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最終章 一度目のその先へ
収穫祭
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ユアンが目を覚ますと、同じベッドにメアリーともうすぐ二歳になるレオンがスヤスヤと寝息を立てていた。
奇跡のように生まれてきた小さなレオン。二人の愛情を一身に受け、ここまで本当にすくすくと育った。
メアリーを呼んでいるのか、ユアンに似て食い意地が張っているのか、「ママンマ」が初めての言葉、そしてハイハイをしていたかと思えば、今では一人でトコトコと歩き回るほど成長していた。
レオンを愛おし気に見詰めていると、同じように自分を見つめるもう一つの視線に気がつく。
「おはよう、ユアン」
「おはよう、メアリー」
しばらくこの幸せな時間を噛みしめるようにじっと見つめ合う。
(明日もその先も、この幸せを……、笑顔で迎えてみせる)
ユアンは自分にそう言い聞かすとゆっくりとベッドから起き上がった。
窓を開ける。
この数時間後に大震災に見舞われるとは思えないほど、清々しいほど澄み渡った空が目に飛び込んできた。
──収穫祭。
王宮の中にある教会ではその年に取れた作物を並べ神に感謝のお祈りを捧げる日。街ではそれに合わせて三日間祭りが開催される。
その時地方の有力貴族たちも城に招待されるのが恒例だったが、今年は首都に住んでいる貴族だけを招いてやることになっていた。
もちろん反発はあった。しかし最近首都に地震が頻発していること、そして、今回新たに開発された、魔法石の実験のためという名目で、反発の声を抑えることに成功した。
成功したと言っても貴族たちも毎年城まで来ることは本音としては負担だっただろうし、なにより首都にここ一年結構な頻度で小さな地震が起きていることもきになっていたのだろう。
だから集まる必要がないと聞いて、内心はほっと胸を撫でおろしているに違いないのだ。
それに世紀の魔法石の実験というのも至極興味があった。
それは水と風の魔法を使って、遠くにいる相手に映像と声を届けるというものだった。
これならばわざわざ首都にいかなくても、教会で行われる祈りを聞くことができる。なので地方の貴族たちは自分たちの土地の教会でその様子をみるという形式にしたのだ。
(とりあえず、これで首都に人が集まりすぎるということはないだろう)
ユアンは自分が命を落としてしまった後の被害の規模はわからない。
でもあれだけの揺れだ、震源地は首都とみて間違いないだろう、そしてその被害はどれほどのもので、どの範囲まで及んだかまではわからない。
だからといって、全ての地域を補強することはできない。そこでアレクたちは、ここ一年の間に地震が頻発している地域を調べ、地震の起こっている地域の教会は優先的に補強をほどこした。補強に手の回らないところは、映像魔法石と一緒に土魔法石を渡し倒壊しても潰れないよう対策をした。
もちろん震源地である首都の教会と城は、どんな揺れでも大丈夫なほど頑丈に補強した。それでも本当にこんな方法でいいのか悩む時期もあった。
今から本当のことを話して、一時的に首都から遠ざける方法は本当になかったのだろうか。
『それは、無理だ。レイモンドも言っていたように、信じない者はきっと出て来るし、虚偽で人民を惑わそうとしていると、命を狙うものだってでてくるかもしれない。そしてその後本当に事が起きればなおさら、ユアンの能力を狙うものがでてくるはずだ』
アレクにそう諭された。
『お前は神じゃない、全てを救おうなんて考えなくていい。自分の大切なものだけを守れ』
アレクの言葉を思い出しユアンはメアリーを振り返る。
(そうだ、僕はなんのために戻って来たのか……)
「行こう、メアリー」
メアリーの手を掴む。一番守らなくてはならない人の手を。
奇跡のように生まれてきた小さなレオン。二人の愛情を一身に受け、ここまで本当にすくすくと育った。
メアリーを呼んでいるのか、ユアンに似て食い意地が張っているのか、「ママンマ」が初めての言葉、そしてハイハイをしていたかと思えば、今では一人でトコトコと歩き回るほど成長していた。
レオンを愛おし気に見詰めていると、同じように自分を見つめるもう一つの視線に気がつく。
「おはよう、ユアン」
「おはよう、メアリー」
しばらくこの幸せな時間を噛みしめるようにじっと見つめ合う。
(明日もその先も、この幸せを……、笑顔で迎えてみせる)
ユアンは自分にそう言い聞かすとゆっくりとベッドから起き上がった。
窓を開ける。
この数時間後に大震災に見舞われるとは思えないほど、清々しいほど澄み渡った空が目に飛び込んできた。
──収穫祭。
王宮の中にある教会ではその年に取れた作物を並べ神に感謝のお祈りを捧げる日。街ではそれに合わせて三日間祭りが開催される。
その時地方の有力貴族たちも城に招待されるのが恒例だったが、今年は首都に住んでいる貴族だけを招いてやることになっていた。
もちろん反発はあった。しかし最近首都に地震が頻発していること、そして、今回新たに開発された、魔法石の実験のためという名目で、反発の声を抑えることに成功した。
成功したと言っても貴族たちも毎年城まで来ることは本音としては負担だっただろうし、なにより首都にここ一年結構な頻度で小さな地震が起きていることもきになっていたのだろう。
だから集まる必要がないと聞いて、内心はほっと胸を撫でおろしているに違いないのだ。
それに世紀の魔法石の実験というのも至極興味があった。
それは水と風の魔法を使って、遠くにいる相手に映像と声を届けるというものだった。
これならばわざわざ首都にいかなくても、教会で行われる祈りを聞くことができる。なので地方の貴族たちは自分たちの土地の教会でその様子をみるという形式にしたのだ。
(とりあえず、これで首都に人が集まりすぎるということはないだろう)
ユアンは自分が命を落としてしまった後の被害の規模はわからない。
でもあれだけの揺れだ、震源地は首都とみて間違いないだろう、そしてその被害はどれほどのもので、どの範囲まで及んだかまではわからない。
だからといって、全ての地域を補強することはできない。そこでアレクたちは、ここ一年の間に地震が頻発している地域を調べ、地震の起こっている地域の教会は優先的に補強をほどこした。補強に手の回らないところは、映像魔法石と一緒に土魔法石を渡し倒壊しても潰れないよう対策をした。
もちろん震源地である首都の教会と城は、どんな揺れでも大丈夫なほど頑丈に補強した。それでも本当にこんな方法でいいのか悩む時期もあった。
今から本当のことを話して、一時的に首都から遠ざける方法は本当になかったのだろうか。
『それは、無理だ。レイモンドも言っていたように、信じない者はきっと出て来るし、虚偽で人民を惑わそうとしていると、命を狙うものだってでてくるかもしれない。そしてその後本当に事が起きればなおさら、ユアンの能力を狙うものがでてくるはずだ』
アレクにそう諭された。
『お前は神じゃない、全てを救おうなんて考えなくていい。自分の大切なものだけを守れ』
アレクの言葉を思い出しユアンはメアリーを振り返る。
(そうだ、僕はなんのために戻って来たのか……)
「行こう、メアリー」
メアリーの手を掴む。一番守らなくてはならない人の手を。
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