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第二章
過去
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――三年前。
冬の気配が色濃くなってきた十月の終わり。今にも降ってきそうなどんよりと重たい雲が空一面を覆いつくさんばかりに広がっていた日だった。
「じゃあ山崎さん、お店のほう頼みましたよ」
知り合いの結婚式に出席するため、その日マリアは今まで山崎が見たどんな女性よりきれいに着飾っていた。
マリアの足元では、やはり同じように着飾ったアリスが、母親に甘えるように手を引いて遊んでいる。
輝く金色の髪に深い緑の瞳。フランス人形のような端整な顔立ちをした美しいマリアと、それをそのまま小さく縮めさらに子供特有の無邪気なかわいさをプラスしたようなアリス、普段でさえその二人が並んで歩いていると、道行く人もおもわず足を止めて見入ってしまうというのに、今日は二人ともさらにドレスアップしているのだ。
はっきりいって花嫁がどんなにきれいでも、主役を横取りしてしまうんではないかと心配になるほどだった。
「鼻の下を伸ばしていないで、しっかり留守番するんだぞ」
おもわず見とれている山崎に気がついて、アリスが偉そうな口を利く。
「こらアリス、山崎さんになんて口の利き方なの」
マリアが顔を真っ赤にして、慌ててアリスに注意する。
「不肖山崎がしっかり店の留守をして見せます」
マリアの姿に見とれていたのは事実なので、苦笑いを浮かべながらわざとらしくそう言った。
「すみません、この子口が悪くて」
マリアがきれいな日本語の発音で山崎に謝る。
「私はおかしくなどないぞ、学校のみんなも同じように話している」
口を尖らしながらアリスがふて腐れる。そんな二人の姿を、山崎も目を細め暖かく見守る。
「それより、降らないといいですね」
「そうですね」
マリアと山崎が同時に空を見上げる。
「準備はいいかな?」
その時、すらりとした身長の男が三人の元にやってきた。
端整で賢そうな顔立ち。しかし冷たい印象はなく、人当たりの良い朗らかな笑みを浮かべている。
「パパ」
「秋之助さん、この荷物もお願い」
男の足にアリスが駆けよってしがみつく、その頭を優しく撫ぜながら、マリアに言われた荷物をトランク詰める。
「じゃあ行きましょうか、お姫様」
秋之助はそういうと、足元のアリスを抱きかかえ車の後部座席に座らせる。後部座席にはアリスの他に沢山のぬいぐるみたちも乗っていた。
秋之助は運転席にマリアは助手席に座った。
「じゃあ行ってきますね」
「あと頼みます」
「気お付けていってらっしゃい」
後部座席からアリスが無邪気に笑いながら山崎に手を振る。
山崎も笑顔でそんな三人を見送った。
冬の気配が色濃くなってきた十月の終わり。今にも降ってきそうなどんよりと重たい雲が空一面を覆いつくさんばかりに広がっていた日だった。
「じゃあ山崎さん、お店のほう頼みましたよ」
知り合いの結婚式に出席するため、その日マリアは今まで山崎が見たどんな女性よりきれいに着飾っていた。
マリアの足元では、やはり同じように着飾ったアリスが、母親に甘えるように手を引いて遊んでいる。
輝く金色の髪に深い緑の瞳。フランス人形のような端整な顔立ちをした美しいマリアと、それをそのまま小さく縮めさらに子供特有の無邪気なかわいさをプラスしたようなアリス、普段でさえその二人が並んで歩いていると、道行く人もおもわず足を止めて見入ってしまうというのに、今日は二人ともさらにドレスアップしているのだ。
はっきりいって花嫁がどんなにきれいでも、主役を横取りしてしまうんではないかと心配になるほどだった。
「鼻の下を伸ばしていないで、しっかり留守番するんだぞ」
おもわず見とれている山崎に気がついて、アリスが偉そうな口を利く。
「こらアリス、山崎さんになんて口の利き方なの」
マリアが顔を真っ赤にして、慌ててアリスに注意する。
「不肖山崎がしっかり店の留守をして見せます」
マリアの姿に見とれていたのは事実なので、苦笑いを浮かべながらわざとらしくそう言った。
「すみません、この子口が悪くて」
マリアがきれいな日本語の発音で山崎に謝る。
「私はおかしくなどないぞ、学校のみんなも同じように話している」
口を尖らしながらアリスがふて腐れる。そんな二人の姿を、山崎も目を細め暖かく見守る。
「それより、降らないといいですね」
「そうですね」
マリアと山崎が同時に空を見上げる。
「準備はいいかな?」
その時、すらりとした身長の男が三人の元にやってきた。
端整で賢そうな顔立ち。しかし冷たい印象はなく、人当たりの良い朗らかな笑みを浮かべている。
「パパ」
「秋之助さん、この荷物もお願い」
男の足にアリスが駆けよってしがみつく、その頭を優しく撫ぜながら、マリアに言われた荷物をトランク詰める。
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「じゃあ行ってきますね」
「あと頼みます」
「気お付けていってらっしゃい」
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