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最終章 一度目のその先へ
震災2
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空に空砲が上がる。
それからしばらくしてジジジという音と共に、各会場に青白い光が浮かび上がった。
さらに数分後二人の人物が魔法石から上空に映し出される。
だんだん鮮やかな色を付けていく映像。
そして声が届いた。
『愛するべき我が国の皆さん。今あなたたちは数年前には考えられなかった奇跡を目にしています。私の愛すべき王太子妃ローズマリーたち優秀な魔術師たちの研究により、魔力のないものでも使える魔法石の開発に成功しただけでなく、街には火を使わない安全な明かりが灯り、またいたるところに、いつでも飲める水場が設置されました。そしてさらには二つ以上の魔法を組み合わせることにより、こうして皆さんに映像を通して語り掛けることができるようになりました』
うんうんと頷くものがいる。
『私たちは国民であるあなた達が幸せに生活を送れるために努力を惜しまず改革をすすめていきます。そして何が起ころうと私たちはあなた達を守ることをここに誓います』
一度言葉を切る。それからレイモンはゆっくりと語りかけるように話し出した。
『最近みなさんも感じているように地震が頻発しています、みなさんも心配していることと思いますが、それについても私たちは対策を講じてきました』
確かに地震が頻発していることを気にしていた者たちは、その言葉に少し安心すると同時に、演説というには、なにか鬼気迫る訴えに少し不思議そうに映像の中の二人を見詰める。
「確かに最近地震多いから怖いよね」
「でも王太子さまたちが守ってくれるみたいよ」
「それに今日はたくさんの兵士や魔法師たちが街にいるから安心ね」
不安を間際らすようにあちこちでそんな声が聞こえてくる。
『神に祈りし日
災いを告げる鐘が鳴る
初めは小さく次に大きく』
突然レイモンドが詩のような言葉を読み上げた。しかしそれは何とも不吉でまがまがしいものであった。
『この詩は国の書物の中にあった古い占い師の言葉です。この予言とも言える詩がいつ起こることなのか、もう起こったことなのか分かりません、でも私は最近の地震からこの予言はまさにこれからのことではないかと考えています。だからどうか皆さん、私の思い違いかもしれません、でももし次に揺れが来たら、訓練だと思って私の指示に従ってくれませんか』
突然の申し出に、会場がざわめく。
まだレイモンドの言葉を理解できない者たちの耳に、その時十五時をつげる教会の鐘が響いた。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
誰もが固唾をのんで耳を澄ます。
そして全ての鐘が打ち終わり、一拍何も起こらないことにフッと体の力が抜けた時、まるでその瞬間を狙ったかのように、ユラリと台地が揺れた。
それは大きいとは言えないが、ユラリユラリとまるで波に遊ばれる船の上にいるようななんとも気持の悪い揺れ方だった。
ヒッと誰ともなく悲鳴が上がる。
次第にその揺れは激しさをました。ましたといっても屋台に広げられていた品物が少しだけ地面に落ちる程度の揺れではあったが、レイモンドの不吉な予言の後だったせいで、人々が青ざめた顔でたつすくむ。
『落ち着いてください。もう揺れはおさまっています』
ざわめく人々にその時凛とした声が届いた。
いつの間にか映像はレイモンド王太子とローズマリー王太子妃ではなく、別の令嬢にきり変わっていた。
『フーブル王国は、もしものためにいままで準備をしてきました。予言が今日を指しているとは限りませんが、万が一の次の揺れに備えて今からレイモンド王太子にかわり私が指揮を取るので私の指示に従って下さい』
強い口調だが、決して威圧的ではないやわらかな声音に、人々が我にかえり声の方に注意を向けた。
『王宮や魔法学園は保護魔法で覆われているので、決して建物の中からでないでください。耐震対策のされていない建物にいる方は、近くの広い場所に移動してください。そして市街地の皆さんは兵士や魔法師たちの誘導に従って、丘の上の麦畑まで移動をお願いします。市街地はこれまでできる限り補強はしてきましたが、倒壊する恐れのある建物もまだ多く残っています、なるべく細い道はさけ広い通りを歩いてください。倒壊した建物や火の手が見えた場合は、速やかに近くの兵士や魔法師たちに教えてください』
突然の避難指示に市街地の教会前の会場がざわめく。
メアリーの放送は、映像の見えないところでも音声だけ流されていた。
話をちゃんと聞いていなかったものや、事態を飲み込めないものが騒ぎ出す。
「なんだい、何が起こってるんだい」
「家に荷物を取りに帰りたい」
「こんなのいつもの揺れと変わらないだろ」
色々な声が上がる。
屋台が多く出ている港はある意味倒壊の恐れのある建物が少ないので、そこに留まろうとするものもいる。
『突然のことで不満があるとは思います。でも今だけは私たちを信じて避難をお願いします。なにごともなければ明日には、皆さんを家に送り届けることを約束します。どうか今は指示にしたがってください』
その時誰かが口を開いた。
「俺はメアリーちゃんに従うぜ。あの子は人をだましたりするような子じゃないからな」
「誰だよ、メアリーちゃんて」
「あら本当だ、よく見たら”ピローネ”二号店の奥さんじゃないか」
それからさきほどまで怪訝そうに映像を見ていた人々が「あら、本当だ。綺麗にきかざってるからどこぞのご令嬢かと思ってたわ」とまるで娘自慢でも始めるように口々に話出した。
「あの子の頼みならしかたない」
「そうだな、メアリーちゃんの頼みなら」
不安と不信だった人々の顔が徐々に穏やかなものに変わっていく、そんな周りの反応にメアリーを知らない人々も、「みんながそういうなら」という雰囲気が出てくる。
その時再び地面が揺れた、先ほどより小さかったが、それが合図になったかのように、人々が指示に従って避難を始めた。
それからしばらくしてジジジという音と共に、各会場に青白い光が浮かび上がった。
さらに数分後二人の人物が魔法石から上空に映し出される。
だんだん鮮やかな色を付けていく映像。
そして声が届いた。
『愛するべき我が国の皆さん。今あなたたちは数年前には考えられなかった奇跡を目にしています。私の愛すべき王太子妃ローズマリーたち優秀な魔術師たちの研究により、魔力のないものでも使える魔法石の開発に成功しただけでなく、街には火を使わない安全な明かりが灯り、またいたるところに、いつでも飲める水場が設置されました。そしてさらには二つ以上の魔法を組み合わせることにより、こうして皆さんに映像を通して語り掛けることができるようになりました』
うんうんと頷くものがいる。
『私たちは国民であるあなた達が幸せに生活を送れるために努力を惜しまず改革をすすめていきます。そして何が起ころうと私たちはあなた達を守ることをここに誓います』
一度言葉を切る。それからレイモンはゆっくりと語りかけるように話し出した。
『最近みなさんも感じているように地震が頻発しています、みなさんも心配していることと思いますが、それについても私たちは対策を講じてきました』
確かに地震が頻発していることを気にしていた者たちは、その言葉に少し安心すると同時に、演説というには、なにか鬼気迫る訴えに少し不思議そうに映像の中の二人を見詰める。
「確かに最近地震多いから怖いよね」
「でも王太子さまたちが守ってくれるみたいよ」
「それに今日はたくさんの兵士や魔法師たちが街にいるから安心ね」
不安を間際らすようにあちこちでそんな声が聞こえてくる。
『神に祈りし日
災いを告げる鐘が鳴る
初めは小さく次に大きく』
突然レイモンドが詩のような言葉を読み上げた。しかしそれは何とも不吉でまがまがしいものであった。
『この詩は国の書物の中にあった古い占い師の言葉です。この予言とも言える詩がいつ起こることなのか、もう起こったことなのか分かりません、でも私は最近の地震からこの予言はまさにこれからのことではないかと考えています。だからどうか皆さん、私の思い違いかもしれません、でももし次に揺れが来たら、訓練だと思って私の指示に従ってくれませんか』
突然の申し出に、会場がざわめく。
まだレイモンドの言葉を理解できない者たちの耳に、その時十五時をつげる教会の鐘が響いた。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
誰もが固唾をのんで耳を澄ます。
そして全ての鐘が打ち終わり、一拍何も起こらないことにフッと体の力が抜けた時、まるでその瞬間を狙ったかのように、ユラリと台地が揺れた。
それは大きいとは言えないが、ユラリユラリとまるで波に遊ばれる船の上にいるようななんとも気持の悪い揺れ方だった。
ヒッと誰ともなく悲鳴が上がる。
次第にその揺れは激しさをました。ましたといっても屋台に広げられていた品物が少しだけ地面に落ちる程度の揺れではあったが、レイモンドの不吉な予言の後だったせいで、人々が青ざめた顔でたつすくむ。
『落ち着いてください。もう揺れはおさまっています』
ざわめく人々にその時凛とした声が届いた。
いつの間にか映像はレイモンド王太子とローズマリー王太子妃ではなく、別の令嬢にきり変わっていた。
『フーブル王国は、もしものためにいままで準備をしてきました。予言が今日を指しているとは限りませんが、万が一の次の揺れに備えて今からレイモンド王太子にかわり私が指揮を取るので私の指示に従って下さい』
強い口調だが、決して威圧的ではないやわらかな声音に、人々が我にかえり声の方に注意を向けた。
『王宮や魔法学園は保護魔法で覆われているので、決して建物の中からでないでください。耐震対策のされていない建物にいる方は、近くの広い場所に移動してください。そして市街地の皆さんは兵士や魔法師たちの誘導に従って、丘の上の麦畑まで移動をお願いします。市街地はこれまでできる限り補強はしてきましたが、倒壊する恐れのある建物もまだ多く残っています、なるべく細い道はさけ広い通りを歩いてください。倒壊した建物や火の手が見えた場合は、速やかに近くの兵士や魔法師たちに教えてください』
突然の避難指示に市街地の教会前の会場がざわめく。
メアリーの放送は、映像の見えないところでも音声だけ流されていた。
話をちゃんと聞いていなかったものや、事態を飲み込めないものが騒ぎ出す。
「なんだい、何が起こってるんだい」
「家に荷物を取りに帰りたい」
「こんなのいつもの揺れと変わらないだろ」
色々な声が上がる。
屋台が多く出ている港はある意味倒壊の恐れのある建物が少ないので、そこに留まろうとするものもいる。
『突然のことで不満があるとは思います。でも今だけは私たちを信じて避難をお願いします。なにごともなければ明日には、皆さんを家に送り届けることを約束します。どうか今は指示にしたがってください』
その時誰かが口を開いた。
「俺はメアリーちゃんに従うぜ。あの子は人をだましたりするような子じゃないからな」
「誰だよ、メアリーちゃんて」
「あら本当だ、よく見たら”ピローネ”二号店の奥さんじゃないか」
それからさきほどまで怪訝そうに映像を見ていた人々が「あら、本当だ。綺麗にきかざってるからどこぞのご令嬢かと思ってたわ」とまるで娘自慢でも始めるように口々に話出した。
「あの子の頼みならしかたない」
「そうだな、メアリーちゃんの頼みなら」
不安と不信だった人々の顔が徐々に穏やかなものに変わっていく、そんな周りの反応にメアリーを知らない人々も、「みんながそういうなら」という雰囲気が出てくる。
その時再び地面が揺れた、先ほどより小さかったが、それが合図になったかのように、人々が指示に従って避難を始めた。
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