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第四章 誓いをもう一度
教授がやってきた
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トントン。
その時部室の扉をノックするものが現れた。ユアンが入部してから記憶の中でこの部室に来客それも扉をノックするような人物は来たことがない。
「はい」
メアリーが扉を開ける。そして慌てて頭を垂れている。
「アスタ先輩」
少し戸惑った様子でアスタに声をかける。アスタはメアリーの向こうに見える来客を見るなり、珍しく青ざめた顔で「ヤバッ」と小さく声を発した。
口ひげを蓄え、絵本に出てくるようないかにも魔法使いといういでたちの老人がそこには立っていた。
「ほほほ、ここがアスタ君の研究所か……」
柔らかい物腰と口調だが、開いてるか開いてないかわからないほど細められた目からは、刺すような光がアスタを真っすぐに射抜いていた。
「きょ、教授……どうしたんですか、わざわざこんなところまで」
「いやいや、いつもいつも私の授業をさぼって足を運んでいるようだからよほど面白い研究でもしているのだろうと……ちょっと興味がわいてな」
そう言ってズケズケと部室に入って来る。
「さぼったなんて人聞きの悪い。レポートも実験ちゃんと終わってるじゃないですか。だから少し早めに上がっているだけですよ」
アスタの言い訳を無視して、教授はぐるりと室内を見渡す。そしてユアンに目を止めるとしばらくじっと何かを探るように見つめる。
緊張でゴクリと唾を飲み込んだ音が響く気がした。
「君は一般の生徒だね」
さっきまでの優しいおじいちゃんというような声音とは違う、探るような冷たい響きがした。
「彼はこのメアリー嬢の彼氏でルナ嬢の兄でもあるんです。今日は二人に付き添って遊びににきているだけです」
アスタのとっさの嘘にユアンが頷く。
「そうじゃったか、あぁ、メアリー嬢とルナ嬢の」
まだ扉の前に立っていたメアリーが慌てて頷く。ルナもぴょんと椅子から立ち上がると、とっさに淑女の礼をとった。
「よいよい」
「教授、お久しぶりです」
「おぉ、誰かと思えばアレク君も来ていたのか、眼鏡もしていないしずいぶんアスタ君と雰囲気が変わっていたからわからなかったよ」
アレクがにこやかに教授に近づく。
「すみません。アスタがご迷惑おかけしているようで」
アレクはどうやらこの教授のおぼえが良いみたいだ。ふざけてそうでちゃんとするところはしっかり押さえているそれがアレクだ。教授も途端ニコニコと温かい笑みを浮かべる。
「もしお時間があるのなら、教授のお話を聞かせていただけませんか。魔法師の先輩方ではわからないこともあるので、ご教授いただければ幸いです」
アレクはそういうとお前もついて来いとばかりにアスタの首根っこを掴む。そうしてそのまま三人で「今日はこれで」といって部室を出ていった。
「はぁ~」
おもわずみんな大きく息を吐く。
「僕がここにいるのは、教授的には面白くないのかな」
アスタがわざわざユアンを部員として紹介せずごまかしたからだ。
「あの教授は魔力のない人間を下に見ているのですわ」
先ほどから黙っていたローズマリーが唇を噛みながらそう言った。
「私たちにはいい教授なのですが……」
めずらしくあのメアリーも言葉を濁す。
魔力を持つ自分たちは特別だと思う輩は少なくない。確かにないよりあったほうが便利だし、待遇も良いから仕方ないことだが。
「アレク先輩たちが慎重に魔法石の発表を進めるわけだね」
特別だと思っている者たちの魔法を魔力を持たないただの人間が使うなど、きっと彼らにとっては許せるものではないだろう。だから少しづつ周りをかため法律をかえ、万全をきたしてから発表するのだ。どんなに便利でよいものでも、握りつぶされてしまわないように。
ようやく見えた希望の光がまた一歩遠ざかるそんな気がしたユアンだった。
その時部室の扉をノックするものが現れた。ユアンが入部してから記憶の中でこの部室に来客それも扉をノックするような人物は来たことがない。
「はい」
メアリーが扉を開ける。そして慌てて頭を垂れている。
「アスタ先輩」
少し戸惑った様子でアスタに声をかける。アスタはメアリーの向こうに見える来客を見るなり、珍しく青ざめた顔で「ヤバッ」と小さく声を発した。
口ひげを蓄え、絵本に出てくるようないかにも魔法使いといういでたちの老人がそこには立っていた。
「ほほほ、ここがアスタ君の研究所か……」
柔らかい物腰と口調だが、開いてるか開いてないかわからないほど細められた目からは、刺すような光がアスタを真っすぐに射抜いていた。
「きょ、教授……どうしたんですか、わざわざこんなところまで」
「いやいや、いつもいつも私の授業をさぼって足を運んでいるようだからよほど面白い研究でもしているのだろうと……ちょっと興味がわいてな」
そう言ってズケズケと部室に入って来る。
「さぼったなんて人聞きの悪い。レポートも実験ちゃんと終わってるじゃないですか。だから少し早めに上がっているだけですよ」
アスタの言い訳を無視して、教授はぐるりと室内を見渡す。そしてユアンに目を止めるとしばらくじっと何かを探るように見つめる。
緊張でゴクリと唾を飲み込んだ音が響く気がした。
「君は一般の生徒だね」
さっきまでの優しいおじいちゃんというような声音とは違う、探るような冷たい響きがした。
「彼はこのメアリー嬢の彼氏でルナ嬢の兄でもあるんです。今日は二人に付き添って遊びににきているだけです」
アスタのとっさの嘘にユアンが頷く。
「そうじゃったか、あぁ、メアリー嬢とルナ嬢の」
まだ扉の前に立っていたメアリーが慌てて頷く。ルナもぴょんと椅子から立ち上がると、とっさに淑女の礼をとった。
「よいよい」
「教授、お久しぶりです」
「おぉ、誰かと思えばアレク君も来ていたのか、眼鏡もしていないしずいぶんアスタ君と雰囲気が変わっていたからわからなかったよ」
アレクがにこやかに教授に近づく。
「すみません。アスタがご迷惑おかけしているようで」
アレクはどうやらこの教授のおぼえが良いみたいだ。ふざけてそうでちゃんとするところはしっかり押さえているそれがアレクだ。教授も途端ニコニコと温かい笑みを浮かべる。
「もしお時間があるのなら、教授のお話を聞かせていただけませんか。魔法師の先輩方ではわからないこともあるので、ご教授いただければ幸いです」
アレクはそういうとお前もついて来いとばかりにアスタの首根っこを掴む。そうしてそのまま三人で「今日はこれで」といって部室を出ていった。
「はぁ~」
おもわずみんな大きく息を吐く。
「僕がここにいるのは、教授的には面白くないのかな」
アスタがわざわざユアンを部員として紹介せずごまかしたからだ。
「あの教授は魔力のない人間を下に見ているのですわ」
先ほどから黙っていたローズマリーが唇を噛みながらそう言った。
「私たちにはいい教授なのですが……」
めずらしくあのメアリーも言葉を濁す。
魔力を持つ自分たちは特別だと思う輩は少なくない。確かにないよりあったほうが便利だし、待遇も良いから仕方ないことだが。
「アレク先輩たちが慎重に魔法石の発表を進めるわけだね」
特別だと思っている者たちの魔法を魔力を持たないただの人間が使うなど、きっと彼らにとっては許せるものではないだろう。だから少しづつ周りをかため法律をかえ、万全をきたしてから発表するのだ。どんなに便利でよいものでも、握りつぶされてしまわないように。
ようやく見えた希望の光がまた一歩遠ざかるそんな気がしたユアンだった。
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