83 / 147
第二章 青春をもう一度
魔術大会
しおりを挟む
「私はでますわよ。なにもやましいことはありません」
しかし今のこの状況は異常だ。
前の人生で魔術祭で問題が起きたことはない。しかしあまりにも未来が変わってしまっているので、ユアンでもこの先何が起こるのか見当もつかなかった。
魔術大会は剣術大会と違い参加、不参加は生徒にゆだねられる。
アスタは魔法研究で忙しかったので今年は初めから不参加。メアリーは攻撃魔法は使えないのでエントリーすらしていない。
「まあ幸い俺と同じチームだから。相手も下手なことはできないだろう」
アレクはそう言ったが、みな不安は隠しきれなかった。
そうして魔術大会がはじまった。
魔術大会は剣術大会のような個人戦ではなく、二年と三年の合同メンバーからなる六人一組のチーム戦である。
属性による決まりはないが、それぞれ相性の悪い属性があるのでどのチームも違う属性同士で組んでいることが多い。
相手チームのクリスタルを破壊、もしくはメンバーを全滅させたチームの勝利である。
全滅といっても学園は生徒に怪我をさせてはいけないので、生徒には初めから防御魔法がかけられている。それが攻撃を受けるたびに、白から青、黄、赤と変化し、赤になった時点でその選手は脱落という仕組みだ。
時間切れまで勝負がつかなかったチームは、選手の色で攻撃を受けた人数が少ない方の勝ちとなる。
そうアスタが魔術大会を初めてみるユアンたちのために簡単に説明をした。
「まぁ、アレクと同じチームなら楽勝だろう」
そしてアスタの言った通り、アレクとローズマリーのチームは強かった。三年生は二年生を補佐しながら指示をだし、二年生が攻撃を担当する。
「アレク先輩は前にでてこないんですね」
「そうだな、三年生はだいたい補佐と指示にまわることが多い、なぜなら強い魔法が使えることも大切だが、宮廷魔法師に求められているのは、いかに的確に冷静に状況を把握してそれに対抗するかの能力だ」
メアリーの疑問にアスタが答える。
「それにアレクの場合、魔力が強いことは昨年もう十分アピールできているから、今回は指示役としてのアピールをしたいんだろう」
この大会には沢山の魔法師たちが見に来ている。弟子になるにはその魔法師たちから認められないといけないので、この大会は自分をアピールする絶好のチャンスなのだ。それに才能がある魔法使いを見つけるために来ている魔法師もいるのだ。
「マリー姉さまは、アスタ先輩と同じで魔術師になると思ってました」
ユアンの隣にちょこんと座って応援していたルナがユアンに向かいそういった。
魔術大会が魔法師のための大会なら、午前中の魔術研究発表会は魔術師のための大会である。
「大会に出る人がみんな魔法師を目指してるわけではないと思うぞ、特にマリーさんは」
「そうだなマリー嬢は王子の婚約者として、教養だけでなく魔法使いとしても国民に尊敬される人物になりたいんじゃないか」
「さすがマリー姉さま。そんなに深いお考えが──」
ルナが尊敬の念を込めて競技場に立っているローズマリーをさらに熱烈に応援する。
真面目なローズマリーならいいそうなことだ。王太子妃ならばすべての見本になるような人物でなければならないと。
そんなことを話している間に、チームはどんどん勝ち進んでいく。
「しかしさっきからなんかマリーばかり狙われてません?」
何回か試合が終わり、今のところアレク達のチームは勝ち続けてはいるのだが他のメンバーよりローズマリーの色がかわるのが早い。
初めての大会で二年生だというのもあるのかもしれないが、アレクのチームはアレクを司令塔として三年はもう一人、あとはみな二年生で属性もバラバラだ。
属性により弱点があるから、当たるチームによっては狙われやすくはなるのはわかるのだが、それにしてもどのチームも属性関係なくまずマリーを狙っているように見えるのは、気のせいであろうか。
「ボクもそう思ってたんだよ」
アンリも頷く。
「水属性の攻撃がマリーに有効なのはわかるけど、木属性の魔法使いはマリーの攻撃を受けたら相殺できずにやられてしまう可能性が高いのに、わざわざマリーに攻撃をしかけているよね、で結局返り討ちにあっているし」
「やっぱりあの噂のせいでマリーを敵視してる生徒が……」
それはユアンたちが危惧していたことだったので否定はできなかった。
アレクもそれに気が付いているのか、後半はローズマリーを前には出さず、サポートに回している。それでもマリーが狙われることは減らなかった。
「アスタ」
不安そうな目でアンリが呼びかけた。
「うん、そろそろ限界だな。いやよく我慢したと思うよ」
アスタが困ったというように眉間にしわを寄せる。
「でも、もういいんじゃないメンバーもだいたい分かったことだし」
「なんの話を──?」
そう言いかけたユアンは刹那すさまじい殺気に思わず言葉をつぐんだ。
それはユアンに向けられたものではなかったが、その場にいた観客たちを全員黙らせるには十分なものだった。それを直接向けられたであろう選手たちに憐みの情を抱くほどに。
「風魔法”殲滅の暴風”」
魔術大会が行われている会場と観客の間には、目には見えないが魔法の壁がある。しかし、その壁がピキピキと今にもヒビが見えるのではないかと思うほど、振動を伝えてくる。
相手チームも相殺すべく魔法を放つが、見る見るうちに、白から青、黄、と色が変わっていく、そしてすべてのメンバーが赤色になると同時にクリスタルも砕け散った。
しかし今のこの状況は異常だ。
前の人生で魔術祭で問題が起きたことはない。しかしあまりにも未来が変わってしまっているので、ユアンでもこの先何が起こるのか見当もつかなかった。
魔術大会は剣術大会と違い参加、不参加は生徒にゆだねられる。
アスタは魔法研究で忙しかったので今年は初めから不参加。メアリーは攻撃魔法は使えないのでエントリーすらしていない。
「まあ幸い俺と同じチームだから。相手も下手なことはできないだろう」
アレクはそう言ったが、みな不安は隠しきれなかった。
そうして魔術大会がはじまった。
魔術大会は剣術大会のような個人戦ではなく、二年と三年の合同メンバーからなる六人一組のチーム戦である。
属性による決まりはないが、それぞれ相性の悪い属性があるのでどのチームも違う属性同士で組んでいることが多い。
相手チームのクリスタルを破壊、もしくはメンバーを全滅させたチームの勝利である。
全滅といっても学園は生徒に怪我をさせてはいけないので、生徒には初めから防御魔法がかけられている。それが攻撃を受けるたびに、白から青、黄、赤と変化し、赤になった時点でその選手は脱落という仕組みだ。
時間切れまで勝負がつかなかったチームは、選手の色で攻撃を受けた人数が少ない方の勝ちとなる。
そうアスタが魔術大会を初めてみるユアンたちのために簡単に説明をした。
「まぁ、アレクと同じチームなら楽勝だろう」
そしてアスタの言った通り、アレクとローズマリーのチームは強かった。三年生は二年生を補佐しながら指示をだし、二年生が攻撃を担当する。
「アレク先輩は前にでてこないんですね」
「そうだな、三年生はだいたい補佐と指示にまわることが多い、なぜなら強い魔法が使えることも大切だが、宮廷魔法師に求められているのは、いかに的確に冷静に状況を把握してそれに対抗するかの能力だ」
メアリーの疑問にアスタが答える。
「それにアレクの場合、魔力が強いことは昨年もう十分アピールできているから、今回は指示役としてのアピールをしたいんだろう」
この大会には沢山の魔法師たちが見に来ている。弟子になるにはその魔法師たちから認められないといけないので、この大会は自分をアピールする絶好のチャンスなのだ。それに才能がある魔法使いを見つけるために来ている魔法師もいるのだ。
「マリー姉さまは、アスタ先輩と同じで魔術師になると思ってました」
ユアンの隣にちょこんと座って応援していたルナがユアンに向かいそういった。
魔術大会が魔法師のための大会なら、午前中の魔術研究発表会は魔術師のための大会である。
「大会に出る人がみんな魔法師を目指してるわけではないと思うぞ、特にマリーさんは」
「そうだなマリー嬢は王子の婚約者として、教養だけでなく魔法使いとしても国民に尊敬される人物になりたいんじゃないか」
「さすがマリー姉さま。そんなに深いお考えが──」
ルナが尊敬の念を込めて競技場に立っているローズマリーをさらに熱烈に応援する。
真面目なローズマリーならいいそうなことだ。王太子妃ならばすべての見本になるような人物でなければならないと。
そんなことを話している間に、チームはどんどん勝ち進んでいく。
「しかしさっきからなんかマリーばかり狙われてません?」
何回か試合が終わり、今のところアレク達のチームは勝ち続けてはいるのだが他のメンバーよりローズマリーの色がかわるのが早い。
初めての大会で二年生だというのもあるのかもしれないが、アレクのチームはアレクを司令塔として三年はもう一人、あとはみな二年生で属性もバラバラだ。
属性により弱点があるから、当たるチームによっては狙われやすくはなるのはわかるのだが、それにしてもどのチームも属性関係なくまずマリーを狙っているように見えるのは、気のせいであろうか。
「ボクもそう思ってたんだよ」
アンリも頷く。
「水属性の攻撃がマリーに有効なのはわかるけど、木属性の魔法使いはマリーの攻撃を受けたら相殺できずにやられてしまう可能性が高いのに、わざわざマリーに攻撃をしかけているよね、で結局返り討ちにあっているし」
「やっぱりあの噂のせいでマリーを敵視してる生徒が……」
それはユアンたちが危惧していたことだったので否定はできなかった。
アレクもそれに気が付いているのか、後半はローズマリーを前には出さず、サポートに回している。それでもマリーが狙われることは減らなかった。
「アスタ」
不安そうな目でアンリが呼びかけた。
「うん、そろそろ限界だな。いやよく我慢したと思うよ」
アスタが困ったというように眉間にしわを寄せる。
「でも、もういいんじゃないメンバーもだいたい分かったことだし」
「なんの話を──?」
そう言いかけたユアンは刹那すさまじい殺気に思わず言葉をつぐんだ。
それはユアンに向けられたものではなかったが、その場にいた観客たちを全員黙らせるには十分なものだった。それを直接向けられたであろう選手たちに憐みの情を抱くほどに。
「風魔法”殲滅の暴風”」
魔術大会が行われている会場と観客の間には、目には見えないが魔法の壁がある。しかし、その壁がピキピキと今にもヒビが見えるのではないかと思うほど、振動を伝えてくる。
相手チームも相殺すべく魔法を放つが、見る見るうちに、白から青、黄、と色が変わっていく、そしてすべてのメンバーが赤色になると同時にクリスタルも砕け散った。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる