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最終章 一度目のその先へ
回想
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~回想~
祭りにはしゃいで遊び疲れ眠ってしまったルナの息子のクレセントを、父親であるクリスに受け渡すと、ユアンは大きく腕を伸ばした。
屋台の立ち並ぶ港から、そんな距離はなかったがずっと抱きかかえて教会まで歩いて来たので、腕が悲鳴をあげていた。
「義兄さん、今日はルナとクレセントを祭りに連れて行ってくださり、ありがとうございました」
「本当に助かりました。私一人では手に負えなかったから。でもお兄様、メアリー姉様を一人にして本当に大丈夫でしたの?」
クリスが息子を教会の奥に寝かしつけに行ってる間、ルナが申し訳なさそうにそうたずねた。
教会の勤めで忙しいクリスに変わって、ルナとクレセントを祭りに連れていくと言ったのはユアンだった。
「あぁ。本当は気晴らしに、メアリーも一緒に来れたらよかったんだけど……」
少し疲れた顔で、でも笑顔で送り出してくれたメアリー思い浮かべながら、視線を落とす。
二度目の流産を経験したメアリー。体はもう回復はしていたが、気分転換に祭りに行こうと誘ったユアンの申し出をやんわりと断っていた。
「祭りで珍しい異国の食べ物を見つけたから、沢山お土産を買って帰るよ」
そう言って力なく笑みを浮かべると、ユアンは大きな体を揺らして、再び港へと向かった。
少しでも元気がでるように、メアリーの好きそうな小物や、初めて見る異国の食材や食べ物を買い込む。
その時十五時を知らせる教会の鐘が鳴るのを聞いた。ユアンもそれを聞いて最後に甘味でも食べて帰ろうかと、考えていたところに初めの揺れが来た。
それはいつもどおり微かな揺れではあったが、いつもより長く、まるで船に乗って揺られているような気持ち悪いものだった。
その揺れに珍しく食欲を無くしたユアンは、そのまますぐにメアリーの待つ屋敷に
帰ることにした。
市街地のはずれに待たせておいた馬車に乗り、学園よりさらに高台にある屋敷まで馬車で一時間弱。
馬車の中でメアリーに買ったお土産を整理していると、ドンと下から突き上げるような大きな衝撃に、せっかく並べたお土産が無残に馬車の中に散らばった。
その後もしばらく大きな揺れが続き、従者が馬を落ち着かせようとしているのが分かった。
時間にしたら三分も揺れなかっただろう。
しかしいままで体験したことのない大きな揺れに、ユアンは馬が落ち着くと急いで屋敷に向かうように指示を出した。
学園を通り過ぎ、ユアンの屋敷が見える手前に、街を見渡せる開けた場所があった。
馬車の中からふと街を見下ろすと、普段なら夕焼けが海に反射してキラキラと宝石のように煌めいて見える景色が今日は違っていた、街も海も全体がどんよりとした煙に包まれ、ところどころに赤やオレンジの炎がはじけて見えた。
(──ルナ!)
さっきまでルナたちと祭りを楽しんでいた街が燃えていたのだ。
ルナたちのことが頭をよぎる。でもいまからユアンが引き返したところで何ができるだろう。
「クリスは水魔法の使い手だからきっと大丈夫だ」
祈るようにそう言い聞かせる。それと同時に屋敷に一人残してきてしまったメアリーを想う。
「大丈夫だよね、メアリー」
不安を取り除くようにそう言って、メアリーのためにかったお土産を握りしめた。
祭りにはしゃいで遊び疲れ眠ってしまったルナの息子のクレセントを、父親であるクリスに受け渡すと、ユアンは大きく腕を伸ばした。
屋台の立ち並ぶ港から、そんな距離はなかったがずっと抱きかかえて教会まで歩いて来たので、腕が悲鳴をあげていた。
「義兄さん、今日はルナとクレセントを祭りに連れて行ってくださり、ありがとうございました」
「本当に助かりました。私一人では手に負えなかったから。でもお兄様、メアリー姉様を一人にして本当に大丈夫でしたの?」
クリスが息子を教会の奥に寝かしつけに行ってる間、ルナが申し訳なさそうにそうたずねた。
教会の勤めで忙しいクリスに変わって、ルナとクレセントを祭りに連れていくと言ったのはユアンだった。
「あぁ。本当は気晴らしに、メアリーも一緒に来れたらよかったんだけど……」
少し疲れた顔で、でも笑顔で送り出してくれたメアリー思い浮かべながら、視線を落とす。
二度目の流産を経験したメアリー。体はもう回復はしていたが、気分転換に祭りに行こうと誘ったユアンの申し出をやんわりと断っていた。
「祭りで珍しい異国の食べ物を見つけたから、沢山お土産を買って帰るよ」
そう言って力なく笑みを浮かべると、ユアンは大きな体を揺らして、再び港へと向かった。
少しでも元気がでるように、メアリーの好きそうな小物や、初めて見る異国の食材や食べ物を買い込む。
その時十五時を知らせる教会の鐘が鳴るのを聞いた。ユアンもそれを聞いて最後に甘味でも食べて帰ろうかと、考えていたところに初めの揺れが来た。
それはいつもどおり微かな揺れではあったが、いつもより長く、まるで船に乗って揺られているような気持ち悪いものだった。
その揺れに珍しく食欲を無くしたユアンは、そのまますぐにメアリーの待つ屋敷に
帰ることにした。
市街地のはずれに待たせておいた馬車に乗り、学園よりさらに高台にある屋敷まで馬車で一時間弱。
馬車の中でメアリーに買ったお土産を整理していると、ドンと下から突き上げるような大きな衝撃に、せっかく並べたお土産が無残に馬車の中に散らばった。
その後もしばらく大きな揺れが続き、従者が馬を落ち着かせようとしているのが分かった。
時間にしたら三分も揺れなかっただろう。
しかしいままで体験したことのない大きな揺れに、ユアンは馬が落ち着くと急いで屋敷に向かうように指示を出した。
学園を通り過ぎ、ユアンの屋敷が見える手前に、街を見渡せる開けた場所があった。
馬車の中からふと街を見下ろすと、普段なら夕焼けが海に反射してキラキラと宝石のように煌めいて見える景色が今日は違っていた、街も海も全体がどんよりとした煙に包まれ、ところどころに赤やオレンジの炎がはじけて見えた。
(──ルナ!)
さっきまでルナたちと祭りを楽しんでいた街が燃えていたのだ。
ルナたちのことが頭をよぎる。でもいまからユアンが引き返したところで何ができるだろう。
「クリスは水魔法の使い手だからきっと大丈夫だ」
祈るようにそう言い聞かせる。それと同時に屋敷に一人残してきてしまったメアリーを想う。
「大丈夫だよね、メアリー」
不安を取り除くようにそう言って、メアリーのためにかったお土産を握りしめた。
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