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第二章 青春をもう一度
土人形は物語る
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「アレクも一緒に寝ちまったか」
朝食が終わるとキールだけでなくアレクも寝ると言ってテントに潜り込んでしまったので、仕方なく残った五人で午前中は実験をすることにした。
渡されたのは琥珀色の魔法石。
「これはもしや……」
「そう”お兄様”いってみようか」
いつのまにルナから調達したのか、ルナの土魔法が込められた魔法石をアスタが四人に配る。
今のところ魔法石に込めた魔力は、魔力を込めた本人が決めた言葉にしか反応しないらしいのだが。
(ルナ、もっといいネーミングはなかったのか)
恥ずか死ぬ。と思いながらアスタから魔法石を受けとる。
「ではせーの!」
「「「「土魔法”お兄様”」」」」
「ほぉ、これはまた面白い結果になったな」
アスタが出来上がった四体の土人形を見比べながら呟く。
「ユアン様のが一番大きくて、造形も細やかですね」
「やはり血のつながりは関係あるのか」
興味深いというように観察する。
「ボクよりメアリーやマリーの方が大きいのはどういうことだろう」
「それは単純に魔力がある無しの問題かもしれませんわ」
アンリの疑問にローズマリーが答える。
「じゃあ、マリーよりメアリーのほうが大きくて、形もしっかりしているのは?」
魔力量だけ見ればローズマリーの方が大きくなるはずだ。
「そうですわね……」
ローズマリーが首をかしげる。
「魔法石の発動威力は精神的なものと関係あるから、もしかしたら……」
(えっ、もしかしてメアリーが僕を気にしているからとか?)
淡い期待が一瞬よぎったが、ローズマリーの次の一言でそれはうち砕かれた。
「イメージの問題かしら?」
「イメージ?」
「はい、ルナさんがこの土人形に抱いているイメージですわ。そして私たちがどれくらいルナさんと近いイメージを持っているか」
アンリが小さく頷く。
「そうか、ボクはユアン君が太っていたことなんて知らないから、確かにルナちゃんの思い描く太ったユアン君のイメージはないね」
ユアンの作ったどっぷりとした重量感のある土人形と目の前のユアンを見比べながら納得がいったというように頷く。
そんな皆が納得しかけている時、ユアンだけ別のことを考えていた。
「メアリーさん?確か初めて会ったのは貿易船のお団子屋さんの前でしたよね」
恐る恐る訪ねる。
その発言にメアリーではなく、ローズマリーがピクリと反応した。そして何かを考えるように眉をしかめる。彼女はメアリーとユアンは旧知の仲だと思っていたからだ。何せ入学当時からメアリーを捜し歩いているユアンを見ていたのだから。
「えぇと……」
少し言いづらそうにメアリーが眉を寄せ困ったような笑みを浮かべる。
ローズマリーがますます訳が分からないという顔で二人のやり取りを見守る。
(ケーキバイキングに誘った時、自分が甘いものが好きだといったことに対して驚くわけでもなくただ笑みを浮かべていたのはもしや)
「僕のこと覚えてたんですか、いつから──」
「でも、確信したのはつい最近なんです」
メアリーからしたらユアンがどうしてそんなに慌てているのかわからないのだが、つられて言い訳をするように早口になる。
洗礼パーティーの時泣きながらケーキを貪り食べていた少年と、団子屋で声をかけたユアンが同一人物だとメアリーは気が付いていた。しかしユアンはその事実を知って顔から火が出るんじゃないかと思うほど、恥ずかしさで真っ赤になる。
そう思って見て見ればメアリーの作ったそれは、ユアンの土人形と比べても二回りほど小さいが、その肉付き重量感そしてはちみつでも取ろうと手を伸ばす子熊のようにも見えなくもないその造形が、初めてメアリーと再会した時のカップケーキ越しに見た自分はこんな風に見えたのではないかと思わずにはいられない、そんな形をしていた。
「ちょっと、僕、用事が──」
この湖のどこに用事があるというのか、しかしユアンはそんな言い訳にまで頭を回していられない、とりあえず一秒でも早くこの場から立ち去りたい。
誰かが何かを言っているが、ユアンは振り返ることなくその場から走り去った。
朝食が終わるとキールだけでなくアレクも寝ると言ってテントに潜り込んでしまったので、仕方なく残った五人で午前中は実験をすることにした。
渡されたのは琥珀色の魔法石。
「これはもしや……」
「そう”お兄様”いってみようか」
いつのまにルナから調達したのか、ルナの土魔法が込められた魔法石をアスタが四人に配る。
今のところ魔法石に込めた魔力は、魔力を込めた本人が決めた言葉にしか反応しないらしいのだが。
(ルナ、もっといいネーミングはなかったのか)
恥ずか死ぬ。と思いながらアスタから魔法石を受けとる。
「ではせーの!」
「「「「土魔法”お兄様”」」」」
「ほぉ、これはまた面白い結果になったな」
アスタが出来上がった四体の土人形を見比べながら呟く。
「ユアン様のが一番大きくて、造形も細やかですね」
「やはり血のつながりは関係あるのか」
興味深いというように観察する。
「ボクよりメアリーやマリーの方が大きいのはどういうことだろう」
「それは単純に魔力がある無しの問題かもしれませんわ」
アンリの疑問にローズマリーが答える。
「じゃあ、マリーよりメアリーのほうが大きくて、形もしっかりしているのは?」
魔力量だけ見ればローズマリーの方が大きくなるはずだ。
「そうですわね……」
ローズマリーが首をかしげる。
「魔法石の発動威力は精神的なものと関係あるから、もしかしたら……」
(えっ、もしかしてメアリーが僕を気にしているからとか?)
淡い期待が一瞬よぎったが、ローズマリーの次の一言でそれはうち砕かれた。
「イメージの問題かしら?」
「イメージ?」
「はい、ルナさんがこの土人形に抱いているイメージですわ。そして私たちがどれくらいルナさんと近いイメージを持っているか」
アンリが小さく頷く。
「そうか、ボクはユアン君が太っていたことなんて知らないから、確かにルナちゃんの思い描く太ったユアン君のイメージはないね」
ユアンの作ったどっぷりとした重量感のある土人形と目の前のユアンを見比べながら納得がいったというように頷く。
そんな皆が納得しかけている時、ユアンだけ別のことを考えていた。
「メアリーさん?確か初めて会ったのは貿易船のお団子屋さんの前でしたよね」
恐る恐る訪ねる。
その発言にメアリーではなく、ローズマリーがピクリと反応した。そして何かを考えるように眉をしかめる。彼女はメアリーとユアンは旧知の仲だと思っていたからだ。何せ入学当時からメアリーを捜し歩いているユアンを見ていたのだから。
「えぇと……」
少し言いづらそうにメアリーが眉を寄せ困ったような笑みを浮かべる。
ローズマリーがますます訳が分からないという顔で二人のやり取りを見守る。
(ケーキバイキングに誘った時、自分が甘いものが好きだといったことに対して驚くわけでもなくただ笑みを浮かべていたのはもしや)
「僕のこと覚えてたんですか、いつから──」
「でも、確信したのはつい最近なんです」
メアリーからしたらユアンがどうしてそんなに慌てているのかわからないのだが、つられて言い訳をするように早口になる。
洗礼パーティーの時泣きながらケーキを貪り食べていた少年と、団子屋で声をかけたユアンが同一人物だとメアリーは気が付いていた。しかしユアンはその事実を知って顔から火が出るんじゃないかと思うほど、恥ずかしさで真っ赤になる。
そう思って見て見ればメアリーの作ったそれは、ユアンの土人形と比べても二回りほど小さいが、その肉付き重量感そしてはちみつでも取ろうと手を伸ばす子熊のようにも見えなくもないその造形が、初めてメアリーと再会した時のカップケーキ越しに見た自分はこんな風に見えたのではないかと思わずにはいられない、そんな形をしていた。
「ちょっと、僕、用事が──」
この湖のどこに用事があるというのか、しかしユアンはそんな言い訳にまで頭を回していられない、とりあえず一秒でも早くこの場から立ち去りたい。
誰かが何かを言っているが、ユアンは振り返ることなくその場から走り去った。
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