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霊能力者がいるぬいぐるみ店
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「あぁ、私はこの下の店の店長代理で、専門はぬいぐるみ作りですから、お払いや供養はできませんよ」
しかし圭介の熱い視線に気が付いた山崎は、そんな圭介の期待を一刀両断する。
「えっ、山崎さんが除霊してくれるんじゃないんですか」
金剛杖をつきながら、山でほら貝を吹いている山伏みたいに頼もしく見えてきていたのにと、明らかにがっかりする。
「まさか、じゃあ下にいた……」
「マコちゃんは、ここのぬいぐるみの洋服デザイナーです」
圭介の心を読んだかのように、山崎が訊かれるまえにこたえた。
でもそれには至極納得した。山崎があのふわふわな可愛らしいぬいぐるみを作っているのは、少し信じがたかったが、あのロリータファッションの服や小物が、彼女の作品だということは納得できた。
それと同時にまだ見ぬ霊能力者に期待をいだく。
それから改めて申込書に、今度は真剣に目を通す。
「じゃあ今のうちに、申込書のとこ記入しておいてください」
そんな圭介の態度を了解と取ったのか、山崎はサインペンを差し出した。
ペンを置かれた圭介は、再び不安に襲われる。
「その申込書は調査依頼のサインで、もちろん調査は無料でやっています」
圭介の不安を読み取ったのだろう、山崎が続けた。
「だから今それにサインしたところで、費用は一切発生しませんから、安心していいですよ。そして調査した後で最終的なやり方や、見積もりを話し合ってから正式に契約にうつりますので」
しかしそれでも圭介はペンを取らず、「あの、もし正式に契約するとなると、どれくらいかかるんですか」
上目遣いに尋ねた。
金額によっては、除霊をしてもらいたいと思っても、申し込むことはできないかもしれない。
「せっかく無料で見てもらっても、お金が払えなくて断るのは申し訳ないので」
そんなことを心配する圭介を珍しい動物でも見るように山崎は眺める。
「今払っている家賃より大きく上回るようなら……」
ブツブツと考える圭介はそんな山崎の視線に気が付かない。
「あぁ、まあ現状見ないことにはなんともいえませんけど」
自分勝手な客ばかり見てきた山崎は、そんな圭介を目を細めながら眺めると、いきなりくだけた口調で話し出した。
「電話の内容を聞いた限りだと、一万円~五万円ですむと思います」
大まかな金額だったが、そう聞いて圭介は胸を撫で下ろした。
「それなら、どうにかなりそうです」
「あと除霊しても効果がないようなら、いただいた料金も全額返すことになっているので安心してください」
いいとこだろここ。といわんばかりに山崎はウインクしてみせた。
圭介がハハッと愛想笑いを浮かべる。
いままで除霊やら供養やらそういうことを口にする人間を、詐欺師か怪しい宗教の勧誘者ぐらいだと思って生きてきたのだ。またそういう人間と自分が関わることなど一生ないと信じていた。それがまさか自分からそういった類の人間に、助けを求めなければならないような状況に追い込まれる日がこようとは。
目の前の山崎という店員は、見た目は厳ついが少し話してみると、良い人のように思える。それでもその霊能力者という人を見るまではいまひとつ信用しきれない気持ちもあった。
「谷村さん、まだ時間大丈夫ですか?」
「はい」
「たぶんもうすぐ帰ってくるはずなので、直接話してもらった方がよいかと」
「大丈夫です、今日は何も予定は入っていませんから」
その時店の扉についている鈴が、『カラン、コロン』と小気味よい音を響かせた。
しばらくすると、トントンと階段を上がってくる軽やかな足音が耳に届いた。
(――ん?)
妙に軽いその足音に、圭介は眉を寄せた。
(霊能力者?)
それにしてはまるで階段を跳ねるように上がってくるこの上り方は、大人のそれというよりまるで……。
何かを思い浮かびた時、
「ただいま」
圭介の思考を中断させるように、ガラリと廊下側の襖が開いた。
しかし圭介の熱い視線に気が付いた山崎は、そんな圭介の期待を一刀両断する。
「えっ、山崎さんが除霊してくれるんじゃないんですか」
金剛杖をつきながら、山でほら貝を吹いている山伏みたいに頼もしく見えてきていたのにと、明らかにがっかりする。
「まさか、じゃあ下にいた……」
「マコちゃんは、ここのぬいぐるみの洋服デザイナーです」
圭介の心を読んだかのように、山崎が訊かれるまえにこたえた。
でもそれには至極納得した。山崎があのふわふわな可愛らしいぬいぐるみを作っているのは、少し信じがたかったが、あのロリータファッションの服や小物が、彼女の作品だということは納得できた。
それと同時にまだ見ぬ霊能力者に期待をいだく。
それから改めて申込書に、今度は真剣に目を通す。
「じゃあ今のうちに、申込書のとこ記入しておいてください」
そんな圭介の態度を了解と取ったのか、山崎はサインペンを差し出した。
ペンを置かれた圭介は、再び不安に襲われる。
「その申込書は調査依頼のサインで、もちろん調査は無料でやっています」
圭介の不安を読み取ったのだろう、山崎が続けた。
「だから今それにサインしたところで、費用は一切発生しませんから、安心していいですよ。そして調査した後で最終的なやり方や、見積もりを話し合ってから正式に契約にうつりますので」
しかしそれでも圭介はペンを取らず、「あの、もし正式に契約するとなると、どれくらいかかるんですか」
上目遣いに尋ねた。
金額によっては、除霊をしてもらいたいと思っても、申し込むことはできないかもしれない。
「せっかく無料で見てもらっても、お金が払えなくて断るのは申し訳ないので」
そんなことを心配する圭介を珍しい動物でも見るように山崎は眺める。
「今払っている家賃より大きく上回るようなら……」
ブツブツと考える圭介はそんな山崎の視線に気が付かない。
「あぁ、まあ現状見ないことにはなんともいえませんけど」
自分勝手な客ばかり見てきた山崎は、そんな圭介を目を細めながら眺めると、いきなりくだけた口調で話し出した。
「電話の内容を聞いた限りだと、一万円~五万円ですむと思います」
大まかな金額だったが、そう聞いて圭介は胸を撫で下ろした。
「それなら、どうにかなりそうです」
「あと除霊しても効果がないようなら、いただいた料金も全額返すことになっているので安心してください」
いいとこだろここ。といわんばかりに山崎はウインクしてみせた。
圭介がハハッと愛想笑いを浮かべる。
いままで除霊やら供養やらそういうことを口にする人間を、詐欺師か怪しい宗教の勧誘者ぐらいだと思って生きてきたのだ。またそういう人間と自分が関わることなど一生ないと信じていた。それがまさか自分からそういった類の人間に、助けを求めなければならないような状況に追い込まれる日がこようとは。
目の前の山崎という店員は、見た目は厳ついが少し話してみると、良い人のように思える。それでもその霊能力者という人を見るまではいまひとつ信用しきれない気持ちもあった。
「谷村さん、まだ時間大丈夫ですか?」
「はい」
「たぶんもうすぐ帰ってくるはずなので、直接話してもらった方がよいかと」
「大丈夫です、今日は何も予定は入っていませんから」
その時店の扉についている鈴が、『カラン、コロン』と小気味よい音を響かせた。
しばらくすると、トントンと階段を上がってくる軽やかな足音が耳に届いた。
(――ん?)
妙に軽いその足音に、圭介は眉を寄せた。
(霊能力者?)
それにしてはまるで階段を跳ねるように上がってくるこの上り方は、大人のそれというよりまるで……。
何かを思い浮かびた時、
「ただいま」
圭介の思考を中断させるように、ガラリと廊下側の襖が開いた。
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