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第二章 青春をもう一度

生徒会のお仕事2

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「さて、どこにいるのか?」

 昨年のことを思い出そうとしたが、あの時はメアリーのことばかり気にしていて記憶がない、ならば前回の人生の時は……覚えているわけない。十年近く前の記憶だ。
 しばらく思案したのち出した結論は。

「昼には学食にくるだろう」

 塔の中にも食堂はいくつかあるのだが、ローズマリーたちが来るとすればここだろうと、王族や貴族たちがよく使う食堂の廊下の柱の陰に座り込む。
 そうして午前の授業が終わるのをひたすら待つ、やがてチャイムが鳴りがやがやと生徒たちが教室から出てきた。みな各自思い思いに散らばっていく。

 さあどうかな?様子を見ようと立ち上がったユアンの耳に、探すまでもなく聞き慣れた声が飛び込んできた。

「あなたたちにはここは不釣り合いですわ」

 放たれた一言に、ユアンも周りにいた生徒たちも注目する。
 食堂の入り口。今からそこに足を踏み入れようとしている三人の女生徒たちの前に仁王立ちで立ちるふさがるローズマリー。隣では驚いたような眼でそんなローズマリーを見詰めるメアリーの姿が見えた。

「何をいっているんだ!」

 思わずユアンが飛び出しそうになる。

 メアリーからの報告では、ローズマリーはもう大丈夫だという話だったのに。

(やはりそんなにすぐに人は変われないのか?)

 しかし次の瞬間。

「ごめんなさい。この食堂は誰でも使っていいのだけど、王族や裕福な貴族がよく使う食堂だから、コース料理しか置いてないの」
「そうですわ。安くておいしい食堂は、この先の角を右に曲がった先の下の階にありますわ」

 そういうと、一息入れて。

「もしここを利用したのでしたら、お昼が終わった後がよろしくってよ。ケーキと飲み物のセットでしたら。そこまで高くありませんわ」

 ローズマリーが三人の女生徒にニコリとほほ笑みかける。

「あ、ありがとうございます」

 言われた女生徒たちはローズマリーが指さした方へと歩いていく。その後を、同じように何人かが付いていく。多分裕福でない貴族や平民たちだろう。

(今回はメアリーのフォローがあったから大丈夫だったが、初めの言葉だけ聞いたら、あの女生徒たちは絶対ローズマリーにいい印象は持たなかっただろう)

 ユアンがそんなことを考えてる間にも、今度は鋭さを含んだ声音が上がる。

「あなた、私を誰だかわかっていて」
「この学園は身分は関係ありません。もしあなたがまた今と同じように身分をたてに誰かに何かをさせるというのなら、私が相手になりますわ。と、おっしゃってます」

 いかにも貴族の坊ちゃんという感じの生徒が、これまたいかにも平民という感じの生徒から奪ったものを、さらにローズマリーが奪いとると二人に対しそう言い放つ。
 そしてすかさずローズマリーが手にしたそれをメアリーが平民らしき生徒に返すと、そう二人に通訳する。

「…………」

(えー。なんていえばいいのか。メアリーはローズマリーがみんなと打ち解けられるようになったと言っていたが、それって、メアリーのとんでもない通訳のたまものではないだろうか)

 あの短いセリフの中に本当にそこまでの思いが詰められているのかはわからないが、ローズマリーはその通りと言わんばかりに大きく頷いている。
 その後も、同じような現場を何度も目撃する。そのたびにメアリーのフォローと注意が入る。

(前回の生でローズマリーが一年生から恐れられた理由がわかる気がする。今回もメアリーのフォローなしだったら……同じ道を歩んでいただろうな)

 はぁ、と額を抑えながらため息をもらす。

 この様子だとローズマリーはやはりメアリーがいないところでは誤解されてしまう可能性がある。

「マリー、言いたいことわわかるけど、もう少し言い方を変えたほうがいいわ」

 メアリーもユアンと同じ気持ちだったのだろう、ため息交じりに少し強めにローズマリーにそういうのが聞こえた。
 ユアンが柱の陰からそっと二人を覗き見ると、ローズマリーのきょとんとした顔が見て取れた。

「メアリー私だってわかっていますわ。でもここは先輩としてちゃんと教えてあげなくてわ」
「確かにそうなんだけどね、ただでさえ新入生たちは緊張してるの。そんな高圧的に言っては、みんなおびえてしまうわ」
「高圧的になど言ってませんわ」

 子供を諭す母親のような口調で言い聞かすメアリーに対し、ローズマリー はプクッと頬を膨らませた。

 本人に自覚がない場合、どう説明したらよいのだろうという感じでメアリーが頭を抱える。

「マリー、それでも、もっと言葉を選んで。確かに先輩として生徒会代表として、威厳を保つことは大切よ、でも私がフォローするまでのみんなの目をみた?明らかにおびえていたわ!」
「……わかったわ」

 ローズマリーも多少は思うところがあったのだろうか。でもすねた子供がするように口を尖らしたまま小さく頷く。

 直視することは恐れ多くてできないまでも遠巻きにそんな二人のやり取りを背中でしっかりと聞いていた一年生たちが、腰巾着ぐらいにしか思ってなかった大人しそうな令嬢が親のように公爵令嬢を諭す姿と、言葉や見た目とは裏腹に子供っぽくしゃげている公爵令嬢のしぐさに緊張がだんだん和らいでいくのがわかった。

(これはローズマリーの口調が変わるより先に、そのままのローズマリーがローズマリーとして受け入れられる方が先かもしれないな)

 そんな空気を感じユアンは思わず小さく笑った。
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