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ウサギとアリス
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「山崎、何も説明していないのか!」
「なにを怒っているんだアリス」
「いや、いい! 私は人を見た目で判断するような人間の依頼を受けるつもりは無い」
目の前で繰り広げられる会話についていけず、圭介の頭に疑問符が浮かぶ。
「あれ、谷村さん聞いてませんでした?」
山崎の問いに圭介がきょとんとする。
その顔をみて山崎が額を手で押さえる。
「まぁしょうがねぇじゃないか、いつものことだろアリス」
それからひとりで言い訳めいた言葉をぶつくさ呟くと、苦笑いを浮かべて、今度は機嫌を取るようにアリスに向かってそう言った。
「いつものこと?」
疑問符がさらに増える。
「こういう輩だから、たいしたことでもないのに大げさに怖がるんだ。だいたい霊象があるということは、この者に落ち度があるのかもしれん。そんな者をわざわざ私が助ける必要などない」
「そういうなって」
圭介はそこでようやく疑問符が感嘆符に変わった。
「まさか、この子が霊能力者!」
突然上がった圭介の声に、言い争っていた二人が同時に振り返った。
「そうです」
「そうだ」
圭介はあんぐりと口をあけたまま、ガクリと肩を落とす。
「もういいです」
確かに見た目は天使みたいな容姿をしているが、こんな年端も行かない子供にすごい力が備わっているとは思えない、どちらかといえばまだ山崎のほうが山伏みたいで貫禄がある。
肩を落とした圭介に、少女らしからぬ冷たい声音が響く。
「私が霊能力者だと不満なのか」
不満もなにも、圭介は吐き捨てるように言った。
「僕は追い詰められているんです、茶番に付き合っている場合じゃないんです」
ついもらした本音に、今までかわいらしい天使の様だった顔に、子悪魔のような冷笑が浮かぶ。
「どこまでもおろかな。その目で確かめなければ信じられないというのだな」
そういうと彼女は、この部屋に入ってきた時からずっと抱きしめるように抱えていた白いウサギのぬいぐるみを、圭介の目の前に突き出した。
ただならぬ迫力に思わず身を引く。
「では、昨日のお前の行動を言い当ててやれば納得するか」
「アリス……」
山崎の呆れたような言葉と、もう何を言ってもきかないだろうなというようなあきらめのこもった嘆息が聞こえた。
状況がまだ呑み込めていない圭介にはお構いなしに、アリスはおもむろに突きつけたウサギのぬいぐるみに顔を埋めた。
モフモフのウサギの毛の中に顔をうずめるアリスをみて、さらにわけがわからなく困惑する。
「はうぅ」
愛猫の腹の匂いを嗅いでご満悦した飼い主のように、ほんのりと頬を染めたアリスがウサギのぬいぐるみから顔をあげる。そして圭介を真っすぐに指さすと、ニヤリと意地悪気な笑みを浮かべたのだった。
「なにを怒っているんだアリス」
「いや、いい! 私は人を見た目で判断するような人間の依頼を受けるつもりは無い」
目の前で繰り広げられる会話についていけず、圭介の頭に疑問符が浮かぶ。
「あれ、谷村さん聞いてませんでした?」
山崎の問いに圭介がきょとんとする。
その顔をみて山崎が額を手で押さえる。
「まぁしょうがねぇじゃないか、いつものことだろアリス」
それからひとりで言い訳めいた言葉をぶつくさ呟くと、苦笑いを浮かべて、今度は機嫌を取るようにアリスに向かってそう言った。
「いつものこと?」
疑問符がさらに増える。
「こういう輩だから、たいしたことでもないのに大げさに怖がるんだ。だいたい霊象があるということは、この者に落ち度があるのかもしれん。そんな者をわざわざ私が助ける必要などない」
「そういうなって」
圭介はそこでようやく疑問符が感嘆符に変わった。
「まさか、この子が霊能力者!」
突然上がった圭介の声に、言い争っていた二人が同時に振り返った。
「そうです」
「そうだ」
圭介はあんぐりと口をあけたまま、ガクリと肩を落とす。
「もういいです」
確かに見た目は天使みたいな容姿をしているが、こんな年端も行かない子供にすごい力が備わっているとは思えない、どちらかといえばまだ山崎のほうが山伏みたいで貫禄がある。
肩を落とした圭介に、少女らしからぬ冷たい声音が響く。
「私が霊能力者だと不満なのか」
不満もなにも、圭介は吐き捨てるように言った。
「僕は追い詰められているんです、茶番に付き合っている場合じゃないんです」
ついもらした本音に、今までかわいらしい天使の様だった顔に、子悪魔のような冷笑が浮かぶ。
「どこまでもおろかな。その目で確かめなければ信じられないというのだな」
そういうと彼女は、この部屋に入ってきた時からずっと抱きしめるように抱えていた白いウサギのぬいぐるみを、圭介の目の前に突き出した。
ただならぬ迫力に思わず身を引く。
「では、昨日のお前の行動を言い当ててやれば納得するか」
「アリス……」
山崎の呆れたような言葉と、もう何を言ってもきかないだろうなというようなあきらめのこもった嘆息が聞こえた。
状況がまだ呑み込めていない圭介にはお構いなしに、アリスはおもむろに突きつけたウサギのぬいぐるみに顔を埋めた。
モフモフのウサギの毛の中に顔をうずめるアリスをみて、さらにわけがわからなく困惑する。
「はうぅ」
愛猫の腹の匂いを嗅いでご満悦した飼い主のように、ほんのりと頬を染めたアリスがウサギのぬいぐるみから顔をあげる。そして圭介を真っすぐに指さすと、ニヤリと意地悪気な笑みを浮かべたのだった。
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