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17 新たな出発
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それから彼女は葬式やお通夜、その他もろもろの手続きで数週間大学もバイトも休んだ。
「いつまでも暗い顔すんなよ、お前がそんなんじゃ、誰が彼女を励ますんだよ」
もう何度目かになる賢治の言葉を聞きながら、僕はあいまいな愛想笑いを浮かべた。
お葬式には行ったが、所詮僕は赤の他人だった。彼女のために手伝えることなど何一つないのだ。
「ったく、あっ、裕介、あれ」
賢治の言葉に顔を上げると、そこには久美の姿があった。
「ちょっといい」
仁王立ちで僕の前に立つ姿は、まるで初めて会ったと時のような、傲慢なまでに偉そうな態度で、僕に拒否権など与えてはくれそうになかった。
「どうぞ、どうぞ、連れて行ってください」
僕が答える前に、なぜか賢治がそう答える。
まだ一時間授業は残っていたが、僕らはまだ人の少ない学食に向かった。
初め彼女は事務的に、母親の死んだ日から今日までのことをざっと話して訊かせた。
彼女に会ったら言おうと思っていた言葉がたくさんあったが、彼女を見たとたん、それがどんな言葉だったのか、なにも思い出せなくなってしまった僕は、ただ、彼女の言葉を黙って聞いていた。
出会いは最悪だった。途中もこの偉そうな態度にずいぶん振り回された。でも今はこの誰も寄せ付けない傲慢な態度も肩肘を張った生き方も──嫌いじゃない。
なんなら全身の毛を逆立て威嚇する子猫のようだとさえ思える。
「なんだかんだ、あなたには世話になったわ。母も、私以外の人と話すこともほとんどなかったから、最後はきっとあなたと話せて楽しかったと思うわ」
あの久美が、僕にお礼を述べているのか?
僕はまじまじと彼女の顔を見詰めた。
「ねぇ、ここのランチなにがおすすめなの?」
唐突に彼女がそう聞いた。
「Aランチ」
僕もとっさに答えていた。
すると彼女はすくっと立ち上がると、お盆を取りAランチ二つと頼んだ。
あっけに取られている僕の前に「はい」っといってAランチを置く。
「私、この学校はいって、一度も学食食べたことないのよね」
彼女は笑いながらそんなことをいいながら、自分で買ったAランチを口にする。
『ばなな姫』彼女はいつもバナナを食べていた。安くて栄養もあるバナナは、母親の入院費と算出すための彼女なりの節約法だった。
それを僕は猿だなんて。
「ねぇ、今度のグループレポートいっしょにやらない?」
まだ誰も解明できていない難病に対しての研究がテーマで、難しすぎて誰も一緒に組んでくれないらしい。
「奇遇だね。僕もちょうどそれについて調べていた最中なんだ」
僕はそう言ってほほ笑んだ。
「いつまでも暗い顔すんなよ、お前がそんなんじゃ、誰が彼女を励ますんだよ」
もう何度目かになる賢治の言葉を聞きながら、僕はあいまいな愛想笑いを浮かべた。
お葬式には行ったが、所詮僕は赤の他人だった。彼女のために手伝えることなど何一つないのだ。
「ったく、あっ、裕介、あれ」
賢治の言葉に顔を上げると、そこには久美の姿があった。
「ちょっといい」
仁王立ちで僕の前に立つ姿は、まるで初めて会ったと時のような、傲慢なまでに偉そうな態度で、僕に拒否権など与えてはくれそうになかった。
「どうぞ、どうぞ、連れて行ってください」
僕が答える前に、なぜか賢治がそう答える。
まだ一時間授業は残っていたが、僕らはまだ人の少ない学食に向かった。
初め彼女は事務的に、母親の死んだ日から今日までのことをざっと話して訊かせた。
彼女に会ったら言おうと思っていた言葉がたくさんあったが、彼女を見たとたん、それがどんな言葉だったのか、なにも思い出せなくなってしまった僕は、ただ、彼女の言葉を黙って聞いていた。
出会いは最悪だった。途中もこの偉そうな態度にずいぶん振り回された。でも今はこの誰も寄せ付けない傲慢な態度も肩肘を張った生き方も──嫌いじゃない。
なんなら全身の毛を逆立て威嚇する子猫のようだとさえ思える。
「なんだかんだ、あなたには世話になったわ。母も、私以外の人と話すこともほとんどなかったから、最後はきっとあなたと話せて楽しかったと思うわ」
あの久美が、僕にお礼を述べているのか?
僕はまじまじと彼女の顔を見詰めた。
「ねぇ、ここのランチなにがおすすめなの?」
唐突に彼女がそう聞いた。
「Aランチ」
僕もとっさに答えていた。
すると彼女はすくっと立ち上がると、お盆を取りAランチ二つと頼んだ。
あっけに取られている僕の前に「はい」っといってAランチを置く。
「私、この学校はいって、一度も学食食べたことないのよね」
彼女は笑いながらそんなことをいいながら、自分で買ったAランチを口にする。
『ばなな姫』彼女はいつもバナナを食べていた。安くて栄養もあるバナナは、母親の入院費と算出すための彼女なりの節約法だった。
それを僕は猿だなんて。
「ねぇ、今度のグループレポートいっしょにやらない?」
まだ誰も解明できていない難病に対しての研究がテーマで、難しすぎて誰も一緒に組んでくれないらしい。
「奇遇だね。僕もちょうどそれについて調べていた最中なんだ」
僕はそう言ってほほ笑んだ。
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