【完結】モフモフたちは見てる〜アリスのぬいぐるみ専門店〜

トト

文字の大きさ
上 下
41 / 60
第二章

突撃取材

しおりを挟む
 その時商店街がざわついた。
 なんだなんだと思っていたら、一台のカメラが人垣を割って近づいてくるのが見えた。

「何かのロケ番組ですかね」

 圭介と真もしばらく会話をやめて、興味深げにそちらのほうを見詰める。
 レポーターらしき女性が、商店街の真ん中を歩きながら、気に入った店が目に入ると、ちょっと立ち寄ってつまみ食いをしたり世間話をしたりしていた。
 結構有名人らしく、店の人も皆顔をだし彼女に握手を求めたり、品物を手渡したりしていた。

「真さん知ってます?」

 圭介がそんなレポーターを指差しながら真に訊いた。

「私もあまりテレビとか見ないので、名前まではわかりませんけど、見たことある顔です。たしか健康食品のCMかなにかに出ていたような、圭介さんご存じないですか?」
「うーん、そういわれてみれば、見たことあるような」

 彼女の耳に入ったら失礼ともとれる会話をしていると、突然近くで声がかけられた。

「あなたはこの店の店員さんですか? かわいい格好ですね」

 いつのまにこんなに近くまで来ていたのか、そういうとレポーターの女性が持っていたマイクを真の前にかざした。
 カメラもマイクも真に向けられていて、圭介などまったく相手にされていなかったのだが、思わず圭介はピンと背筋を伸ばした。
 カメラとマイクを向けられている真はいたっていつもと同じく口調で、「いえ、違います」と、だけ答えた。
 にこやかに答えた真に、女性リポーターが一瞬言葉を飲み込んだ。彼女にしてみれば予想外の答えだったのだろう。
 しかしそこはプロらしく、すぐに別の質問をする。

「じゃあデートですか?」
「はい」

 真がそういうと、カメラが圭介にも向けられた、おもわず手で顔を隠す。

「普段からそんな格好をしているのですか?」
「そうです」
「どこで買っているのです?」
「買っているんじゃないんです、これ自分で作ったんですよ」
「えぇ!」

 今度こそリポーターが驚きの声をあげた。

「すごいですね」

 それはお世辞から出た言葉ではなく、心から出た感嘆詞だった。

 ──カット!

 そこでいったん撮影が終わった。
 それから慌てたように本当のカフェの店員が出てきた。
 いままでの商店街の撮影は本当にぶっつけ本番だけだったみたいだが、このカフェはまた別撮りするらしい。
 なにやらカメラマンと店員と、ディレクターらしき人で打ち合わせをしている。
 圭介がそんな様子を横目で見ている最中も、さっきのレポーターはまだ真の近くにいてなにやら話しかけていた。

「いまのところ、放送されるんですか?」

 ちょっとうきうきとした様子で、真がレポーターに質問する。

「あぁ、うーん、たぶんカットかな」

 本当にすまなそうに、レポーターの女性が答える。

「そうなんですか」
「ごめんね、私が勘違いしちゃったから、本当はここの店は後撮りだけだったんだけど、つい貴方に目がいってしまって話しかけちゃったの。まさか店と全然関係ない人だったとはおもわなかったから」
「残念です」

 あまり残念そうでもなく真が答えた。

「さっき、その服自分で作ったっていってたけど」

 突然、レポーターがなにかを探るように声を潜めて真に訊いた。

「はい」
「アパレル関係の人なの」
「いいえ、人が着る服は、趣味でしか作ってないんですけど」

 真も人がいいのかどんどん質問に答えていく。

「何かほかに作ってるの?」
「はい、ぬいぐるみの洋服を、教室も開いてるんですよ」
「へぇー」

 その女性レポーターは、あきらかに真に興味を持ったらしい。
 そして、しばらく席をはずすと、店員と打ち合わせを終えたディレクターのところでなにやら相談を始める。そして再び圭介と真の席に戻ってくると。

「今度そのお店、取材にいっていいかしら」と、真に話を持ちかけた。
「いいんですか?」

 突然の取材依頼に、真のほうが喜びの声をあげた。
 それで話は決まったらしい。
 真とディレクターが連絡先のやりとりをしているあいだ、取り残されたような形になった圭介は見るともなく商店街をぼんやり眺めていた。
 テレビカメラに気がついて、立ち止まったりひそひそ話をしたりする人、野次馬のようにカフェを取り囲んでいる人、また中にはディレクターと話している真を新しいアイドルと間違えているのか、携帯電話のカメラで取っている人までいる。
 圭介はなんだか自分が邪魔になっていそうで、おもわず席を少しずらしたほどだ。
 それでもしばらくすると、それ以上発展がないとみたのか、商店街もいつもの日常を取り戻し始めた。
 その頃には真の打ち合わせも終わり、席には再び圭介と真だけになった。
 コーヒーもなくなり、周りにも変にめだってしまったので、これから長時間ここで時間をつぶすのもどうだろう。と思い悩みかけたとき、その少年が目に飛び込んできた。

「真さん、ハルって確か男の子でしたよね」
「はい小学三年生の男子で」

 ハルという名前はどちらにもとれるが、ぬいぐるみを大切にしているということから、勝手な思い込みで、女の子だろうと思っていたので、アリスから男の子だと聞いて意外だと思ったものだった。

「男がぬいぐるみを大切にしたらおかしいのか」

 すぐ近くにぬいぐるみをこよなく愛する大人の男、山崎がいることをその時はすっかり忘れていていたが。

「髪はストレートショート、痩せ型でめがねを掛けています。それと今日の服装は紺色の半そでとクリーム色の短パンを着ています」
「じゃあ、あの子かな」

 今まさに目の前を通り過ぎようとしている一人の少年を指差す。

「あぁ、そうだと思います」

 アリスが朝ぬいぐるみたちに聞いた、今日の服装とイメージ像が一致する。
 真はパンと手を叩くと、「追いかけましょう」と席を立った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。 不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。 その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。 クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。 その病を、完治させる手段とは? (どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの) 狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?

処理中です...