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第三章 告白をもう一度
メアリー嬢は落ち着かない
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「クッキー、部室にありましたよ」
「えっ」
失態の恥ずかしさなのかそのまっすぐな瞳に見詰められたせいなのか、メアリーは自分でもわからない熱で顔がほてるのを感じた。
「すみません、どこに置いてたんだろ私──」
ユアンの視線から逃げるようにうつむくと早口で話す。
「メアリーさん?僕何かやっちゃっいました?」
否定しようと顔を上げると、まるで主人に怒られた子犬のような表情のユアンと目が合った。メアリーは軽い眩暈を覚えまたすぐに視線を逸らす。
「いえ、違います、ユアン様のせいではありません」
「でも、さっきからメアリーさん、全然僕の方見てくれてないじゃないですか?」
別に嫌で見ないわけじゃない、ついこの間まではそんな顔をされても、笑顔でそんなことないですよと返せていた。
「それは……」
「僕の家にもお見舞いに来てくれてたんですよね。でも僕いつも寝ていたみたいで、すみません」
そう言って謝る。
「なにか両親が失礼なことでもいいましたか?」
「そんなわけないじゃないですか」
即答する。
「なら、こっち向いてください──」
そういいながらユアンはメアリーの横の席に座った。部活などでもユアンが隣に座ることは今までにも何度もあった。しかし
「ち、近いです」
思わずユアンを両手で押しのける。
「…………」
「…………」
「メアリーさん……」
さっきまでの少し不安げなトーンとは違い、優しい声でメアリーの名前を呼ぶ。
「顔見せてください」
初めて会った時よりも少し低くなった声音。いつも跳ねるように話していたユアンはいつのまにか落ち着いた声音で自分の名を呼ぶようになっていた。
「ちょっと待ってください」
メアリーは何度か深呼吸するとその手を顔から離した。色づいた頬と若草色の瞳はまるでそこに花が咲いているように色づいている。
「メアリーさん。またアップルパイを作ってくれませんか」
「えっ」
失態の恥ずかしさなのかそのまっすぐな瞳に見詰められたせいなのか、メアリーは自分でもわからない熱で顔がほてるのを感じた。
「すみません、どこに置いてたんだろ私──」
ユアンの視線から逃げるようにうつむくと早口で話す。
「メアリーさん?僕何かやっちゃっいました?」
否定しようと顔を上げると、まるで主人に怒られた子犬のような表情のユアンと目が合った。メアリーは軽い眩暈を覚えまたすぐに視線を逸らす。
「いえ、違います、ユアン様のせいではありません」
「でも、さっきからメアリーさん、全然僕の方見てくれてないじゃないですか?」
別に嫌で見ないわけじゃない、ついこの間まではそんな顔をされても、笑顔でそんなことないですよと返せていた。
「それは……」
「僕の家にもお見舞いに来てくれてたんですよね。でも僕いつも寝ていたみたいで、すみません」
そう言って謝る。
「なにか両親が失礼なことでもいいましたか?」
「そんなわけないじゃないですか」
即答する。
「なら、こっち向いてください──」
そういいながらユアンはメアリーの横の席に座った。部活などでもユアンが隣に座ることは今までにも何度もあった。しかし
「ち、近いです」
思わずユアンを両手で押しのける。
「…………」
「…………」
「メアリーさん……」
さっきまでの少し不安げなトーンとは違い、優しい声でメアリーの名前を呼ぶ。
「顔見せてください」
初めて会った時よりも少し低くなった声音。いつも跳ねるように話していたユアンはいつのまにか落ち着いた声音で自分の名を呼ぶようになっていた。
「ちょっと待ってください」
メアリーは何度か深呼吸するとその手を顔から離した。色づいた頬と若草色の瞳はまるでそこに花が咲いているように色づいている。
「メアリーさん。またアップルパイを作ってくれませんか」
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