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第二章

これはデートではありません

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『あの、コーヒーのおかわりいただけますか?』
『君どこの店の子?』

 カフェに座った真に間違って注文してくる客、どこかのお店の同伴かと声をかけてくる人。ただのナンパ。
 
 スタイル抜群の可愛い猫耳メイドの前に座っているのがさえない大学生だとしたら、そんな勘違いするなというほうがおかしい。なぜあの車内で話し合っているとき誰もそのことにツッコミを入れなかったかが不思議であるが、うすうすこうなることを予想していた圭介はただ黙ってコーヒーをすすった。
 目立つという点に関しては山崎と二人でいるのとあまり大差はなかったかもしれないが、圭介自身がお茶を楽しむなら山崎より真を選びたいがため、あえて言及しなかったので心の準備はできていた。たとえ道行く人にもチラチラ見られていて居心地が悪かろうが、この選択に間違いはなかった。

 真はあいかわらずニコニコと落ち着いた様子だ。慣れているのか、肝が据わっているのか。本当にこの三人といるとどちらの感覚が世間とずれているのか、圭介はだんだんわからなくなってきそうだった。

「真さん」
「はい」

 圭介は軽く頭を振ると、こんなこと考えて黙っていてももったいない、山崎の邪魔が入らないいまのうちにたくさん真と話すことにした。

「真さんは、鍼師と洋服作りどちらが本業なんですか?」

 まるでお見合い相手に質問するように、硬い口調でそう訊く。

「うーん、難しい質問ですね」

 片方の手でもう片方の肘を支え、支えられているほうの指を頬に当てるような仕草で真が考える。

「将来的には洋服のほうを本業にしたいと思っているんですけど、収入面ではまだ鍼のほうがいいんですよね」
「そうなんですか」

 確かに教室に通ってくる生徒はいるが、いつも満席というわけではなさそうだった。真の作る洋服はマニアにはたまらないかもしれないが、一般的に需要が多いというわけではないみたいだ。

「もともとぬいぐるみのオーダーが主な収入源で、洋服作りはマリアさんの趣味でやっていたようなものでしたし」
「そういえば山崎さんも真さんも、もともとマリアさんというかたの生徒だったんですよね」

 ふと会話に出てきたアリスの母親の名前に、圭介がそう訊いた。

「はい、もともとのマリアさん一人で、ぬいぐるみのオーダーメイド店としてやっていたんです。そこに趣味でぬいぐるみ作成やぬいぐるみの洋服作りの教室を開いていて、山崎さんはぬいぐるみ作り、私は洋服作りの生徒だったんです」

 それは前にも少し山崎から聞いて知っていた。

「私、高校卒業してすぐに鍼師の資格を取るため専門学校に通っていたんですが、今の店がちょうど通学路の途中にあったんですよ」

 真が思い出話を聞かせるように語りだす。

「私ぬいぐるみ好きだったんで、マリアさんのお店通るたび、あぁ、あのぬいぐるみ可愛いなって。思っていたんです。でもそのうち、そのぬいぐるみが着ている洋服に目が行くようになって。その時までは洋服なんか興味なかったんですけど。なんだかすごく気になりだして。そしたらある日、ぬいぐるみの洋服作りの教室があるって知って、もうこれは行くしかないって」

 まさかこんなに自分が、洋服作りにはまるとは思ってみませんでした。と目をキラキラさせながら真は話す。

「でも何度か洋服に針を通していて気がついたんです」

 真も山崎と同じように、その時の感動を思い出したかのように、うっとりと遠い目をした。

「私、やっぱり針仕事が好きなんだって」
「……針仕事?」

 それまで黙って聞いていた圭介が思わず聞き返す。
 しかし真は気がついていないのか、悦に入ったように話を続けた。
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