【完結】二度目の人生、君ともう一度!〜彼女を守りたいだけなのに〜

トト

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最終章 一度目のその先へ

地震

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「メアリーお疲れ様」

 真っ青な顔のメアリーをユアンが抱きしめる。

「ユアン、そっちは」
「ここは大丈夫、皆一か所に集まってもらっている」

 放送を終え丘の上の広場に戻って来たメアリーは、いつの間にかテーブルや椅子が片付けられ、野原のうえにひかれたマットの上に、貴族たちが据わっているのを見た。
 ユアンの屋敷の使用人たちには、こういう事態が起こることを知らされていたので、他の貴族たちが連れてきた使用人たちにうまく指示を出して、短時間にまとめ上げたようだった。

 市街地の方は避難しなくてはならないため、あわただしい様子だったが、ここはすでに避難所を兼ねていたので移動する必要はない。
 食べ物や飲み物も十分用意されている、少し贅沢を言えば、椅子ぐらいは残しておいて欲しかったところだが、たまにはこうして地べたに座るのも悪くない、それにじっとしていられない小さい子供たちや、先ほどの揺れで不安で泣いている子供たちは、使用人たちの作った人の柵の中でルナが作った泥人形たちのダンスをみたり一緒に遊んだりして気を紛らわしてもらっているので、さきほどの揺れの後不安げにしていた貴族たちもこれは変わったイベントだとでもいうように今は呑気におしゃべりしている。

「まるで、全て知っていたような動きね」

 メアリーとユアンのもとに母親が来てそう言った。

「母さんこれには──」

 気まずそうにユアンが口ごもる。

「まぁいいわ、二人ともよくやったわ」
 
 小さな子供を褒める時の様に、ユアンとメアリーを抱き寄せるとトントンと背中を優しく叩いた。

「他にできることがあるのなら、私にも指示を出しなさい」

 そう言って、任せなさいとばかりに胸を叩いた。

「ありがとう、母さん」

 ☆──☆

「いつまでここにいればいいんだ?」

 避難をしている市民たちと違い、ただ待機していることにあきだした貴族たちが、だんだんとそんなことを口に出すようになってきた。

「予言は今日じゃなかったんじゃないか、もう、そろそろ帰ってもいいだろう?」
「私も、少し足が痛くなってきましたわ」

 どこかの貴婦人がそんなことを言う。

「すみません、まだここに留まっていてください」

 使用人たちもその場を離れようとする貴族たちに頭を下げる。

「まさか本当に一日ここにいさせるつもりじゃないだろうな」

 誰かが不満げな声をあげた。

「すみません」

 その時、ヒューとか細い音が響いた。
 一瞬文句を垂れていた貴族がビクリと体を揺らした。その背後、正確には空に次の瞬間キラキラと光の粒が舞った。
 光に遅れてドーンと大きな音が響く。

「わぁ、花火だ」

 まだ日が完全に落ちたわけではなかったが、海から見ると城のある山の方はすでにうっすらと夜のとばりが下りてきている。
 そこをバックに次々と花火があがる。

「しばらくこちらで花火をご鑑賞ください」

 そう言われ、文句を言っていた貴族も、足が痛いと言っていた貴婦人も、花火が終わるまではと席についてくれた。
 
「よかった」

 ユアンとメアリーがほっと胸を撫でおろす。きっと、ローズマリー辺りが機転を利かせて花火を打ち上げてくれたのだろう。
 確かにすでに避難場所である会場にいる貴族たちをただ待たせておけば、不満の声があがることまで考えていなかった。
 しばらく時を忘れ綺麗な花火を見上げる。

 どれくらいそうしていたのか、その時ドンと下から突き上げるように地面が跳ねた。
 その次の瞬間ガタガタと大きな揺れがユアンたちを襲った。

 いままで花火に見惚れていた人々が恐怖でその場に突っ伏した。
 貴族たちの周りを囲むように立っていた、メイドや使用人たちも、立っていられないほどの大きな揺れにみなその場にしゃがみ込んだり、しりもちをつく。 
 ユアンとメアリーもしっかりと抱き合いながら身をかがめた。

 ほんの数分の出来事だったに違いない。
 それでもいままで経験したことのない大きな揺れに、揺れがおさまってもしばらくの間誰も動くことができなかった。

「今のは大きかったな」
「これが予言の地震だったのかしら」

 恐怖が過ぎ去ると、少し興奮したような声があちこちで上がった。
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