し黙ったまま小さく頷く。

「傷つけんなよ、まだ買ったばっかなんだから」

 冗談をいうように、山崎が明るく笑う。

「やっぱ僕も!」

 視線を上げいいかけた圭介の言葉を遮るように、

「安心していろ、かならずうまくいく、圭介はここで留守番しているんだ」

 アリスはそういうと、ニコリと微笑む。
 まさにその笑顔は、天使を連想させるほど美しく気高く自信に満ち溢れて見えた。
 一瞬自分のほうが年上にもかかわらず、まるで母親の姿を見て安心する子供のように圭介はアリスの笑顔に見とれてしまった。
 それからゆっくりと、みんなの顔を見渡す。

「わかりました、気おつけていって来てください」

(彼らが大丈夫だというのだから、大丈夫なのだろう)

 自分でも不思議なほどいまは、そう確信していた。
 また自分が行ったところで、逆に彼らの足でまといになるだけだということも感じていた。

(ヤクザの本拠地に向かうのではない、たかが一人の男が見張りをしている部屋に行くだけだ)

 圭介は自分に言い聞かすと車内に残る決心をした。

(いざという時は、彼らの命綱になるのは自分なのだから)

 そう思った。
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