3 / 17
3 誕生会
しおりを挟む
「ハッピーバースディー祐介」
そういうと賢治は僕の首に腕を回し、耳元で言った。
「どうせ祝ってくれる彼女なんていないだろう」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた賢治に、でもその通りなので言い返せない。
「そんな祐介君を祝って、今日は俺が高級クラブに連れて行ってあげよう」
「いかないよ、そんなところ」
「また、本当は興味あるんだろ」
ウッと言葉に詰まる、またまた言い返せない。
「それに、これは社会勉強だ、これからはそういう世界を知っておくのも医者になるためには必要だと思うよ」
なぜか胸を張る賢治を白い目で見ながらも、まんまと丸め込まれ僕は人生で初めてクラブなるところに足を運ぶことになった。しかし──
「ここキャバクラじゃないのか?」
きらびやかな装飾のほどこされた怪しい扉の前で僕は立ち止まった。
壁には番号のついた可愛らしい女の子たちの写真が飾られている。
「どっちも同じようなものだろ」
賢治はそういうと、ここまできて帰らないよなとばかりに肩を組む。
別に女の子に興味がないわけではない、彼女だっていたことはある、しかしこういう店で働いている女性には少し抵抗があった。
だが後から来た客に半ば押しだされるような形で、結局僕たちは店の中に入ってしまった。
「どうだ、すごいだろ」
僕と賢治を挟むように女の子が三人席に着く。
「一杯だけ付き合ってやる」
すでに女の子と話だした賢治は、むすっとした顔の僕にハイハイと言うように手をパタつかせた。
誕生日を祝ってくれるという話ではなかったのか?
「まったく、自分が来たかっただけじゃないのか」
なかばあきれながら、とりあえず目の前に注がれたビールを一口飲む。
「……」
根が真面目な僕は20歳前にお酒は飲んだことがない。
そう、これが人生初めてのアルコールだった。
「苦いの苦手? これなら飲みやすいよ」
表情にでていたのだろう。隣に座っていた女性がいくつかカクテルを進めてくれた。賢治側にいる二人とは違って、衣装こそ派手だがどこかこの場にそぐわない可憐な女性だった。
「あ、おいしい」
新しく運ばれてきたカルーアミルクの甘さに素直に感想をこぼした僕に、それを進めてくれた彼女がクスリと笑う。
「あの、名前は……」
初めに自己紹介したのに、その時はすぐ帰るつもりだったので、頭に残ってなかった。申し訳なさそうに尋ねる。
「エリです」
「エリちゃん……」
ようやく何か話せそうな感じになった時
「そう、俺たち医者のたまご」
賢治が突然僕の首に腕を回して自分の方に引き寄せた。
「へー、すごーい」
賢治と話していた彼女たちの声が1オクターブ高くなる。
「何科なんですか?」
「俺は整形外科予定。もしなおしたいとこあったら俺のとこにおいで」
「じゃあ今度ヒアルロン酸打ってよ」
「私はいまのままで可愛いから、いいかな」
キャピキャピとした女性たちの声とガハガハと笑う賢治の声が耳にうるさい。
僕は強く賢治を押し返した。
「あの、祐介さんもお医者さんのたまごなんですか」
エリが上目づかいでそう問いかける。
まさかエリも医者のたまごだとわかったとたん、あの二人のように甘えた声をだしてくるのか。
僕は少し冷ややかに視線を返したがそんな僕のことなど気にもせず、エリは真剣な顔で一歩近づいた。
そういうと賢治は僕の首に腕を回し、耳元で言った。
「どうせ祝ってくれる彼女なんていないだろう」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた賢治に、でもその通りなので言い返せない。
「そんな祐介君を祝って、今日は俺が高級クラブに連れて行ってあげよう」
「いかないよ、そんなところ」
「また、本当は興味あるんだろ」
ウッと言葉に詰まる、またまた言い返せない。
「それに、これは社会勉強だ、これからはそういう世界を知っておくのも医者になるためには必要だと思うよ」
なぜか胸を張る賢治を白い目で見ながらも、まんまと丸め込まれ僕は人生で初めてクラブなるところに足を運ぶことになった。しかし──
「ここキャバクラじゃないのか?」
きらびやかな装飾のほどこされた怪しい扉の前で僕は立ち止まった。
壁には番号のついた可愛らしい女の子たちの写真が飾られている。
「どっちも同じようなものだろ」
賢治はそういうと、ここまできて帰らないよなとばかりに肩を組む。
別に女の子に興味がないわけではない、彼女だっていたことはある、しかしこういう店で働いている女性には少し抵抗があった。
だが後から来た客に半ば押しだされるような形で、結局僕たちは店の中に入ってしまった。
「どうだ、すごいだろ」
僕と賢治を挟むように女の子が三人席に着く。
「一杯だけ付き合ってやる」
すでに女の子と話だした賢治は、むすっとした顔の僕にハイハイと言うように手をパタつかせた。
誕生日を祝ってくれるという話ではなかったのか?
「まったく、自分が来たかっただけじゃないのか」
なかばあきれながら、とりあえず目の前に注がれたビールを一口飲む。
「……」
根が真面目な僕は20歳前にお酒は飲んだことがない。
そう、これが人生初めてのアルコールだった。
「苦いの苦手? これなら飲みやすいよ」
表情にでていたのだろう。隣に座っていた女性がいくつかカクテルを進めてくれた。賢治側にいる二人とは違って、衣装こそ派手だがどこかこの場にそぐわない可憐な女性だった。
「あ、おいしい」
新しく運ばれてきたカルーアミルクの甘さに素直に感想をこぼした僕に、それを進めてくれた彼女がクスリと笑う。
「あの、名前は……」
初めに自己紹介したのに、その時はすぐ帰るつもりだったので、頭に残ってなかった。申し訳なさそうに尋ねる。
「エリです」
「エリちゃん……」
ようやく何か話せそうな感じになった時
「そう、俺たち医者のたまご」
賢治が突然僕の首に腕を回して自分の方に引き寄せた。
「へー、すごーい」
賢治と話していた彼女たちの声が1オクターブ高くなる。
「何科なんですか?」
「俺は整形外科予定。もしなおしたいとこあったら俺のとこにおいで」
「じゃあ今度ヒアルロン酸打ってよ」
「私はいまのままで可愛いから、いいかな」
キャピキャピとした女性たちの声とガハガハと笑う賢治の声が耳にうるさい。
僕は強く賢治を押し返した。
「あの、祐介さんもお医者さんのたまごなんですか」
エリが上目づかいでそう問いかける。
まさかエリも医者のたまごだとわかったとたん、あの二人のように甘えた声をだしてくるのか。
僕は少し冷ややかに視線を返したがそんな僕のことなど気にもせず、エリは真剣な顔で一歩近づいた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
かあさん、東京は怖いところです。
木村
ライト文芸
桜川朱莉(さくらがわ あかり)は高校入学のために単身上京し、今まで一度も会ったことのないおじさん、五言時絶海(ごごんじ ぜっかい)の家に居候することになる。しかしそこで彼が五言時組の組長だったことや、桜川家は警察一族(影では桜川組と呼ばれるほどの武闘派揃い)と知る。
「知らないわよ、そんなの!」
東京を舞台に佐渡島出身の女子高生があれやこれやする青春コメディー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる