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2 ばなな姫
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お昼休み、賢治と二人で学食に行くと、賢治が僕を肘で突付いて指差した。指された方向をみるとそこには数人の男女と共に食事をとっている彼女の姿が見えた。
他の生徒は皆学食を食べているのに対し確かに彼女はバナナを食べていた。
いや正確にはすでに食べ終わっていて、テーブルの横に置かれたバナナの皮がそれを物語っていた。
彼女が何か話すたび笑い声が聞こえる。
「あーかわいいな、久美ちゃん」
「そうか、俺にはただのおしゃべりな猿にしか見えんが」
食堂の奥にいるおばちゃんにAランチ一つと声をかける。「お前にマジかよ」と呆れたように眉に皺を寄ながら、「俺もAね」と横から顔をだす。
「賢治こそ一度眼科で見てもらえ、そしたら彼女の正体がわかるから」
「祐介こそさっきこけた時、腰だけじゃなく頭も打ったんじゃないか?」
「ねぇ、誰の正体がわかるの?」
「だから、あの猿女」
「……裕介」
賢治の慌てた声に思わず振り返る。
「あっ……」
そこにはさっきまで友達と楽しくおしゃべりしていたはずの、あの猿女もとい久美の姿があった。
「私けっこう猿、好きよ」
右手に握り締められたバナナが、普段より大きな曲線を描いている。
「これさっきのお詫び、どうぞ」
そしてその大きく曲がったバナナを僕のトレーに彼女は無造作に置いた。
「あっ、おい待てよ!」
「なに?」
顔は笑っているが声に怒気が含まれている。
「あ、ありがと」
その迫力におもわずそう言う。本当はこんな握り締められたバナナなど食べたくないのだが。
「いえ」
僕に向かってニコリと微笑むと振り返ることなく食堂を出て行った。きっと漫画なら彼女の額には怒りマークが見えただろう。
「あー久美ちゃん、俺はそんなことこれっぽっちも思ってないよ」
立ち去る彼女の背中に賢治がそんなことを叫んでいた。
「これ、どうすればいいんだよ」
食べ物を粗末にしてはいけない。
不自然に曲がったバナナを食べるべきかどうするべきか悩んだすえ、賢治のトレーにそっと乗せる。
「えっ。くれるの?」
賢治は彼女の手の形につぶれたバナナを喜んで食べたのだった。
他の生徒は皆学食を食べているのに対し確かに彼女はバナナを食べていた。
いや正確にはすでに食べ終わっていて、テーブルの横に置かれたバナナの皮がそれを物語っていた。
彼女が何か話すたび笑い声が聞こえる。
「あーかわいいな、久美ちゃん」
「そうか、俺にはただのおしゃべりな猿にしか見えんが」
食堂の奥にいるおばちゃんにAランチ一つと声をかける。「お前にマジかよ」と呆れたように眉に皺を寄ながら、「俺もAね」と横から顔をだす。
「賢治こそ一度眼科で見てもらえ、そしたら彼女の正体がわかるから」
「祐介こそさっきこけた時、腰だけじゃなく頭も打ったんじゃないか?」
「ねぇ、誰の正体がわかるの?」
「だから、あの猿女」
「……裕介」
賢治の慌てた声に思わず振り返る。
「あっ……」
そこにはさっきまで友達と楽しくおしゃべりしていたはずの、あの猿女もとい久美の姿があった。
「私けっこう猿、好きよ」
右手に握り締められたバナナが、普段より大きな曲線を描いている。
「これさっきのお詫び、どうぞ」
そしてその大きく曲がったバナナを僕のトレーに彼女は無造作に置いた。
「あっ、おい待てよ!」
「なに?」
顔は笑っているが声に怒気が含まれている。
「あ、ありがと」
その迫力におもわずそう言う。本当はこんな握り締められたバナナなど食べたくないのだが。
「いえ」
僕に向かってニコリと微笑むと振り返ることなく食堂を出て行った。きっと漫画なら彼女の額には怒りマークが見えただろう。
「あー久美ちゃん、俺はそんなことこれっぽっちも思ってないよ」
立ち去る彼女の背中に賢治がそんなことを叫んでいた。
「これ、どうすればいいんだよ」
食べ物を粗末にしてはいけない。
不自然に曲がったバナナを食べるべきかどうするべきか悩んだすえ、賢治のトレーにそっと乗せる。
「えっ。くれるの?」
賢治は彼女の手の形につぶれたバナナを喜んで食べたのだった。
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