【完結】二度目の人生、君ともう一度!〜彼女を守りたいだけなのに〜

トト

文字の大きさ
上 下
140 / 147
最終章 一度目のその先へ

地震

しおりを挟む
「メアリーお疲れ様」

 真っ青な顔のメアリーをユアンが抱きしめる。

「ユアン、そっちは」
「ここは大丈夫、皆一か所に集まってもらっている」

 放送を終え丘の上の広場に戻って来たメアリーは、いつの間にかテーブルや椅子が片付けられ、野原のうえにひかれたマットの上に、貴族たちが据わっているのを見た。
 ユアンの屋敷の使用人たちには、こういう事態が起こることを知らされていたので、他の貴族たちが連れてきた使用人たちにうまく指示を出して、短時間にまとめ上げたようだった。

 市街地の方は避難しなくてはならないため、あわただしい様子だったが、ここはすでに避難所を兼ねていたので移動する必要はない。
 食べ物や飲み物も十分用意されている、少し贅沢を言えば、椅子ぐらいは残しておいて欲しかったところだが、たまにはこうして地べたに座るのも悪くない、それにじっとしていられない小さい子供たちや、先ほどの揺れで不安で泣いている子供たちは、使用人たちの作った人の柵の中でルナが作った泥人形たちのダンスをみたり一緒に遊んだりして気を紛らわしてもらっているので、さきほどの揺れの後不安げにしていた貴族たちもこれは変わったイベントだとでもいうように今は呑気におしゃべりしている。

「まるで、全て知っていたような動きね」

 メアリーとユアンのもとに母親が来てそう言った。

「母さんこれには──」

 気まずそうにユアンが口ごもる。

「まぁいいわ、二人ともよくやったわ」
 
 小さな子供を褒める時の様に、ユアンとメアリーを抱き寄せるとトントンと背中を優しく叩いた。

「他にできることがあるのなら、私にも指示を出しなさい」

 そう言って、任せなさいとばかりに胸を叩いた。

「ありがとう、母さん」

 ☆──☆

「いつまでここにいればいいんだ?」

 避難をしている市民たちと違い、ただ待機していることにあきだした貴族たちが、だんだんとそんなことを口に出すようになってきた。

「予言は今日じゃなかったんじゃないか、もう、そろそろ帰ってもいいだろう?」
「私も、少し足が痛くなってきましたわ」

 どこかの貴婦人がそんなことを言う。

「すみません、まだここに留まっていてください」

 使用人たちもその場を離れようとする貴族たちに頭を下げる。

「まさか本当に一日ここにいさせるつもりじゃないだろうな」

 誰かが不満げな声をあげた。

「すみません」

 その時、ヒューとか細い音が響いた。
 一瞬文句を垂れていた貴族がビクリと体を揺らした。その背後、正確には空に次の瞬間キラキラと光の粒が舞った。
 光に遅れてドーンと大きな音が響く。

「わぁ、花火だ」

 まだ日が完全に落ちたわけではなかったが、海から見ると城のある山の方はすでにうっすらと夜のとばりが下りてきている。
 そこをバックに次々と花火があがる。

「しばらくこちらで花火をご鑑賞ください」

 そう言われ、文句を言っていた貴族も、足が痛いと言っていた貴婦人も、花火が終わるまではと席についてくれた。
 
「よかった」

 ユアンとメアリーがほっと胸を撫でおろす。きっと、ローズマリー辺りが機転を利かせて花火を打ち上げてくれたのだろう。
 確かにすでに避難場所である会場にいる貴族たちをただ待たせておけば、不満の声があがることまで考えていなかった。
 しばらく時を忘れ綺麗な花火を見上げる。

 どれくらいそうしていたのか、その時ドンと下から突き上げるように地面が跳ねた。
 その次の瞬間ガタガタと大きな揺れがユアンたちを襲った。

 いままで花火に見惚れていた人々が恐怖でその場に突っ伏した。
 貴族たちの周りを囲むように立っていた、メイドや使用人たちも、立っていられないほどの大きな揺れにみなその場にしゃがみ込んだり、しりもちをつく。 
 ユアンとメアリーもしっかりと抱き合いながら身をかがめた。

 ほんの数分の出来事だったに違いない。
 それでもいままで経験したことのない大きな揺れに、揺れがおさまってもしばらくの間誰も動くことができなかった。

「今のは大きかったな」
「これが予言の地震だったのかしら」

 恐怖が過ぎ去ると、少し興奮したような声があちこちで上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

150年後の敵国に転生した大将軍

mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。 ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。 彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。 それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。 『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。 他サイトでも公開しています。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...