133 / 147
最終章 一度目のその先へ
回想
しおりを挟む
~回想~
祭りにはしゃいで遊び疲れ眠ってしまったルナの息子のクレセントを、父親であるクリスに受け渡すと、ユアンは大きく腕を伸ばした。
屋台の立ち並ぶ港から、そんな距離はなかったがずっと抱きかかえて教会まで歩いて来たので、腕が悲鳴をあげていた。
「義兄さん、今日はルナとクレセントを祭りに連れて行ってくださり、ありがとうございました」
「本当に助かりました。私一人では手に負えなかったから。でもお兄様、メアリー姉様を一人にして本当に大丈夫でしたの?」
クリスが息子を教会の奥に寝かしつけに行ってる間、ルナが申し訳なさそうにそうたずねた。
教会の勤めで忙しいクリスに変わって、ルナとクレセントを祭りに連れていくと言ったのはユアンだった。
「あぁ。本当は気晴らしに、メアリーも一緒に来れたらよかったんだけど……」
少し疲れた顔で、でも笑顔で送り出してくれたメアリー思い浮かべながら、視線を落とす。
二度目の流産を経験したメアリー。体はもう回復はしていたが、気分転換に祭りに行こうと誘ったユアンの申し出をやんわりと断っていた。
「祭りで珍しい異国の食べ物を見つけたから、沢山お土産を買って帰るよ」
そう言って力なく笑みを浮かべると、ユアンは大きな体を揺らして、再び港へと向かった。
少しでも元気がでるように、メアリーの好きそうな小物や、初めて見る異国の食材や食べ物を買い込む。
その時十五時を知らせる教会の鐘が鳴るのを聞いた。ユアンもそれを聞いて最後に甘味でも食べて帰ろうかと、考えていたところに初めの揺れが来た。
それはいつもどおり微かな揺れではあったが、いつもより長く、まるで船に乗って揺られているような気持ち悪いものだった。
その揺れに珍しく食欲を無くしたユアンは、そのまますぐにメアリーの待つ屋敷に
帰ることにした。
市街地のはずれに待たせておいた馬車に乗り、学園よりさらに高台にある屋敷まで馬車で一時間弱。
馬車の中でメアリーに買ったお土産を整理していると、ドンと下から突き上げるような大きな衝撃に、せっかく並べたお土産が無残に馬車の中に散らばった。
その後もしばらく大きな揺れが続き、従者が馬を落ち着かせようとしているのが分かった。
時間にしたら三分も揺れなかっただろう。
しかしいままで体験したことのない大きな揺れに、ユアンは馬が落ち着くと急いで屋敷に向かうように指示を出した。
学園を通り過ぎ、ユアンの屋敷が見える手前に、街を見渡せる開けた場所があった。
馬車の中からふと街を見下ろすと、普段なら夕焼けが海に反射してキラキラと宝石のように煌めいて見える景色が今日は違っていた、街も海も全体がどんよりとした煙に包まれ、ところどころに赤やオレンジの炎がはじけて見えた。
(──ルナ!)
さっきまでルナたちと祭りを楽しんでいた街が燃えていたのだ。
ルナたちのことが頭をよぎる。でもいまからユアンが引き返したところで何ができるだろう。
「クリスは水魔法の使い手だからきっと大丈夫だ」
祈るようにそう言い聞かせる。それと同時に屋敷に一人残してきてしまったメアリーを想う。
「大丈夫だよね、メアリー」
不安を取り除くようにそう言って、メアリーのためにかったお土産を握りしめた。
祭りにはしゃいで遊び疲れ眠ってしまったルナの息子のクレセントを、父親であるクリスに受け渡すと、ユアンは大きく腕を伸ばした。
屋台の立ち並ぶ港から、そんな距離はなかったがずっと抱きかかえて教会まで歩いて来たので、腕が悲鳴をあげていた。
「義兄さん、今日はルナとクレセントを祭りに連れて行ってくださり、ありがとうございました」
「本当に助かりました。私一人では手に負えなかったから。でもお兄様、メアリー姉様を一人にして本当に大丈夫でしたの?」
クリスが息子を教会の奥に寝かしつけに行ってる間、ルナが申し訳なさそうにそうたずねた。
教会の勤めで忙しいクリスに変わって、ルナとクレセントを祭りに連れていくと言ったのはユアンだった。
「あぁ。本当は気晴らしに、メアリーも一緒に来れたらよかったんだけど……」
少し疲れた顔で、でも笑顔で送り出してくれたメアリー思い浮かべながら、視線を落とす。
二度目の流産を経験したメアリー。体はもう回復はしていたが、気分転換に祭りに行こうと誘ったユアンの申し出をやんわりと断っていた。
「祭りで珍しい異国の食べ物を見つけたから、沢山お土産を買って帰るよ」
そう言って力なく笑みを浮かべると、ユアンは大きな体を揺らして、再び港へと向かった。
少しでも元気がでるように、メアリーの好きそうな小物や、初めて見る異国の食材や食べ物を買い込む。
その時十五時を知らせる教会の鐘が鳴るのを聞いた。ユアンもそれを聞いて最後に甘味でも食べて帰ろうかと、考えていたところに初めの揺れが来た。
それはいつもどおり微かな揺れではあったが、いつもより長く、まるで船に乗って揺られているような気持ち悪いものだった。
その揺れに珍しく食欲を無くしたユアンは、そのまますぐにメアリーの待つ屋敷に
帰ることにした。
市街地のはずれに待たせておいた馬車に乗り、学園よりさらに高台にある屋敷まで馬車で一時間弱。
馬車の中でメアリーに買ったお土産を整理していると、ドンと下から突き上げるような大きな衝撃に、せっかく並べたお土産が無残に馬車の中に散らばった。
その後もしばらく大きな揺れが続き、従者が馬を落ち着かせようとしているのが分かった。
時間にしたら三分も揺れなかっただろう。
しかしいままで体験したことのない大きな揺れに、ユアンは馬が落ち着くと急いで屋敷に向かうように指示を出した。
学園を通り過ぎ、ユアンの屋敷が見える手前に、街を見渡せる開けた場所があった。
馬車の中からふと街を見下ろすと、普段なら夕焼けが海に反射してキラキラと宝石のように煌めいて見える景色が今日は違っていた、街も海も全体がどんよりとした煙に包まれ、ところどころに赤やオレンジの炎がはじけて見えた。
(──ルナ!)
さっきまでルナたちと祭りを楽しんでいた街が燃えていたのだ。
ルナたちのことが頭をよぎる。でもいまからユアンが引き返したところで何ができるだろう。
「クリスは水魔法の使い手だからきっと大丈夫だ」
祈るようにそう言い聞かせる。それと同時に屋敷に一人残してきてしまったメアリーを想う。
「大丈夫だよね、メアリー」
不安を取り除くようにそう言って、メアリーのためにかったお土産を握りしめた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
異世界転移したよ!
八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。
主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。
「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。
基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。
この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

150年後の敵国に転生した大将軍
mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。
ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。
彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。
それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。
『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。
他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる