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第一章 出会いからもう一度
猫は運命を招きよせる2
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「回復魔法……」
メアリーが魔力持ちなのは知っていたが、微弱な魔力しかないためほとんど使い物にならないと、これまで見せてもらった事は1度もなかった。
メアリーの額に玉のような汗が浮かぶ。
その様子を固唾を飲んで見守るユアン。
「ごめんね。完全に治せなくて」
肩で息を切りながら、メアリーが額の汗をぬぐう。
もっと強い魔力を持っていれば、傷跡も残さず完全に治してしまえるだろう。しかし魔力の弱いメアリーは肌の表面を塞いだだけで、完全に傷を癒す事はできなかった。それでも子猫から流れていた出血はすべて止まっていた。
「いや十分すごいよ!!」
初めて回復魔法を見たユアンは、少し興奮気味に心からそう言った。
魔力を使い切ったメアリーはその場にしゃがみこみながら。
「いいえ、本当の回復魔法はもっと凄いんです」
自嘲的に笑いながらメアリーはそう返した。
「でも、僕一人だったら、きっとこの子を助けることはできなかったです。メアリーさんがいてくれてこの子は一命をとりとめたことには変わりありません。助けてくれてありがとう」
「そんな、私は……」
謙遜しながらもメアリーの耳がほんのり赤く染まる。
さっきまで目をつぶり、息も絶え絶えだった子猫もゴロゴロと喉を鳴らしながら顔を擦り寄せている。
「でも本当に、いまのままじゃ、ちょっとした衝撃でまた出血してしまうかもしれないので、ちゃんとしたとこでもう一度治療させないと」
そう言葉を続けながら、メアリーはカバンからミルクをとりだした。
スポイトのようなものでミルク吸い上げると、手慣れた手つきで子猫の口に流し込む。子猫はそれを飲み終えると。ニャーともう大丈夫だよと言うように小さく甘えた声で鳴いた。
「この子猫はメ……、ベーカーさんの飼い猫?」
「もうメアリーでいいです。あと、私の飼い猫ではありません」
今までも何度か、そしてさっきは慌てて呼び捨てにしてしまったことを彼女も気づいているのだろうか、ベーカーさんと言い直したユアンにメアリーは、困ったような、はにかんだような表情でそう言った。
「なら、僕の事はユアンと呼んでください」
嬉しさのあまり声が裏返りそうになる。今回初めて彼女とちゃんと会話ができてる気がする。
「じゃあこの子猫は?」
「親とはぐれたのか、この間からずっと鳴き声が聞こえていて……」
寮長に話して里親を探すまでという約束で、ここで餌を与えてるといるのだという。
「寮長が猫アレルギーだから、寮には連れて帰れなくて……」
「そうだったんですね」
「でも、まさかカラスに襲われるなんて」
申し訳なさそうに、子猫を頭を撫でるメアリー。
そういえば昔、餌をあげていた子猫がある時から姿を見せなくなってしまったと。『母猫が迎えにきたか、優しい人に拾われていたらよいのだけど』と話してくれたことがあった。
きっとユアンがたまたま通りかかっていなければ、この子猫はあのカラスたちに連れ去られていたのかもしれない。
「メアリーさん、僕にも里親探すの一緒に手伝わせてくれませんか」
若草色の瞳が、ユアンの目を覗き込む。
「あと里親見つかるまで、男子寮においてもらえるか聞いてみます、なんなら見つかるまで僕の実家にでも」
そこで自分の父親が動物嫌いだったことをふと思い出す。しかし僕は頭を振ると、どっか空いてる別荘にしばらく置いてもらうぐらいなら許してもらえるだろうと考え直す。
「ありがとうございます。実は私色々あってまだ学園に相談できるような友達がいなくて本当に困っていたんです」
(知っている)
「私実家では猫を飼っているので、世話は得意なんですけど」
(それも知っている)
「任せてください、またさっきみたいなカラスに襲われる危険性があるので、今日は僕が連れて帰ります」
そう言いながら内心自分にも友達と呼べる人なんて、過去にも未来にもキールぐらいしかいないんだったと考える。
(まあ、そのキールに頼のめば、どうにかなるだろ)
キールは友達も多いし、動物の扱いにも慣れている。
それよりも、今回の人生で初めてメアリーから、困惑や怯えではない、キラキラした瞳を向けられ、ユアンは今までに感じたこともないような高揚感で今にも舞い上がりそうだった。
「メアリーさんも、もう安心してください」
声がひっくり返らないように紳士的にそういったつもりだったが、自分の耳に届いた声はやはり少し裏返っていた。
メアリーが魔力持ちなのは知っていたが、微弱な魔力しかないためほとんど使い物にならないと、これまで見せてもらった事は1度もなかった。
メアリーの額に玉のような汗が浮かぶ。
その様子を固唾を飲んで見守るユアン。
「ごめんね。完全に治せなくて」
肩で息を切りながら、メアリーが額の汗をぬぐう。
もっと強い魔力を持っていれば、傷跡も残さず完全に治してしまえるだろう。しかし魔力の弱いメアリーは肌の表面を塞いだだけで、完全に傷を癒す事はできなかった。それでも子猫から流れていた出血はすべて止まっていた。
「いや十分すごいよ!!」
初めて回復魔法を見たユアンは、少し興奮気味に心からそう言った。
魔力を使い切ったメアリーはその場にしゃがみこみながら。
「いいえ、本当の回復魔法はもっと凄いんです」
自嘲的に笑いながらメアリーはそう返した。
「でも、僕一人だったら、きっとこの子を助けることはできなかったです。メアリーさんがいてくれてこの子は一命をとりとめたことには変わりありません。助けてくれてありがとう」
「そんな、私は……」
謙遜しながらもメアリーの耳がほんのり赤く染まる。
さっきまで目をつぶり、息も絶え絶えだった子猫もゴロゴロと喉を鳴らしながら顔を擦り寄せている。
「でも本当に、いまのままじゃ、ちょっとした衝撃でまた出血してしまうかもしれないので、ちゃんとしたとこでもう一度治療させないと」
そう言葉を続けながら、メアリーはカバンからミルクをとりだした。
スポイトのようなものでミルク吸い上げると、手慣れた手つきで子猫の口に流し込む。子猫はそれを飲み終えると。ニャーともう大丈夫だよと言うように小さく甘えた声で鳴いた。
「この子猫はメ……、ベーカーさんの飼い猫?」
「もうメアリーでいいです。あと、私の飼い猫ではありません」
今までも何度か、そしてさっきは慌てて呼び捨てにしてしまったことを彼女も気づいているのだろうか、ベーカーさんと言い直したユアンにメアリーは、困ったような、はにかんだような表情でそう言った。
「なら、僕の事はユアンと呼んでください」
嬉しさのあまり声が裏返りそうになる。今回初めて彼女とちゃんと会話ができてる気がする。
「じゃあこの子猫は?」
「親とはぐれたのか、この間からずっと鳴き声が聞こえていて……」
寮長に話して里親を探すまでという約束で、ここで餌を与えてるといるのだという。
「寮長が猫アレルギーだから、寮には連れて帰れなくて……」
「そうだったんですね」
「でも、まさかカラスに襲われるなんて」
申し訳なさそうに、子猫を頭を撫でるメアリー。
そういえば昔、餌をあげていた子猫がある時から姿を見せなくなってしまったと。『母猫が迎えにきたか、優しい人に拾われていたらよいのだけど』と話してくれたことがあった。
きっとユアンがたまたま通りかかっていなければ、この子猫はあのカラスたちに連れ去られていたのかもしれない。
「メアリーさん、僕にも里親探すの一緒に手伝わせてくれませんか」
若草色の瞳が、ユアンの目を覗き込む。
「あと里親見つかるまで、男子寮においてもらえるか聞いてみます、なんなら見つかるまで僕の実家にでも」
そこで自分の父親が動物嫌いだったことをふと思い出す。しかし僕は頭を振ると、どっか空いてる別荘にしばらく置いてもらうぐらいなら許してもらえるだろうと考え直す。
「ありがとうございます。実は私色々あってまだ学園に相談できるような友達がいなくて本当に困っていたんです」
(知っている)
「私実家では猫を飼っているので、世話は得意なんですけど」
(それも知っている)
「任せてください、またさっきみたいなカラスに襲われる危険性があるので、今日は僕が連れて帰ります」
そう言いながら内心自分にも友達と呼べる人なんて、過去にも未来にもキールぐらいしかいないんだったと考える。
(まあ、そのキールに頼のめば、どうにかなるだろ)
キールは友達も多いし、動物の扱いにも慣れている。
それよりも、今回の人生で初めてメアリーから、困惑や怯えではない、キラキラした瞳を向けられ、ユアンは今までに感じたこともないような高揚感で今にも舞い上がりそうだった。
「メアリーさんも、もう安心してください」
声がひっくり返らないように紳士的にそういったつもりだったが、自分の耳に届いた声はやはり少し裏返っていた。
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