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第二章 青春をもう一度

たわいのない日常

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「今日は魔力の持続時間を測定したいと思う」

 言われてメアリーが小屋に走っていく。そしてほどなくして、小屋からメアリーとともにローズマリーが出てきた。そうして今までの白い魔法石でなく、赤い魔法石をユアンに手渡す。

「あの光魔法じゃないんですか」

 恐る恐るという感じで尋ねる。

「メアリー嬢の魔力は少ないから継続時間の測定には向いてないんだ」
「大丈夫ですわ。火の魔力をこめてはいますが、攻撃系ではないので火が飛び出したりわしないですわよ」

 安心しておやりなさいとばかりに、ローズマリーが胸を張る。

「…………」

 ユアンが覚悟を決めて石を握りしめる。

「火魔法”灯”」

 何も起きない。

「火魔法”灯”」

 やはり何も起きない。

「変ですわね」

 ローズマリーが首をひねる。

「ちょっとアスタ先輩、代わりにやっていただけます?」

 ユアンが石をアスタに渡す。

「火魔法”灯”」

 魔法石がアスタの言葉に反応して、光を発する。

「…………」
「ユアンビビったのか?まあ確かに暖かい感じはするけど、熱いほどではないぞ」

 アスタが手の中で石を転がしながら、からかうように笑いかける。
 
「ほら、ユアン様大丈夫ですわよ」

 ローズマリーが次の石を渡そうとしたが、ユアンがそれを拒否した。

「すみません、やっぱ火魔法は僕には無理です」

 「えっ?」とローズマリーの動きが止まる。

「なんでですの?」
「ちょっと昔嫌な経験をしてしまって」

 ハハハと乾いた笑いでごまかす。

(まさか「火に焼かれて死んだので」とはいえない)

 ユアンの目をじっと見つめた後、「そういうことはもっと早くおっしゃってください」とため息交じりに言葉をこぼす。

「すみません」

 多分怒っているわけではない、嫌な経験がどんなことなのか知らなくても、心優しいローズマリーのことだ、きっと、嫌なことを思いださせたであろうことに罪悪感を感じたのだろう。

 少し沈んだ声音を聞きながら、ユアンは黙っていたことに心が痛んだ。

「じゃあこの実験は次回にしましょう」

 ローズマリーの言葉に、アスタも仕方ないとばかりに頷く。

「さて、じゃあ今日は何をしようか」

 予定が狂ってしまいアスタが少し途方にくれる。

「たまにはゆっくりお話でもしませんこと」
「あっ、私今日クッキー焼いてきたので、お茶にしましょう」

 メアリーの提案に一同が賛同した。

 
「メアリーは長期休暇はご自宅に帰られるのかしら?」

 お茶を注いでいたメアリーがローズマリーの言葉に顔を上げて「はい」と微笑む。

 研究と実験、毎日同じようなことを続けながらそれでも着実に魔法石の成果は上がっていった、それとは裏腹に、まったく進展のないユアンの恋。

(やばい、もうそんな時期か!)

 クッキーを口にしながら内心ユアンは焦りを隠せなかった。

 あのデートとはとても言えないケーキバイキングを経て、友達宣言をして、距離は前より近づいた気がしていたが、本当にこのままでは一生友達止まりである。

(そうだ、この休みメアリーが実家に帰る前に、今度こそ二人で出かける約束を取り付けなければ)

 周りの目を気にして二人になるチャンスをうかがっている余裕はない、ユアンが決意を固め口を開きかけたその時だった、

「今度の長期休みは、魔法道具研究倶楽部の強化合宿をしたいと思う」

 久しぶりに顔を出したアレクが、部屋に入るなりそう宣言した。

(強化合宿!)

 昨年のキールとの思い出の数々が蘇り、ブルリと身震いをする。

「強化合宿とはなにをするのですか?」

 メアリーの質問にアレクが答える。

「いま魔法石の研究はいままでにないほどいい成果をあげている。そこでさらなる発展のための訓練合宿だ」

 厳しい顔でそう言ったかと思うと、すっと口元を綻ばす。

「というのは建前で、今年で俺たちは学園を卒業する。でも後期休みはみなそれぞれ家のことや、進学のことで忙しいだろう、だから俺たちが君たちと一緒に過ごせるのはこの休みが最後になるだろう。だからみんなで一緒に思い出を作りたい」

 爽やかな笑顔で言う。

「いいですわね」
「私も数日ぐらいでしたら大丈夫だと思います」
「ぼ、僕も大丈夫です」

 合宿はメアリーと一日中ずっと過ごせるチャンスだ、断る理由がない。

「場所はどこにするんですか?」
「それなら大丈夫、うちの別邸が一つ空いている」

 アレクたちの領地はここから馬車で北に一日半ほどで付く、メアリーの家まではそこからさらに北西に一日ぐらいなので、一度みんな実家に帰ってから集まればちょうどよいかもしれない。

「うちの領地は避暑地としても有名な場所だし近くに湖もあるからキャンプもできるぞ」

「素敵ですわね、私外泊など初めてですわ」
「誘っておいてなんだけど、大丈夫なのか公爵令嬢は?」
「大丈夫にしてみせますわ」

 何処から来る自信なのかはわからないが、ローズマリーは胸を張ってそういった。
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