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最終章 一度目のその先へ
希望と不安と心配と
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「!!」
ユアンは自分の叫び声で目を覚ました。
「どうしたユアン」
ごろ寝をしていたキールが起き上がる。
アスタとアレクも目をこすっている。
クリスもいる。
昨日の街灯設置の式典の後、ユアンとメアリーの新居になる予定の屋敷にみんなで泊まっていた。
朝ごはんができたことを知らせに来たメアリーも、部屋に漂うただならぬ様子に、不安げにユアンを見た。
「大丈夫、ちょっと怖い夢を見ただけだから」
ユアンが笑いながらそう言う。だがメアリーはそんなユアンをじっと何かを言いたげに見つめたまま黙り込んだ。
「本当に大丈夫だから、ほら朝ごはん食べに行こう」
皆がのそのそと立ち上がり食堂に向かうなかキールはユアンの首根っこをつかむと、「後で話があるから顔をかせ」と耳元で呟いた。
☆──☆
「ユアン、何を隠している」
食事が終わりおのおの帰り自宅を始めているなか、キールがユアンを呼び出した。
「何も隠してないよ」
ため息を付く。
「いったい何年の付き合いだと思っているんだ。お前寮にいた時も同じようなことがあったよな」
そういえばそんなこともあったな。とユアンが思い出す。
「それにメアリーの話だと、最近も何度か夜中に悪夢でうなされたりしてるそうじゃないか、気が付いてないと思ってるのか?」
ユアンがグッと言葉に詰まる。
そうなのだ街灯の発明は考えてた以上に早く完成を迎えた。レイモンドやアレクの手回しのおかげで街にすぐに他の街灯が設置されるのも約束されている。
地震のような自然災害は止めることはできなくても、その後に起きるだろう大火災の被害はこれによりずいぶん抑えられるだろう。
しかしそれはあくまでユアンの理想であって本当に大火災にならない保障はないのだ、だからといって、他になにをどう対策していいかわからなかった。
自分がやるべきことはやった。
そもそも未来になにが起ころうと、ユアンのせいというわけではない。
そう頭でわかっていても、ユアンは日に日にいいしれぬ罪悪感に似たなにかに苛まれていった。
ユアンが悲しい笑みを浮かべた。
「言えよ」
キールが真摯な瞳を向けてくる。
「何を抱え込んでるか知らないが。一人で悩むな。俺を巻き込め。俺はお前の騎士だろ」
☆──☆
「とうてい信じられるような話じゃないんだ」
誰にも話すつもりなどなかった、信じようが信じまいが、未来を知ったところで震災は防ぎようがないなら辛い思いをさせるだけかもしれない。でもキールの眼差しにユアンはゆっくりと口を開いた。
今から三年後の収穫祭の日に訪れる大地震。そしてその時自分は命を落としたこと。燃える市街地を見たこと。
そしてどうしてかわからないが、自分は十二歳の洗礼パーティーの日に記憶を持ったまま戻っていたこと。
ユアンは淡々と語った。
長い沈黙の後、キールが深く息を吐いた。
「ようやく腑に落ちた」
キールなら否定こそしなくても、ユアンがおかしくなったと心配するかと思ったが、そういうとユアンの頭をガシガシと撫ぜ繰り回した。
「ユアンがダイエットするといった時からおかしいと思ってたんだ。いくら好きな子ができても、ネガティブなユアンが成功するかどうかもわからない相手のためにあそこまでダイエットが頑張れるなんて不思議だったんだ」
「なんかひどいこと言ってないか」
「それにあの頃のユアンは、体形のことで馬鹿にする女子たちを毛嫌いしてたから、一目惚れっていうのも信じられなかったし」
「自分だって一目惚れだっただろ」
「まあそうだな」
キールがニカリと笑う。
確かにあの頃のユアンは行動も発言も辻褄が合わないことが多かっただろう、でもいままでキールはユアンにそのことを深く追求することもなかった。
「これでようやくユアンの悩みはわかった。じゃあせっかくみんなもそろっていることだし、みんなにも相談しよう」
それを聞いてユアンが慌てる。
「大丈夫だ。きっとみんな力になってくれる、話を聞く限りもう俺たちだけで今の状況より状況を良くする案は思い浮かびそうにないしな」
「まぁ確かに」
「ちょうど頭のいいやつも権力のあるやつもいるんだ、みんなだったらもっと確実に未来を良くする案が思いつくかもしれないじゃないか」
「そうだけど。みんな信じてくれるかな」
その問いをキールは鼻で笑いとばした。
「逆にユアンの言葉を信じないやつがいると思うなら教えて欲しいが」
その言葉にユアンは首を振った。
みんなの顔を思い浮かべる。そしてそこには自分を否定するような人がいないことだけははっきりとしていた。
ユアンは自分の叫び声で目を覚ました。
「どうしたユアン」
ごろ寝をしていたキールが起き上がる。
アスタとアレクも目をこすっている。
クリスもいる。
昨日の街灯設置の式典の後、ユアンとメアリーの新居になる予定の屋敷にみんなで泊まっていた。
朝ごはんができたことを知らせに来たメアリーも、部屋に漂うただならぬ様子に、不安げにユアンを見た。
「大丈夫、ちょっと怖い夢を見ただけだから」
ユアンが笑いながらそう言う。だがメアリーはそんなユアンをじっと何かを言いたげに見つめたまま黙り込んだ。
「本当に大丈夫だから、ほら朝ごはん食べに行こう」
皆がのそのそと立ち上がり食堂に向かうなかキールはユアンの首根っこをつかむと、「後で話があるから顔をかせ」と耳元で呟いた。
☆──☆
「ユアン、何を隠している」
食事が終わりおのおの帰り自宅を始めているなか、キールがユアンを呼び出した。
「何も隠してないよ」
ため息を付く。
「いったい何年の付き合いだと思っているんだ。お前寮にいた時も同じようなことがあったよな」
そういえばそんなこともあったな。とユアンが思い出す。
「それにメアリーの話だと、最近も何度か夜中に悪夢でうなされたりしてるそうじゃないか、気が付いてないと思ってるのか?」
ユアンがグッと言葉に詰まる。
そうなのだ街灯の発明は考えてた以上に早く完成を迎えた。レイモンドやアレクの手回しのおかげで街にすぐに他の街灯が設置されるのも約束されている。
地震のような自然災害は止めることはできなくても、その後に起きるだろう大火災の被害はこれによりずいぶん抑えられるだろう。
しかしそれはあくまでユアンの理想であって本当に大火災にならない保障はないのだ、だからといって、他になにをどう対策していいかわからなかった。
自分がやるべきことはやった。
そもそも未来になにが起ころうと、ユアンのせいというわけではない。
そう頭でわかっていても、ユアンは日に日にいいしれぬ罪悪感に似たなにかに苛まれていった。
ユアンが悲しい笑みを浮かべた。
「言えよ」
キールが真摯な瞳を向けてくる。
「何を抱え込んでるか知らないが。一人で悩むな。俺を巻き込め。俺はお前の騎士だろ」
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「とうてい信じられるような話じゃないんだ」
誰にも話すつもりなどなかった、信じようが信じまいが、未来を知ったところで震災は防ぎようがないなら辛い思いをさせるだけかもしれない。でもキールの眼差しにユアンはゆっくりと口を開いた。
今から三年後の収穫祭の日に訪れる大地震。そしてその時自分は命を落としたこと。燃える市街地を見たこと。
そしてどうしてかわからないが、自分は十二歳の洗礼パーティーの日に記憶を持ったまま戻っていたこと。
ユアンは淡々と語った。
長い沈黙の後、キールが深く息を吐いた。
「ようやく腑に落ちた」
キールなら否定こそしなくても、ユアンがおかしくなったと心配するかと思ったが、そういうとユアンの頭をガシガシと撫ぜ繰り回した。
「ユアンがダイエットするといった時からおかしいと思ってたんだ。いくら好きな子ができても、ネガティブなユアンが成功するかどうかもわからない相手のためにあそこまでダイエットが頑張れるなんて不思議だったんだ」
「なんかひどいこと言ってないか」
「それにあの頃のユアンは、体形のことで馬鹿にする女子たちを毛嫌いしてたから、一目惚れっていうのも信じられなかったし」
「自分だって一目惚れだっただろ」
「まあそうだな」
キールがニカリと笑う。
確かにあの頃のユアンは行動も発言も辻褄が合わないことが多かっただろう、でもいままでキールはユアンにそのことを深く追求することもなかった。
「これでようやくユアンの悩みはわかった。じゃあせっかくみんなもそろっていることだし、みんなにも相談しよう」
それを聞いてユアンが慌てる。
「大丈夫だ。きっとみんな力になってくれる、話を聞く限りもう俺たちだけで今の状況より状況を良くする案は思い浮かびそうにないしな」
「まぁ確かに」
「ちょうど頭のいいやつも権力のあるやつもいるんだ、みんなだったらもっと確実に未来を良くする案が思いつくかもしれないじゃないか」
「そうだけど。みんな信じてくれるかな」
その問いをキールは鼻で笑いとばした。
「逆にユアンの言葉を信じないやつがいると思うなら教えて欲しいが」
その言葉にユアンは首を振った。
みんなの顔を思い浮かべる。そしてそこには自分を否定するような人がいないことだけははっきりとしていた。
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