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第二章 青春をもう一度
魔法石と実験
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「おまたせしたね」
そう言ってアスタがニコリと微笑む。へたに顔が整っているせいで見入ってしまいそうになるが、あれは悪魔の微笑みだ。
(待っていたが、待っていたくはなかった。だがこれは仕方ない、僕はこのためにこのクラブに入ったようなものなのだから)
ユアンがそう自分を納得させる。
「でも安心してくれたまえ。初めは僕たちの風魔法で実験する予定だったが、ここに光魔法の使い手が入部してくれたことにより、魔法に成功して魔力が暴走したとしても君を切り刻むような危険はなくなったはずだ」
アスタの後ろに控え、祈るように手を前に組んでこちらの様子を見守っているメアリーと目が合った。
(あぁ。メアリー、君の光魔法のおかげで、どうやらこの実験は格段に安全になったみたいだ──)
感謝の思いを込めて見つめ返す。
「って、今さらりと恐ろしいこといいませんでしたか?」
確かアスタがユアンを被験者として誘った時にはまだメアリーが入部するなんて夢にも思っていなかった時だったはず。
睨みつけるユアンを実験に危険はつきものだとすました顔でながす。
「ユアン様、これを。頑張ってください」
「ありがとう、メアリーさん、君のおかげで安全な実験になったみたいだよ」
ニヤニヤしているアスタをひと睨みしてから、感謝の言葉をメアリーに告げる。
「そんな、私も皆さんのお役にたてて本当にうれしいです」
自分の三つ編みを触りながら照れたように微笑む。
(あぁ、君の魔法なら、僕は多少怪我をしても大丈夫さ)
メアリーから渡された光魔法の魔力が込められた白い魔法石を握りしめ、思わずそんなことを思う。
この間メアリーに”ずっと友達”発言をしてしまったことを、まるで”恋人にはなりません”と解釈されたらどうしようかと寮に帰ってから後悔した時もあったが、なんだかあれから、少し距離が近くなった気がする。
同じ部員の一人から、少し特別な友達程度だが。前までは部室にローズマリーがいないと遠慮がちに聞き役に徹していたメアリーが、今では自然と会話をするようになっていた。
「集中したまえ」
メアリーを見詰めながらそんなことを思っていたユアンの顔を、アスタが両手で挟むと、無理やりに現実に引き戻す。
「理論上危険が減ったというだけで、すべてが初めての実験だ、実際は何が起こるかわからないんだぞ」
いつになく真剣な表情で、ユアンの手の中の魔法石に視線を落とす。
「ここに刻まれているのが、ローズマリー嬢と僕が研究して完成させた魔法陣だ」
それはとてもシンプルな模様だった。
「君はここに手を当て、魔法の言葉を唱える。それだけでいい」
簡単だろ? とアスタが言う。
「じゃあ、僕たちは念のため小屋の裏に隠れるから、合図をしたら魔法を唱えてくれ」
「小屋の裏……これって安全なんですよね?」
今一度確認するユアンをアスタが無言で見詰める。
「さっきも言ったが、歴史上初めての試みだ」
ちなみにと続けて、
「アンリが初めて風魔法を込めた魔法石を使った時は、そよ風程度の魔力しか込めてなかったのに、石が暴走して近くの木が一本折れた。幸いすぐに僕たちが防御魔法《シールド》を使ったから少し手を擦りむいた程度ですんだが」
(そういえば、初めて僕たちがアンリ先輩と会った時、僕たちに逃げてといったのは、もしやまだ制御がうまくいってなかったからなのか?)
「まぁ今回は光魔法、それも明かりを灯すだけの魔法だから、ちょっとまぶしいぐらいだと思うが、一応目はつぶっといた方がいいかもな」
失明する恐れがないとは言い切れないし。ぼそりと独り言のようにつぶやく。
(失明は大問題ですよ!)
そう言ってアスタがニコリと微笑む。へたに顔が整っているせいで見入ってしまいそうになるが、あれは悪魔の微笑みだ。
(待っていたが、待っていたくはなかった。だがこれは仕方ない、僕はこのためにこのクラブに入ったようなものなのだから)
ユアンがそう自分を納得させる。
「でも安心してくれたまえ。初めは僕たちの風魔法で実験する予定だったが、ここに光魔法の使い手が入部してくれたことにより、魔法に成功して魔力が暴走したとしても君を切り刻むような危険はなくなったはずだ」
アスタの後ろに控え、祈るように手を前に組んでこちらの様子を見守っているメアリーと目が合った。
(あぁ。メアリー、君の光魔法のおかげで、どうやらこの実験は格段に安全になったみたいだ──)
感謝の思いを込めて見つめ返す。
「って、今さらりと恐ろしいこといいませんでしたか?」
確かアスタがユアンを被験者として誘った時にはまだメアリーが入部するなんて夢にも思っていなかった時だったはず。
睨みつけるユアンを実験に危険はつきものだとすました顔でながす。
「ユアン様、これを。頑張ってください」
「ありがとう、メアリーさん、君のおかげで安全な実験になったみたいだよ」
ニヤニヤしているアスタをひと睨みしてから、感謝の言葉をメアリーに告げる。
「そんな、私も皆さんのお役にたてて本当にうれしいです」
自分の三つ編みを触りながら照れたように微笑む。
(あぁ、君の魔法なら、僕は多少怪我をしても大丈夫さ)
メアリーから渡された光魔法の魔力が込められた白い魔法石を握りしめ、思わずそんなことを思う。
この間メアリーに”ずっと友達”発言をしてしまったことを、まるで”恋人にはなりません”と解釈されたらどうしようかと寮に帰ってから後悔した時もあったが、なんだかあれから、少し距離が近くなった気がする。
同じ部員の一人から、少し特別な友達程度だが。前までは部室にローズマリーがいないと遠慮がちに聞き役に徹していたメアリーが、今では自然と会話をするようになっていた。
「集中したまえ」
メアリーを見詰めながらそんなことを思っていたユアンの顔を、アスタが両手で挟むと、無理やりに現実に引き戻す。
「理論上危険が減ったというだけで、すべてが初めての実験だ、実際は何が起こるかわからないんだぞ」
いつになく真剣な表情で、ユアンの手の中の魔法石に視線を落とす。
「ここに刻まれているのが、ローズマリー嬢と僕が研究して完成させた魔法陣だ」
それはとてもシンプルな模様だった。
「君はここに手を当て、魔法の言葉を唱える。それだけでいい」
簡単だろ? とアスタが言う。
「じゃあ、僕たちは念のため小屋の裏に隠れるから、合図をしたら魔法を唱えてくれ」
「小屋の裏……これって安全なんですよね?」
今一度確認するユアンをアスタが無言で見詰める。
「さっきも言ったが、歴史上初めての試みだ」
ちなみにと続けて、
「アンリが初めて風魔法を込めた魔法石を使った時は、そよ風程度の魔力しか込めてなかったのに、石が暴走して近くの木が一本折れた。幸いすぐに僕たちが防御魔法《シールド》を使ったから少し手を擦りむいた程度ですんだが」
(そういえば、初めて僕たちがアンリ先輩と会った時、僕たちに逃げてといったのは、もしやまだ制御がうまくいってなかったからなのか?)
「まぁ今回は光魔法、それも明かりを灯すだけの魔法だから、ちょっとまぶしいぐらいだと思うが、一応目はつぶっといた方がいいかもな」
失明する恐れがないとは言い切れないし。ぼそりと独り言のようにつぶやく。
(失明は大問題ですよ!)
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