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4 エリとサヤ

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「あの祐介さん──」

 エリが何か言いかけた時、店の奥で激しい怒声が上がった。

「なんなんだこの店は!」
「うちはお客様のような方を相手にするような店ではないんです」

 スラリとしたスレンダーな体形。
 軽くカールがかかった長い明るい茶髪の髪をアップにした、いかにも水商売という格好をした女性が、手を振り上げたその客の手を逆につかみ上げると後ろにひねり上げた。
 まさか反撃されると思っていなかった客が「痛てて!」と悲鳴を上げる。

「サヤさんっ」

 エリが口元を抑えてそう呟いた。そうこうしているうちに、沢山の黒服とオーナーらしき人が集まってきて事態は終息した。

 そうして店からは各テーブルに「お詫びのしるし」として高そうなお酒が配られた。
 賢治と二人の女の子はおごりだと届けられたお酒におおはしゃぎである。

 しかしエリだけが、黒服に連れいかれたサヤという女性を心配してるのか、気持ち青ざめた顔をしたままだった。

「彼女が心配?」

 エリが困ったような表情を浮かべる。

「実はもう二回目なんです、きっと辞めさせられてしまいます」

 理由はどうあれ、客に対してあの態度はどうかと思うぞと思ったが……

「たぶんサヤさんまた誰か助けたんです」
「助けた?」
「はい、前の時も私が酔ったお客様にしつこく言い寄られているのを見かねて、お客さまと口論になってしまって」

 でもこういう店だ、ある程度しかたないのでは。でもそれと同時に思う、もし目の前でエリが酔っ払いにいいよられ、今のように血の気の引いた怯えた表情をしていたら、僕はこういう店で働いているのだからとみて見ぬ振りができるのだろうか。

「なんでエリちゃんはここで働いているの?」

 たぶんエリにはこの世界は似合わない、もっと口も立ち回りのうまい、そう今目の前で賢治を褒め散らかして、いいカモとして金をむしり取れるような子でないとここでは生きていけないと思った。

「それは……」
「まぁ話したくないならいいんだけど」

 これで遊ぶお金が欲しいとか言われたらある意味僕がショックを受けそうだ。
 しかし少しためらった後エリはぽつりぽつりと話してくれた。
 
 祖父の病気のこと、その入院費のこと。
 そして手術を受けたいがどこに頼っていいかわからずそれを相談しようとさっきしていたことなど。

 僕は話を聞きなながら、どこかほっとしたような、そんな気がした。
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