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第一章 出会いからもう一度
悩めるキールと剣術大会
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『集え未来の剣士達!』
どこかの国の闘牛場をまねて作ったといわれる会場は、まだ午前中だというのにほぼ満席状態だった。まあ午後から行われる騎士学部の剣術大会の席を今のうちから確保するという目的の人が大半を占めてはいるのだろうが、中には噂の<剣鬼>を見に来ている観客も決して少なくはなかった。
そんな観客たちの期待に応えるように、キールは順調に勝ち上がっていった。
(やはり怪我さえしてなければ、キールなら楽勝だな)
決勝戦最後の相手はキールと同じ来年騎士学部を希望している生徒だった。 希望しているだけであって剣術のほうもいいものを持っていた。それでもずっと近くでキールを見ていたユアンには、キールがまだ本気を出していないとわかる程度の相手だった。
「勝ったなこれは」
そう確信した時だった。明らかにキールが戦い相手とは別の何かに気をとられたのがわかった。その一瞬の隙を相手も見逃さなかった。
キールの持っていた剣が相手の剣さばきによってはじかれくるりと空中を舞う。
それで勝負がついた。
表彰式が終わり、優勝した選手以外が会場からでてくる。
「一体何に気をとられたんだよ」
出口で待ち構えていたユアンはキールが出てくるなりそう詰め寄った。
「あぁ、ちょっと……」
「ありえないだろ。ここで勝てたら騎士学部の試合に出れたんだぞ」
うまくすれば来年特待生として学部に入ることだってできたかもしれない。そんな大事な試合に──。
(こっちはメアリーに割きたかった時間を削ってまでキールが怪我をしないように見守ってきたというのに。それもこれもこの試合に勝てれば、キールが夢により一層近づくと思ったからなのに)
自分がかってにやったことなのに、キールに八つ当たりまがいなことを言ってしまい、ユアンは自分を嫌悪した。
「ごめん、悔しいのはキールなのに」
怒ってたかと思ったら今度は自分以上に落ち込むユアンを見て、キールがふっと小さく笑った。
「午後にやることなくなったし、なにか食べようぜユアン」
「食べ物で釣ろうとするな」
思ったほど悔しがっていないキールを少し不思議そうに見上げる。
負けず嫌いなキールのことだ、『次こそ勝つ』と学術祭そっちのけで訓練に走っていくだろうと思っていたのに、試合の勝ち負けよりなにか気になることがあるのだろうか、先ほどから、食べ物屋探してると言うより、なにか違うものを探すようにキョロキョロと周りを見ている。
(そういえばここ最近なにか様子がおかしかったような)
朝もやはり緊張してたわけではなかったのかもしれない。
「なぁキール、どうしたんだよ、なんかおかしいぞ?」
言いかけたユアンのポケットから、先ほど無造作に突っ込んだチラシが落ちる。それをキールが拾い上げる。
「なんだ、こんなのに興味があるのか?」
「いやそれ無理やり渡されたんだよ」
一瞬言おうか言わないか迷う。しかし、あの意味深な顔が脳裏にちらつく、もしかしてキールがおかしいのも何か彼と関係あるのかもしれない。
「ほら、こないだ街であった銀髪の……」
もしキールがこれでなんにも反応を示さなかったら。話は終わりだ、そう思いたかったのだが、 いうが早いか、ガッと肩をつかまれる。
「あいつに会ったのか!」
あまりの剣幕にびっくりして言葉もなくコクコクと肯く。
「どこで!」
「試合の前にたまたま」
「っ!」
「探してたのか?」
キールが自分を探してると言っていた彼の言葉が蘇る。
「いきなり殴ったりしないよな」
そうなら、キールはこんなふうには探さない。でも他に理由が思いう浮かばない。みたこともない幼馴染の表情にユアンは次にかけるべき言葉が思い浮かばなかった。
「……わからない。でももう一度会って確認したいことがある」
しばらくしてぼそりと独りごとのようにキールがそう言った。その手に握られていたチラシがクシャリと音を立てた気がした。
どこかの国の闘牛場をまねて作ったといわれる会場は、まだ午前中だというのにほぼ満席状態だった。まあ午後から行われる騎士学部の剣術大会の席を今のうちから確保するという目的の人が大半を占めてはいるのだろうが、中には噂の<剣鬼>を見に来ている観客も決して少なくはなかった。
そんな観客たちの期待に応えるように、キールは順調に勝ち上がっていった。
(やはり怪我さえしてなければ、キールなら楽勝だな)
決勝戦最後の相手はキールと同じ来年騎士学部を希望している生徒だった。 希望しているだけであって剣術のほうもいいものを持っていた。それでもずっと近くでキールを見ていたユアンには、キールがまだ本気を出していないとわかる程度の相手だった。
「勝ったなこれは」
そう確信した時だった。明らかにキールが戦い相手とは別の何かに気をとられたのがわかった。その一瞬の隙を相手も見逃さなかった。
キールの持っていた剣が相手の剣さばきによってはじかれくるりと空中を舞う。
それで勝負がついた。
表彰式が終わり、優勝した選手以外が会場からでてくる。
「一体何に気をとられたんだよ」
出口で待ち構えていたユアンはキールが出てくるなりそう詰め寄った。
「あぁ、ちょっと……」
「ありえないだろ。ここで勝てたら騎士学部の試合に出れたんだぞ」
うまくすれば来年特待生として学部に入ることだってできたかもしれない。そんな大事な試合に──。
(こっちはメアリーに割きたかった時間を削ってまでキールが怪我をしないように見守ってきたというのに。それもこれもこの試合に勝てれば、キールが夢により一層近づくと思ったからなのに)
自分がかってにやったことなのに、キールに八つ当たりまがいなことを言ってしまい、ユアンは自分を嫌悪した。
「ごめん、悔しいのはキールなのに」
怒ってたかと思ったら今度は自分以上に落ち込むユアンを見て、キールがふっと小さく笑った。
「午後にやることなくなったし、なにか食べようぜユアン」
「食べ物で釣ろうとするな」
思ったほど悔しがっていないキールを少し不思議そうに見上げる。
負けず嫌いなキールのことだ、『次こそ勝つ』と学術祭そっちのけで訓練に走っていくだろうと思っていたのに、試合の勝ち負けよりなにか気になることがあるのだろうか、先ほどから、食べ物屋探してると言うより、なにか違うものを探すようにキョロキョロと周りを見ている。
(そういえばここ最近なにか様子がおかしかったような)
朝もやはり緊張してたわけではなかったのかもしれない。
「なぁキール、どうしたんだよ、なんかおかしいぞ?」
言いかけたユアンのポケットから、先ほど無造作に突っ込んだチラシが落ちる。それをキールが拾い上げる。
「なんだ、こんなのに興味があるのか?」
「いやそれ無理やり渡されたんだよ」
一瞬言おうか言わないか迷う。しかし、あの意味深な顔が脳裏にちらつく、もしかしてキールがおかしいのも何か彼と関係あるのかもしれない。
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もしキールがこれでなんにも反応を示さなかったら。話は終わりだ、そう思いたかったのだが、 いうが早いか、ガッと肩をつかまれる。
「あいつに会ったのか!」
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「どこで!」
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「っ!」
「探してたのか?」
キールが自分を探してると言っていた彼の言葉が蘇る。
「いきなり殴ったりしないよな」
そうなら、キールはこんなふうには探さない。でも他に理由が思いう浮かばない。みたこともない幼馴染の表情にユアンは次にかけるべき言葉が思い浮かばなかった。
「……わからない。でももう一度会って確認したいことがある」
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