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第二章 青春をもう一度
合宿が始まります
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「ルナもお兄様たちと一緒に行きたかったです」
ユアンが両親に話しているのを聞いて、ルナも合宿に行きたがったが、まだ正式に入部してるわけでもないし、同級生よりまだ幼さが残る可愛い娘を、辺境の地に行かすことを親も許してくれなかった。
それにこの休暇中、ルナにはやることがある。
十二歳の洗礼パーティーが終わった子供たちのやることといえばお茶会である。
この国では十六歳になると成人と認められ結婚が許される。
学園を卒業して二年間は魔法の研修生や剣士や侍女、宮廷見習い士となるものが多いが、すでにそのころにはある程度将来有望な若者には婚約者がいたりする。
なのでまだ婚約者のいない特に嫡子でない貴族の子供たちは、なるべく在学中に優秀な人材をみいだし、恋人になり卒業とともに婚約または結婚をしようと頑張るのだ。
そしてハーリング家も長男が伯爵、ユアンが母方の子爵を継ぐことになっている。継ぐ爵位がないルナのため、母もなるべく早くから爵位持ちの貴族と婚約を結びたくこの休みにお茶会を計画したのだ。
(まあ、この先の世の中それほど爵位にこだわる必要はなくなるのだが、確か未来の旦那さんとは、この年のお茶会で出会うはず)
幼さの残る妹の頭を撫ぜながら、ユアンが結婚に思いをはせる。
そこに一台の煌びやかな装飾の馬車がやってくる。
「一緒にいきますわよ」
アンリたちの別荘にはローズマリーのその一言で、一緒に行くことになっていた。
学園では身分は関係ないとはいえ、それでも公爵家。ユアンが迎えの馬車の話をした時の両親の顔は本当にみものだった。
今も馬車が見えてからずっと頭を垂れている。
「じゃあ、いってきます」
両親に声をかけると馬車に乗り込む。
「気を付けていってらっしゃい」
両親の声を聞いて、ローズマリーが挨拶をしようと馬車から出てこようとしたが、それを押し戻す。
「大丈夫です。余計恐縮しちゃいますよ」
そう言って馬車を走らせるようお願いした。
「マリーさん、合宿来ちゃって本当に大丈夫だったんですか」
馬車の中にはローズマリーとユアンの二人だけ。メアリーのおかげで人となりはわかったし、一緒のクラブ活動をして親しくはなったとはいえ、この手の込んだ装飾の美しい馬車を見ると、改めて自分とは格が違う人だということが実感できる。
「公爵令嬢ともなると、休暇中も予定があったりするんじゃないんですか?」
「大丈夫ですわ、学園にいる間はすべて魔法道具の研究に捧げる覚悟でしたから、卒業までは公務的な予定はすべてキャンセルしましたわ」
「キャンセルって──よく両親が許してくれましたね」
あっけにとられる。
(まぁフローレス家は公爵家にも関わらず猫カフェをやっていたりするぐらいだからすでに結構自由な家柄なのかもしれないな)
公爵家だけでない、ここ数年でこの国は身分に対しだいぶ大らかになっている。家柄に縛られずある程度は好きな職種につけるし、実力のあるものはたとえ平民でも出世できる。その筆頭として身分の取り払われた学園生活があるのだ。
「ユアン様こそご予定は大丈夫でしたの?いろいろな令嬢からお茶会のお誘いを受けたのではありませんこと」
「そ、そんなことは……」
前の人生ではありえないことだったが、今回ユアンの実家にはいろいろな令嬢からの招待状が届いていた。
見た目が変わっただけなのに。ユアンは招待状を少し複雑な気分で眺めただけで行く気など全く起きなかった。
「まぁ、あなたがメアリーより優先するものがあるとは思いませんけどね」
そんなユアンをニコニコと眺めながら、すべてわかってますというようにローズマリーが微笑する。
「えっ!?どうしてここでメアリーさんの名を……」
ユアンは両手で顔を覆う、ごまかそうかと一瞬思ったが、それは無理な話みたいだ。
「僕ってそんなに態度にでてます……」
「はい、バレバレですわ。まあ本人は気づいているのかいないのか」
「メアリーは天然ですからね」といって楽しそうに令嬢はフフフと笑った。釣られるようにユアンもひきつった笑みを浮かべた。
先輩たちの別荘でメアリーと合宿。
ローズマリーと馬車で二人。
前の人生で天地がひっくり返してもありえないことばかり。
ほんの少しの行動や気持ちの向け方で、人生とはなんて大きく変わるのだろうか。
いっそ、あの震災もなくならないだろうかなど淡い夢さえ見たくなる。
人の人生はそのつどの選択で変えることができても、自然災害を変えるなど神様しかできないのだろう。
そうして馬車はだんだんと速度を上げながら王都を離れていった。
ユアンが両親に話しているのを聞いて、ルナも合宿に行きたがったが、まだ正式に入部してるわけでもないし、同級生よりまだ幼さが残る可愛い娘を、辺境の地に行かすことを親も許してくれなかった。
それにこの休暇中、ルナにはやることがある。
十二歳の洗礼パーティーが終わった子供たちのやることといえばお茶会である。
この国では十六歳になると成人と認められ結婚が許される。
学園を卒業して二年間は魔法の研修生や剣士や侍女、宮廷見習い士となるものが多いが、すでにそのころにはある程度将来有望な若者には婚約者がいたりする。
なのでまだ婚約者のいない特に嫡子でない貴族の子供たちは、なるべく在学中に優秀な人材をみいだし、恋人になり卒業とともに婚約または結婚をしようと頑張るのだ。
そしてハーリング家も長男が伯爵、ユアンが母方の子爵を継ぐことになっている。継ぐ爵位がないルナのため、母もなるべく早くから爵位持ちの貴族と婚約を結びたくこの休みにお茶会を計画したのだ。
(まあ、この先の世の中それほど爵位にこだわる必要はなくなるのだが、確か未来の旦那さんとは、この年のお茶会で出会うはず)
幼さの残る妹の頭を撫ぜながら、ユアンが結婚に思いをはせる。
そこに一台の煌びやかな装飾の馬車がやってくる。
「一緒にいきますわよ」
アンリたちの別荘にはローズマリーのその一言で、一緒に行くことになっていた。
学園では身分は関係ないとはいえ、それでも公爵家。ユアンが迎えの馬車の話をした時の両親の顔は本当にみものだった。
今も馬車が見えてからずっと頭を垂れている。
「じゃあ、いってきます」
両親に声をかけると馬車に乗り込む。
「気を付けていってらっしゃい」
両親の声を聞いて、ローズマリーが挨拶をしようと馬車から出てこようとしたが、それを押し戻す。
「大丈夫です。余計恐縮しちゃいますよ」
そう言って馬車を走らせるようお願いした。
「マリーさん、合宿来ちゃって本当に大丈夫だったんですか」
馬車の中にはローズマリーとユアンの二人だけ。メアリーのおかげで人となりはわかったし、一緒のクラブ活動をして親しくはなったとはいえ、この手の込んだ装飾の美しい馬車を見ると、改めて自分とは格が違う人だということが実感できる。
「公爵令嬢ともなると、休暇中も予定があったりするんじゃないんですか?」
「大丈夫ですわ、学園にいる間はすべて魔法道具の研究に捧げる覚悟でしたから、卒業までは公務的な予定はすべてキャンセルしましたわ」
「キャンセルって──よく両親が許してくれましたね」
あっけにとられる。
(まぁフローレス家は公爵家にも関わらず猫カフェをやっていたりするぐらいだからすでに結構自由な家柄なのかもしれないな)
公爵家だけでない、ここ数年でこの国は身分に対しだいぶ大らかになっている。家柄に縛られずある程度は好きな職種につけるし、実力のあるものはたとえ平民でも出世できる。その筆頭として身分の取り払われた学園生活があるのだ。
「ユアン様こそご予定は大丈夫でしたの?いろいろな令嬢からお茶会のお誘いを受けたのではありませんこと」
「そ、そんなことは……」
前の人生ではありえないことだったが、今回ユアンの実家にはいろいろな令嬢からの招待状が届いていた。
見た目が変わっただけなのに。ユアンは招待状を少し複雑な気分で眺めただけで行く気など全く起きなかった。
「まぁ、あなたがメアリーより優先するものがあるとは思いませんけどね」
そんなユアンをニコニコと眺めながら、すべてわかってますというようにローズマリーが微笑する。
「えっ!?どうしてここでメアリーさんの名を……」
ユアンは両手で顔を覆う、ごまかそうかと一瞬思ったが、それは無理な話みたいだ。
「僕ってそんなに態度にでてます……」
「はい、バレバレですわ。まあ本人は気づいているのかいないのか」
「メアリーは天然ですからね」といって楽しそうに令嬢はフフフと笑った。釣られるようにユアンもひきつった笑みを浮かべた。
先輩たちの別荘でメアリーと合宿。
ローズマリーと馬車で二人。
前の人生で天地がひっくり返してもありえないことばかり。
ほんの少しの行動や気持ちの向け方で、人生とはなんて大きく変わるのだろうか。
いっそ、あの震災もなくならないだろうかなど淡い夢さえ見たくなる。
人の人生はそのつどの選択で変えることができても、自然災害を変えるなど神様しかできないのだろう。
そうして馬車はだんだんと速度を上げながら王都を離れていった。
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