【完結】二度目の人生、君ともう一度!〜彼女を守りたいだけなのに〜

トト

文字の大きさ
上 下
100 / 147
第三章 告白をもう一度

失言

しおりを挟む
「また──アップルパイ?」

 さっきまでの暖かな日差しのようなほんわかした空気が、一瞬で北風によって一吹きにされたそんな気がした。

 ユアンは自分が犯してしまった最大の過ちに気が付いた時には、メアリーの紅色だった頬はすっかりもとに戻り、小さく微笑むその瞳の奥は暗い光を放っているかのようだった。

「すみません。アップルパイなんて作ったことないので」

 心を押し殺したような何の感情も感じられない言葉でやんわりと謝る。

「あっ、違うんです、今度アップルパイの美味しいお店ができたから、ぜひ、そこのアップルパイを、メアリーさんと一緒に、食べれたらなぁって。そして、それを作ってくれたら、うれしいな……」

 変な汗がとめどなく背中に流れる。
 ようやくユアンを見たメアリーの視線から今度はユアンが目をそらす。
 
「わかりました」

 フウと深いため息とともにメアリーがそう言った。

「えっ、じゃあ今度一緒に──」
「はい」

 しかしその「はい」がなぜかすごく怖いと感じたユアンだった。


「なぜアップルパイって言ってしまったんだ僕は」

 寮に戻ってからユアンは自分の失言を後悔した。しかしあの時ユアンの脳裏にはある日の思い出がよみがえっていたのだ。

(メアリーのこの反応、昔にも一度……)

 あれは前回の人生でユアンたちがまだ付き合う前、ユアンがメアリーの手作りのアップルパイを頬張りながら何気なく言った一言にメアリーが見せた行動と全く同じだったのだ。

『メアリーさんの作る料理は本当にどれもおいしいなぁ。ずっとメアリーさんの料理を食べてたいな。ねぇメアリーさん僕のためにずっと料理作ってくれないかな』

 ユアンにとっては本当にただ料理がおいしくてでた何気ない言葉だった。しかしメアリーはそれをプロポーズと勘違いしたのだ。

 確かに文面だけみればプロポーズと取れなくもない。付き合ってはいなかったものの、あのころはほとんど毎日一緒にいたし卒業も間近だったメアリーが、そんな風に言われたら勘違いしても仕方ないとも言えなくはない。しかし自分の体形にコンプレックスを持っていたユアンはメアリーは大切な友達で、付き合えるなどと夢にも思っていなかった。
 だからメアリーがそんな勘違いをしたなんて見当もつかず、次の日からいやによそよそしくもとれる態度をとるようになったメアリーにすごいショックを受け落ち込んだものだった。
 ショックのあまり、大好きな食事も喉を通らなくなったユアンに慌てたのはメアリーだった。
 そして、メアリーはユアンを意識してしまいどう接していいか戸惑っていたことを正直に話してくれたのだ。

(あの時のメアリーの反応とさっきまでのメアリーの反応は酷似している)

 ユアンを友達としてではなく、初めて男として意識した時のメアリーの戸惑い。
 だから、今回ももしかしてそうなんじゃないかと、つい嬉しくなって。クッキーと言おうと思っていたのに、口が気が付いた時には思い出のアップルパイになっていたのだ。

「はぁ」

 ユアンがため息を付く。

「でも、メアリーがあんな態度をとったということは、少なからず今回もメアリーは僕を男として意識してくれたってことだよね」

 ユアンは握りこぶしを作ると自分を鼓舞するように胸に当てる。そして「次のデートで僕はメアリーに告白する!」とひとり誓いを立てたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...