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第四章 誓いをもう一度
卒業後の進路
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ダンスパーティーが終わると、残すは卒業のみである。
このころには、進学か奉公先が決まっている生徒は、最後のバカンスとばかりに学校を休みがちになり、それ以外のまだ何も決まっていない生徒は、いつも外を駆けずり回っているので、名ばかりの授業で生徒の出席率は極めて低い。
もちろん、ユアン達四人はみな卒業後のことが決まっているので、学園には来ているがそんな感じなので四人も最後とばかりにちょくちょくと皆で時間を合わせて会っていた。
「キール王宮騎士見習い断ったんだって?!」
小さいころから騎士に憧れ、前の人生では紆余曲折の後、努力のすえ王宮騎士の小隊長までスピード出世したキールだったが、今回は周りからの推薦を断って違う人生を歩もうとしている。
「誕生日を迎えたらすぐにアンリと結婚したいし、王宮騎士見習いになったら、いつ王都からでれるかわからないから、俺はそのままアンリの治める地方警備隊に入ろうと思ってる」
愛のために、子供のころからの夢を捨て、地方警備隊になるとは感慨深い。
まあ剣を捨てたわけではないし、守る相手が王様から愛する人とその民にかわっただけで、むしろ良かったのかもしれない、地方でキールの実力と領主の旦那という肩書があれば、小隊長どころかすぐに総司令官クラスにもなれるだろうし。
「キール様はいいですわね。私など花嫁修業などもう結構ですのに、それに進学まで決められてしまって……」
キールのさっぱりとした笑顔を見ながらローズマリーがため息を吐く。
この間魔術師の資格を獲得したローズマリーは、卒業後レイモンドとの婚約を正式に発表して、王太子妃といての修業に入る予定だったのだが、教授らの研究チームからの要望で、一応研究学部に進学というかたちになったのだ。しかし、ローズマリーとしては、花嫁修業の傍らメアリーたちと研究を続けてもいいとレイモンドと口約束をしていたのに、進学ということになり、その目論見がつぶれてしまったようだった。
アスタ先輩も結局抜けだすのはなかなか難しいようで、それでもちょこちょこ教授たちの目を盗んで街の研究ラボには顔を出しているのだが、教授たちとなんの研究をしているのか、いつも愚痴を話ながら寝てしまうような感じだった。
それでも、ユアンが手伝っている魔法石の研究はもうほとんど完成をしていて、よほどの火力を出さない限りは、続けて魔法を放っても怪我をしないところまできていた。街灯のような単純な魔法であれば、ほぼ安全に運用できるだろう。あとはそれを世間に発表するタイミングをアレクとレイモンドが調整している感じであった。
「メアリーはもう実家からの許可はもらったのですわよね?」
「はい。私は市街地の”ピローネ”で働くことが決まりました。そこで修業を積んでお金がたまったら自分の食堂を開こうと思ってます」
メアリーは卒業後本当は実家に帰る予定だったのだが、やりたいことができたと首都に残ることにしたのだ。
しかしローズマリーが聞きたかったのは多分そのことではない、年ごろの娘がいくらやりたいことがあると言ってもなんの条件もなしに首都に残すことはありえない、きっとそれなりの条件で両親を納得させたに違いないのだ、そちらのことを訊きたいのだろう。
チラリチラリとユアンを盗み見ているのがその証拠だ。
しかしローズマリーの期待とは裏腹に、メアリーは明るい口調でそれだけ答えた。
ちなみに「ピローネ」とは、市街地にある食事と甘味処の店である。
前回の人生では叶わなかったメアリーの夢。貴族の娘が平民と同じように自ら働くなんて恥ずかしいと周りの人達から見られていてとても言い出せなかった夢。
でもローズマリーが猫カフェを実は裏で経営していると知り、またユアンや今回出会った人たちはメアリーの作るものをいつも美味しいと食べてくれて、貴族だから料理をするなんてと馬鹿にする人はメアリーの周りには誰もいなかった。
そして色々な経験がメアリーに両親を説得させるだけの勇気を与えたのだ。
「メアリーは人気の看板娘になりそうで、逆に心配だよ」
ユアンの言葉に「もう、ユアン様ったら」とメアリーがはずかしそうに頬を染める。
「ユアン様……」
ただローズマリーだけが、細めた目でユアンに不満そうな目を向けている。
「あぁ、ちなみに僕は……」
その視線に耐えられずユアンが話しをそらす。
「交易をやるつもりだ」
ユアンがニヤリと笑う。
食べ物に関しての流行りにはもともと敏感だったが、二度目の人生ともなると確実に後七年の流行、特に食べ物に関してだが頭に入っている。
誰よりも次の流行りを早く輸入することで利益を上げる。
未来を知っているというちょっと卑怯な手だが、とりあえずお金は多いほうが良い、研究ラボに援助したり、メアリーの店の立ち上げにもそれなりのお金が必要だ。
それに、震災後にも色々お金はかかるだろう。
今のうちにできるだけ荒稼ぎして震災後の街を復興させた後はメアリーと一緒に小さな飲食店をやるのも悪くない。そんな夢を思い描く。
「うん、貿易商いいと思うぞ、ユアンは体を動かすよりやはり頭を動かす方が好きみたいだしな、だがそれより──」
がっしりとキールがユアンの肩に腕を回す。
「報告は他にないのか」
ユアンとメアリーを交互に見ながら、キールがそう言った。ローズマリーも「そこですわ」と言わんばかりに頷いている。
「あぁ……」
わかっている。二人が聞き出したいことは。しかし──
「まぁ、みんな卒業後が決まってよかった。距離的にキールになかなか会えなくなりそうなのが残念だけど、また長期休暇とかは皆で集まれるといいな」
話をそらされたのがわかってローズマリーが不満げな表情をしている、キールはそうかといってただ笑った。
ユアンはチラリとメアリーを見たが、どんな顔をしているのか真っすぐに見ることが怖くて、少し俯いて笑ってごまかした。
このころには、進学か奉公先が決まっている生徒は、最後のバカンスとばかりに学校を休みがちになり、それ以外のまだ何も決まっていない生徒は、いつも外を駆けずり回っているので、名ばかりの授業で生徒の出席率は極めて低い。
もちろん、ユアン達四人はみな卒業後のことが決まっているので、学園には来ているがそんな感じなので四人も最後とばかりにちょくちょくと皆で時間を合わせて会っていた。
「キール王宮騎士見習い断ったんだって?!」
小さいころから騎士に憧れ、前の人生では紆余曲折の後、努力のすえ王宮騎士の小隊長までスピード出世したキールだったが、今回は周りからの推薦を断って違う人生を歩もうとしている。
「誕生日を迎えたらすぐにアンリと結婚したいし、王宮騎士見習いになったら、いつ王都からでれるかわからないから、俺はそのままアンリの治める地方警備隊に入ろうと思ってる」
愛のために、子供のころからの夢を捨て、地方警備隊になるとは感慨深い。
まあ剣を捨てたわけではないし、守る相手が王様から愛する人とその民にかわっただけで、むしろ良かったのかもしれない、地方でキールの実力と領主の旦那という肩書があれば、小隊長どころかすぐに総司令官クラスにもなれるだろうし。
「キール様はいいですわね。私など花嫁修業などもう結構ですのに、それに進学まで決められてしまって……」
キールのさっぱりとした笑顔を見ながらローズマリーがため息を吐く。
この間魔術師の資格を獲得したローズマリーは、卒業後レイモンドとの婚約を正式に発表して、王太子妃といての修業に入る予定だったのだが、教授らの研究チームからの要望で、一応研究学部に進学というかたちになったのだ。しかし、ローズマリーとしては、花嫁修業の傍らメアリーたちと研究を続けてもいいとレイモンドと口約束をしていたのに、進学ということになり、その目論見がつぶれてしまったようだった。
アスタ先輩も結局抜けだすのはなかなか難しいようで、それでもちょこちょこ教授たちの目を盗んで街の研究ラボには顔を出しているのだが、教授たちとなんの研究をしているのか、いつも愚痴を話ながら寝てしまうような感じだった。
それでも、ユアンが手伝っている魔法石の研究はもうほとんど完成をしていて、よほどの火力を出さない限りは、続けて魔法を放っても怪我をしないところまできていた。街灯のような単純な魔法であれば、ほぼ安全に運用できるだろう。あとはそれを世間に発表するタイミングをアレクとレイモンドが調整している感じであった。
「メアリーはもう実家からの許可はもらったのですわよね?」
「はい。私は市街地の”ピローネ”で働くことが決まりました。そこで修業を積んでお金がたまったら自分の食堂を開こうと思ってます」
メアリーは卒業後本当は実家に帰る予定だったのだが、やりたいことができたと首都に残ることにしたのだ。
しかしローズマリーが聞きたかったのは多分そのことではない、年ごろの娘がいくらやりたいことがあると言ってもなんの条件もなしに首都に残すことはありえない、きっとそれなりの条件で両親を納得させたに違いないのだ、そちらのことを訊きたいのだろう。
チラリチラリとユアンを盗み見ているのがその証拠だ。
しかしローズマリーの期待とは裏腹に、メアリーは明るい口調でそれだけ答えた。
ちなみに「ピローネ」とは、市街地にある食事と甘味処の店である。
前回の人生では叶わなかったメアリーの夢。貴族の娘が平民と同じように自ら働くなんて恥ずかしいと周りの人達から見られていてとても言い出せなかった夢。
でもローズマリーが猫カフェを実は裏で経営していると知り、またユアンや今回出会った人たちはメアリーの作るものをいつも美味しいと食べてくれて、貴族だから料理をするなんてと馬鹿にする人はメアリーの周りには誰もいなかった。
そして色々な経験がメアリーに両親を説得させるだけの勇気を与えたのだ。
「メアリーは人気の看板娘になりそうで、逆に心配だよ」
ユアンの言葉に「もう、ユアン様ったら」とメアリーがはずかしそうに頬を染める。
「ユアン様……」
ただローズマリーだけが、細めた目でユアンに不満そうな目を向けている。
「あぁ、ちなみに僕は……」
その視線に耐えられずユアンが話しをそらす。
「交易をやるつもりだ」
ユアンがニヤリと笑う。
食べ物に関しての流行りにはもともと敏感だったが、二度目の人生ともなると確実に後七年の流行、特に食べ物に関してだが頭に入っている。
誰よりも次の流行りを早く輸入することで利益を上げる。
未来を知っているというちょっと卑怯な手だが、とりあえずお金は多いほうが良い、研究ラボに援助したり、メアリーの店の立ち上げにもそれなりのお金が必要だ。
それに、震災後にも色々お金はかかるだろう。
今のうちにできるだけ荒稼ぎして震災後の街を復興させた後はメアリーと一緒に小さな飲食店をやるのも悪くない。そんな夢を思い描く。
「うん、貿易商いいと思うぞ、ユアンは体を動かすよりやはり頭を動かす方が好きみたいだしな、だがそれより──」
がっしりとキールがユアンの肩に腕を回す。
「報告は他にないのか」
ユアンとメアリーを交互に見ながら、キールがそう言った。ローズマリーも「そこですわ」と言わんばかりに頷いている。
「あぁ……」
わかっている。二人が聞き出したいことは。しかし──
「まぁ、みんな卒業後が決まってよかった。距離的にキールになかなか会えなくなりそうなのが残念だけど、また長期休暇とかは皆で集まれるといいな」
話をそらされたのがわかってローズマリーが不満げな表情をしている、キールはそうかといってただ笑った。
ユアンはチラリとメアリーを見たが、どんな顔をしているのか真っすぐに見ることが怖くて、少し俯いて笑ってごまかした。
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