【完結】二度目の人生、君ともう一度!〜彼女を守りたいだけなのに〜

トト

文字の大きさ
上 下
136 / 147
最終章 一度目のその先へ

収穫祭

しおりを挟む
 ユアンが目を覚ますと、同じベッドにメアリーともうすぐ二歳になるレオンがスヤスヤと寝息を立てていた。
 奇跡のように生まれてきた小さなレオン。二人の愛情を一身に受け、ここまで本当にすくすくと育った。
 メアリーを呼んでいるのか、ユアンに似て食い意地が張っているのか、「ママンマ」が初めての言葉、そしてハイハイをしていたかと思えば、今では一人でトコトコと歩き回るほど成長していた。
 レオンを愛おし気に見詰めていると、同じように自分を見つめるもう一つの視線に気がつく。

「おはよう、ユアン」
「おはよう、メアリー」

 しばらくこの幸せな時間を噛みしめるようにじっと見つめ合う。

(明日もその先も、この幸せを……、笑顔で迎えてみせる)

 ユアンは自分にそう言い聞かすとゆっくりとベッドから起き上がった。
  窓を開ける。
 この数時間後に大震災に見舞われるとは思えないほど、清々しいほど澄み渡った空が目に飛び込んできた。

 ──収穫祭。
 王宮の中にある教会ではその年に取れた作物を並べ神に感謝のお祈りを捧げる日。街ではそれに合わせて三日間祭りが開催される。
 その時地方の有力貴族たちも城に招待されるのが恒例だったが、今年は首都に住んでいる貴族だけを招いてやることになっていた。
 もちろん反発はあった。しかし最近首都に地震が頻発していること、そして、今回新たに開発された、魔法石の実験のためという名目で、反発の声を抑えることに成功した。
 成功したと言っても貴族たちも毎年城まで来ることは本音としては負担だっただろうし、なにより首都にここ一年結構な頻度で小さな地震が起きていることもきになっていたのだろう。
 だから集まる必要がないと聞いて、内心はほっと胸を撫でおろしているに違いないのだ。
 それに世紀の魔法石の実験というのも至極興味があった。

 それは水と風の魔法を使って、遠くにいる相手に映像と声を届けるというものだった。
 これならばわざわざ首都にいかなくても、教会で行われる祈りを聞くことができる。なので地方の貴族たちは自分たちの土地の教会でその様子をみるという形式にしたのだ。

(とりあえず、これで首都に人が集まりすぎるということはないだろう)

 ユアンは自分が命を落としてしまった後の被害の規模はわからない。
 でもあれだけの揺れだ、震源地は首都とみて間違いないだろう、そしてその被害はどれほどのもので、どの範囲まで及んだかまではわからない。
 だからといって、全ての地域を補強することはできない。そこでアレクたちは、ここ一年の間に地震が頻発している地域を調べ、地震の起こっている地域の教会は優先的に補強をほどこした。補強に手の回らないところは、映像魔法石と一緒に土魔法石を渡し倒壊しても潰れないよう対策をした。
 もちろん震源地である首都の教会と城は、どんな揺れでも大丈夫なほど頑丈に補強した。それでも本当にこんな方法でいいのか悩む時期もあった。
 今から本当のことを話して、一時的に首都から遠ざける方法は本当になかったのだろうか。
 
『それは、無理だ。レイモンドも言っていたように、信じない者はきっと出て来るし、虚偽で人民を惑わそうとしていると、命を狙うものだってでてくるかもしれない。そしてその後本当に事が起きればなおさら、ユアンの能力を狙うものがでてくるはずだ』

 アレクにそう諭された。
 
『お前は神じゃない、全てを救おうなんて考えなくていい。自分の大切なものだけを守れ』

 アレクの言葉を思い出しユアンはメアリーを振り返る。

(そうだ、僕はなんのために戻って来たのか……)

「行こう、メアリー」

 メアリーの手を掴む。一番守らなくてはならない人の手を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...