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第二章 青春をもう一度
魔術大会
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「私はでますわよ。なにもやましいことはありません」
しかし今のこの状況は異常だ。
前の人生で魔術祭で問題が起きたことはない。しかしあまりにも未来が変わってしまっているので、ユアンでもこの先何が起こるのか見当もつかなかった。
魔術大会は剣術大会と違い参加、不参加は生徒にゆだねられる。
アスタは魔法研究で忙しかったので今年は初めから不参加。メアリーは攻撃魔法は使えないのでエントリーすらしていない。
「まあ幸い俺と同じチームだから。相手も下手なことはできないだろう」
アレクはそう言ったが、みな不安は隠しきれなかった。
そうして魔術大会がはじまった。
魔術大会は剣術大会のような個人戦ではなく、二年と三年の合同メンバーからなる六人一組のチーム戦である。
属性による決まりはないが、それぞれ相性の悪い属性があるのでどのチームも違う属性同士で組んでいることが多い。
相手チームのクリスタルを破壊、もしくはメンバーを全滅させたチームの勝利である。
全滅といっても学園は生徒に怪我をさせてはいけないので、生徒には初めから防御魔法がかけられている。それが攻撃を受けるたびに、白から青、黄、赤と変化し、赤になった時点でその選手は脱落という仕組みだ。
時間切れまで勝負がつかなかったチームは、選手の色で攻撃を受けた人数が少ない方の勝ちとなる。
そうアスタが魔術大会を初めてみるユアンたちのために簡単に説明をした。
「まぁ、アレクと同じチームなら楽勝だろう」
そしてアスタの言った通り、アレクとローズマリーのチームは強かった。三年生は二年生を補佐しながら指示をだし、二年生が攻撃を担当する。
「アレク先輩は前にでてこないんですね」
「そうだな、三年生はだいたい補佐と指示にまわることが多い、なぜなら強い魔法が使えることも大切だが、宮廷魔法師に求められているのは、いかに的確に冷静に状況を把握してそれに対抗するかの能力だ」
メアリーの疑問にアスタが答える。
「それにアレクの場合、魔力が強いことは昨年もう十分アピールできているから、今回は指示役としてのアピールをしたいんだろう」
この大会には沢山の魔法師たちが見に来ている。弟子になるにはその魔法師たちから認められないといけないので、この大会は自分をアピールする絶好のチャンスなのだ。それに才能がある魔法使いを見つけるために来ている魔法師もいるのだ。
「マリー姉さまは、アスタ先輩と同じで魔術師になると思ってました」
ユアンの隣にちょこんと座って応援していたルナがユアンに向かいそういった。
魔術大会が魔法師のための大会なら、午前中の魔術研究発表会は魔術師のための大会である。
「大会に出る人がみんな魔法師を目指してるわけではないと思うぞ、特にマリーさんは」
「そうだなマリー嬢は王子の婚約者として、教養だけでなく魔法使いとしても国民に尊敬される人物になりたいんじゃないか」
「さすがマリー姉さま。そんなに深いお考えが──」
ルナが尊敬の念を込めて競技場に立っているローズマリーをさらに熱烈に応援する。
真面目なローズマリーならいいそうなことだ。王太子妃ならばすべての見本になるような人物でなければならないと。
そんなことを話している間に、チームはどんどん勝ち進んでいく。
「しかしさっきからなんかマリーばかり狙われてません?」
何回か試合が終わり、今のところアレク達のチームは勝ち続けてはいるのだが他のメンバーよりローズマリーの色がかわるのが早い。
初めての大会で二年生だというのもあるのかもしれないが、アレクのチームはアレクを司令塔として三年はもう一人、あとはみな二年生で属性もバラバラだ。
属性により弱点があるから、当たるチームによっては狙われやすくはなるのはわかるのだが、それにしてもどのチームも属性関係なくまずマリーを狙っているように見えるのは、気のせいであろうか。
「ボクもそう思ってたんだよ」
アンリも頷く。
「水属性の攻撃がマリーに有効なのはわかるけど、木属性の魔法使いはマリーの攻撃を受けたら相殺できずにやられてしまう可能性が高いのに、わざわざマリーに攻撃をしかけているよね、で結局返り討ちにあっているし」
「やっぱりあの噂のせいでマリーを敵視してる生徒が……」
それはユアンたちが危惧していたことだったので否定はできなかった。
アレクもそれに気が付いているのか、後半はローズマリーを前には出さず、サポートに回している。それでもマリーが狙われることは減らなかった。
「アスタ」
不安そうな目でアンリが呼びかけた。
「うん、そろそろ限界だな。いやよく我慢したと思うよ」
アスタが困ったというように眉間にしわを寄せる。
「でも、もういいんじゃないメンバーもだいたい分かったことだし」
「なんの話を──?」
そう言いかけたユアンは刹那すさまじい殺気に思わず言葉をつぐんだ。
それはユアンに向けられたものではなかったが、その場にいた観客たちを全員黙らせるには十分なものだった。それを直接向けられたであろう選手たちに憐みの情を抱くほどに。
「風魔法”殲滅の暴風”」
魔術大会が行われている会場と観客の間には、目には見えないが魔法の壁がある。しかし、その壁がピキピキと今にもヒビが見えるのではないかと思うほど、振動を伝えてくる。
相手チームも相殺すべく魔法を放つが、見る見るうちに、白から青、黄、と色が変わっていく、そしてすべてのメンバーが赤色になると同時にクリスタルも砕け散った。
しかし今のこの状況は異常だ。
前の人生で魔術祭で問題が起きたことはない。しかしあまりにも未来が変わってしまっているので、ユアンでもこの先何が起こるのか見当もつかなかった。
魔術大会は剣術大会と違い参加、不参加は生徒にゆだねられる。
アスタは魔法研究で忙しかったので今年は初めから不参加。メアリーは攻撃魔法は使えないのでエントリーすらしていない。
「まあ幸い俺と同じチームだから。相手も下手なことはできないだろう」
アレクはそう言ったが、みな不安は隠しきれなかった。
そうして魔術大会がはじまった。
魔術大会は剣術大会のような個人戦ではなく、二年と三年の合同メンバーからなる六人一組のチーム戦である。
属性による決まりはないが、それぞれ相性の悪い属性があるのでどのチームも違う属性同士で組んでいることが多い。
相手チームのクリスタルを破壊、もしくはメンバーを全滅させたチームの勝利である。
全滅といっても学園は生徒に怪我をさせてはいけないので、生徒には初めから防御魔法がかけられている。それが攻撃を受けるたびに、白から青、黄、赤と変化し、赤になった時点でその選手は脱落という仕組みだ。
時間切れまで勝負がつかなかったチームは、選手の色で攻撃を受けた人数が少ない方の勝ちとなる。
そうアスタが魔術大会を初めてみるユアンたちのために簡単に説明をした。
「まぁ、アレクと同じチームなら楽勝だろう」
そしてアスタの言った通り、アレクとローズマリーのチームは強かった。三年生は二年生を補佐しながら指示をだし、二年生が攻撃を担当する。
「アレク先輩は前にでてこないんですね」
「そうだな、三年生はだいたい補佐と指示にまわることが多い、なぜなら強い魔法が使えることも大切だが、宮廷魔法師に求められているのは、いかに的確に冷静に状況を把握してそれに対抗するかの能力だ」
メアリーの疑問にアスタが答える。
「それにアレクの場合、魔力が強いことは昨年もう十分アピールできているから、今回は指示役としてのアピールをしたいんだろう」
この大会には沢山の魔法師たちが見に来ている。弟子になるにはその魔法師たちから認められないといけないので、この大会は自分をアピールする絶好のチャンスなのだ。それに才能がある魔法使いを見つけるために来ている魔法師もいるのだ。
「マリー姉さまは、アスタ先輩と同じで魔術師になると思ってました」
ユアンの隣にちょこんと座って応援していたルナがユアンに向かいそういった。
魔術大会が魔法師のための大会なら、午前中の魔術研究発表会は魔術師のための大会である。
「大会に出る人がみんな魔法師を目指してるわけではないと思うぞ、特にマリーさんは」
「そうだなマリー嬢は王子の婚約者として、教養だけでなく魔法使いとしても国民に尊敬される人物になりたいんじゃないか」
「さすがマリー姉さま。そんなに深いお考えが──」
ルナが尊敬の念を込めて競技場に立っているローズマリーをさらに熱烈に応援する。
真面目なローズマリーならいいそうなことだ。王太子妃ならばすべての見本になるような人物でなければならないと。
そんなことを話している間に、チームはどんどん勝ち進んでいく。
「しかしさっきからなんかマリーばかり狙われてません?」
何回か試合が終わり、今のところアレク達のチームは勝ち続けてはいるのだが他のメンバーよりローズマリーの色がかわるのが早い。
初めての大会で二年生だというのもあるのかもしれないが、アレクのチームはアレクを司令塔として三年はもう一人、あとはみな二年生で属性もバラバラだ。
属性により弱点があるから、当たるチームによっては狙われやすくはなるのはわかるのだが、それにしてもどのチームも属性関係なくまずマリーを狙っているように見えるのは、気のせいであろうか。
「ボクもそう思ってたんだよ」
アンリも頷く。
「水属性の攻撃がマリーに有効なのはわかるけど、木属性の魔法使いはマリーの攻撃を受けたら相殺できずにやられてしまう可能性が高いのに、わざわざマリーに攻撃をしかけているよね、で結局返り討ちにあっているし」
「やっぱりあの噂のせいでマリーを敵視してる生徒が……」
それはユアンたちが危惧していたことだったので否定はできなかった。
アレクもそれに気が付いているのか、後半はローズマリーを前には出さず、サポートに回している。それでもマリーが狙われることは減らなかった。
「アスタ」
不安そうな目でアンリが呼びかけた。
「うん、そろそろ限界だな。いやよく我慢したと思うよ」
アスタが困ったというように眉間にしわを寄せる。
「でも、もういいんじゃないメンバーもだいたい分かったことだし」
「なんの話を──?」
そう言いかけたユアンは刹那すさまじい殺気に思わず言葉をつぐんだ。
それはユアンに向けられたものではなかったが、その場にいた観客たちを全員黙らせるには十分なものだった。それを直接向けられたであろう選手たちに憐みの情を抱くほどに。
「風魔法”殲滅の暴風”」
魔術大会が行われている会場と観客の間には、目には見えないが魔法の壁がある。しかし、その壁がピキピキと今にもヒビが見えるのではないかと思うほど、振動を伝えてくる。
相手チームも相殺すべく魔法を放つが、見る見るうちに、白から青、黄、と色が変わっていく、そしてすべてのメンバーが赤色になると同時にクリスタルも砕け散った。
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