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第一章 出会いからもう一度

関わりたくない人物

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 艶やかな金髪のポニーテール。その瞳はルビーのように真っ赤な赤眼。

「ローズマリー・フローレス」

 この国唯一の公爵家の令嬢であり、1回目の人生で何かにつけて、ユアンにつっかかってきた令嬢だった。

(できれば今回の人生では関わりたくないな)

 そんなことを考えながら見ていたせいか、何かに引かれるように彼女が不意に振り返った。
 ユアンは慌てて目をそらすと、とりあえず声をかけられまいと再び机に突っ伏す。
 
 しばらくするとチャイムが鳴り、ざわついていた教室もガラガラと椅子を引く音に変わっていった。
 しかしその時「アッ」と言う小さな声と、悲鳴のような声が上がった。

 今起きたと言わんばかりに腕を頭の上に伸ばしていたユアンも、その悲鳴にびっくりしてそのまま後に振り返る。

(そうだあの時も!)

 バランスを崩し、前のめりに倒れるローズマリーを見て記憶が蘇る。

 だが考えるより先に、上に広げていた腕をそのまま横に広げ、路側に飛び出していた。
 そして今回もまたローズマリーの体を受け止めることに成功した。

 その瞬間生徒たちがほっと胸を撫で下ろした。ただユアン本人を除いては。

(そうだった。一度目の人生でも、彼女がつまずいて、僕が受け止めたんだった)

 正確には、一度目の人生では受け止めたと言うより、躓いた勢いのまま彼女がユアンのお腹にダイブしてきたのだ。
 そしてユアンのお腹がクッションの役割を果たし、彼女は大きな怪我をする事はなかったが、逆にあまりの弾力に跳ね返りその場で尻餅をついてしまったのだ。
 しんと静まり返った教室で、恥ずかしさのあまり瞳と同じ位顔を真っ赤に染め、自分を睨みつけてきた彼女の顔を今でもはっきり思い出せる。

(やばい、今回の人生では彼女とは関わらないようにしようと思っていたのに、これでは同じに事になってしまう)

 少し青ざめた顔で、すっぽりと腕に収まった彼女を慌てて引き剥がす。

「わざとじゃないんです」
「危ないところを助けていただき、ありがとうございますわ」

 また睨まれるのではないかと危惧したが、それはなく、ただか細いが凛とよく通る声がユアンの耳に届いた。
 冷静さを保とうとしているが、微かに震えている声音。
 それが恐怖から来たものなのか羞恥芯から来たものなのか、ユアンには判別がず、おもわずマジマジと見つめる。

 「もう大丈夫ですから、いいかげん手を離していただけませんか!」

 いつまでも手を離さないユアンに、ローズマリーが真っ赤な顔で訴えた。

「みんな席に着け」

 その時、掛け声とともに先生が入ってきた。
 ユアンがそれに気を取られた瞬間、ローズマリーはユアンの手を振りほどき、脱兎のごとく一番後ろの離れた席に座る。

(なんだこれは?)

 ローズマリーのあんな狼狽した姿見たことがない。

 スッと伸びたまっすぐな背筋、公爵家の証とも言える真っ赤な瞳はたえず辺りに鋭い眼光を放ち。生徒たちの些細な行動にさえ目を光らせていた。
  先生たちからは模範とすべき素晴らしい生徒と称えられていたが、生徒たちからは、いろんな意味で一目置かれる存在だった。
 美しいが冷たい氷のような少女。それがユアンの持つ彼女の印象だ。

 だが、今ユアンの腕の中にいたのは、か細く不安そうな、幼い少女のようだった。
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