22 / 60
第二章
気になるその後は
しおりを挟む
「いらっしゃいませ」
店の扉を開けると、この間と違ったメイド服を着たマコちゃんと呼ばれていた女性が元気な声をかけてくれた。
「あの、山崎さんいますか?」
「ご予約の方ですか」
「いえ、違います、谷村圭介といえばわかると思うのですが……」
もう忘れられているかもという思いから、言葉がしりつぼみになっていく。
あれから一週間以上は経過している。圭介には印象的な出来事だったが、こういう仕事柄をしている二人にとってはどうだったかわからない。
「あぁ、この間の──、少々お持ちください」
ぱっと思い出したというように表情を明るくすると、真はレジの横に設置されている電話の内戦を山崎に繋いでくれた。
「どうぞ、上がってください」
ニコリと圭介に微笑みかける。営業スマイルなのだろうが、それでも圭介はその綺麗な微笑みにドキリとした。
ジロジロみていなかっただろうか、鼻の下が伸びていなかっただろうか、圭介は内心あせりながら「はい」と、ぎこちない笑みを浮かべながらレジの後ろの暖簾をくぐった。
真の姿が見えなくなるとホッと吐息を漏らす。
あいかわらず非の打ちどころのないプロポーションだ。それにこの間もちょっと思ったが、あの真っすぐに向けられる笑顔は、まるで自分を「待っていました」といわんばかりで、ありもしない期待を胸に抱いてしまいそうになる。
店の入り口に張られていた案内を思い出し、思わず「ぬいぐるみの洋服教室通おうかな……」と呟いていた。そして自分の言葉にハッとすると同時に「手出すなよ」と、いう山崎の強面を思い出しブルリと身震いした。
「どうした、またなにかあったか?」
「いえ、あれからどうなったのか気になって」
「なんだ、まだ夢見るから返金しろといいにきたわけじゃないのか」
冗談ぽくニカリと笑いながら、山崎は上がって来た圭介にお茶を出す。
「まぁそんなこといったら、袋叩きにしているところだったがな」
冗談だか本気だかわからないような口調で口走る。
まあ、それも自信の表れなのだろう。それにあれだけの力を見せつけられてそんなことを言ったら、逆に呪いを掛けられそうで怖くて言えない。と圭介は心の中で呟いた。
「おかげさまで、あれからはなんの夢も見ずによく眠れてます」
「そうか、ならよかった」
少しほっとしたように笑う。山崎はこんな見た目だが、性根がすごく優しい男なのだろう。ここのぬいぐるみたちを見ればそれは言葉を交わさなくてもよくわかる。
「あれからハルちゃんは見つかりましたか?」
「いやまだだ、とりあえず明日ぐらいにはアリスの力も回復するだろうから、それからだな」
「まったく、力を証明するのに圭介の前であんな大技使わなくてもいいのにな」と圭介に同意を求めるように愚痴をこぼす。
さらりとアリスはやってのけていたがその言いっぷりだと、ぬいぐるみネットワークはだいぶ疲れる力技だったらしい。
まあ、一番インパクトはあるがそれでしばらく力が使えなくなっては元も子もない。だがそれは圭介が疑ったせいなのだが、とりあえず圭介は山崎の機嫌を損ねないように「そうですねぇ」と、相槌を打っておいた。
そして自然に話はアリスの話から、山崎の愚痴に、そして思い出話へと変わっていった。
「まったくあいつは誰に似たんだか、マリアさんも秋之助さんも二人ともおっとりしたいい人なのに、あいつは本当に困ったじゃじゃ馬だ」
「マリア? 秋之助?」
「あぁ、アリスの両親だ。もともとこの店は二人がやっていたんだ。俺とマコちゃんはマリアさんのぬいぐるみ教室の生徒だったんだ」
店の扉を開けると、この間と違ったメイド服を着たマコちゃんと呼ばれていた女性が元気な声をかけてくれた。
「あの、山崎さんいますか?」
「ご予約の方ですか」
「いえ、違います、谷村圭介といえばわかると思うのですが……」
もう忘れられているかもという思いから、言葉がしりつぼみになっていく。
あれから一週間以上は経過している。圭介には印象的な出来事だったが、こういう仕事柄をしている二人にとってはどうだったかわからない。
「あぁ、この間の──、少々お持ちください」
ぱっと思い出したというように表情を明るくすると、真はレジの横に設置されている電話の内戦を山崎に繋いでくれた。
「どうぞ、上がってください」
ニコリと圭介に微笑みかける。営業スマイルなのだろうが、それでも圭介はその綺麗な微笑みにドキリとした。
ジロジロみていなかっただろうか、鼻の下が伸びていなかっただろうか、圭介は内心あせりながら「はい」と、ぎこちない笑みを浮かべながらレジの後ろの暖簾をくぐった。
真の姿が見えなくなるとホッと吐息を漏らす。
あいかわらず非の打ちどころのないプロポーションだ。それにこの間もちょっと思ったが、あの真っすぐに向けられる笑顔は、まるで自分を「待っていました」といわんばかりで、ありもしない期待を胸に抱いてしまいそうになる。
店の入り口に張られていた案内を思い出し、思わず「ぬいぐるみの洋服教室通おうかな……」と呟いていた。そして自分の言葉にハッとすると同時に「手出すなよ」と、いう山崎の強面を思い出しブルリと身震いした。
「どうした、またなにかあったか?」
「いえ、あれからどうなったのか気になって」
「なんだ、まだ夢見るから返金しろといいにきたわけじゃないのか」
冗談ぽくニカリと笑いながら、山崎は上がって来た圭介にお茶を出す。
「まぁそんなこといったら、袋叩きにしているところだったがな」
冗談だか本気だかわからないような口調で口走る。
まあ、それも自信の表れなのだろう。それにあれだけの力を見せつけられてそんなことを言ったら、逆に呪いを掛けられそうで怖くて言えない。と圭介は心の中で呟いた。
「おかげさまで、あれからはなんの夢も見ずによく眠れてます」
「そうか、ならよかった」
少しほっとしたように笑う。山崎はこんな見た目だが、性根がすごく優しい男なのだろう。ここのぬいぐるみたちを見ればそれは言葉を交わさなくてもよくわかる。
「あれからハルちゃんは見つかりましたか?」
「いやまだだ、とりあえず明日ぐらいにはアリスの力も回復するだろうから、それからだな」
「まったく、力を証明するのに圭介の前であんな大技使わなくてもいいのにな」と圭介に同意を求めるように愚痴をこぼす。
さらりとアリスはやってのけていたがその言いっぷりだと、ぬいぐるみネットワークはだいぶ疲れる力技だったらしい。
まあ、一番インパクトはあるがそれでしばらく力が使えなくなっては元も子もない。だがそれは圭介が疑ったせいなのだが、とりあえず圭介は山崎の機嫌を損ねないように「そうですねぇ」と、相槌を打っておいた。
そして自然に話はアリスの話から、山崎の愚痴に、そして思い出話へと変わっていった。
「まったくあいつは誰に似たんだか、マリアさんも秋之助さんも二人ともおっとりしたいい人なのに、あいつは本当に困ったじゃじゃ馬だ」
「マリア? 秋之助?」
「あぁ、アリスの両親だ。もともとこの店は二人がやっていたんだ。俺とマコちゃんはマリアさんのぬいぐるみ教室の生徒だったんだ」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ガールズバンド“ミッチェリアル”
西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。
バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・
「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」
武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。

真理子とみどり沖縄で古書カフェ店をはじめました~もふもふや不思議な人が集う場所
なかじまあゆこ
キャラ文芸
真理子とみどり沖縄で古書カフェ店をはじめました!そこにやって来るお客様は不思議な動物や人達でした。
真理子はある日『沖縄で夢を売りませんか? 古書カフェ店の雇われ店長募集。もふもふ』と書かれている張り紙を見つけた。その張り紙を見た真理子は、店長にどうしてもなりたいと強く思った。
友達のみどりと一緒に古書カフェ店の店長として働くことになった真理子だけど……。雇い主は猫に似た不思議な雰囲気の漂う男性だった。
ドジな真理子としっかり者のみどりの沖縄古書カフェに集まる不思議な動物や人達のちょっと不思議な物語です。
どうぞよろしくお願いします(^-^)/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる