【完結】二度目の人生、君ともう一度!〜彼女を守りたいだけなのに〜

トト

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第一章 出会いからもう一度

そうして僕らは……

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「うわっ!びっくりした!」

 訓練から帰ってきたキールは部屋の明かりをつけるなり、机に突っ伏しているユアンに気が付き、驚きの声を上げた。

「ど、どうしたんだよ。今日はケーキバイキングに行ってきたんじゃなかったのか?」

 尋常でないユアンのありさまに、怖いもの知らずのキールさえ恐る恐る声をかける。

「これ、お土産」

 いきなり突きつけられた紙袋に、思わずキールが一歩後ろに飛ぶ。

「あっ、ありがとう」

 慎重にそれを受け取ると、

「何があったんだよ。ケーキ食べれなかったのか?」

 子供をあやす父親のような優しい声音で尋ねる。

「おいしかった」

 初めこそ緊張で味もなにもわからなかったが、後半は結構しっかり味わっていた。

「楽しくなかったのか?」
「楽しかった」

 ならなぜ?キールの戸惑いもごもっともである。

「僕は、臆病者な、チキンヤローだ!」

 いうなりガッとキールの胸に飛びつく。そんなユアンをしっかり抱きとめながら、キールもとりあえず背中をやさしくトントンと叩く。

「なにがあったかはわからないが。ユアンはチキンヤローなんかじゃないさ。それは俺が保証する」

 幼馴染とはいえキールは自分に甘すぎる。とユアンは思う。

(でも今日だけはその甘えを存分にいただこう)


 ──数時間前。メアリーとの帰り道。

 感謝の言葉を向けるメアリーと目が合った瞬間、これはチャンスなんじゃないかとそう思った。

「メアリーさん──!」

 付き合ってください。と言おうとしたわずかな間にユアンの脳がフル回転した。

 もし、振られたら!?
 クラブ活動気まずくならないか?
 感謝と好意は別物だぞ!
 この間、何一ついいところ見せていないと自分でいっていたばかりじゃないか!
 これからいい男になって、メアリーを惚れさせるんじゃなかったのか!
 早まるな、まだ早い!
 来年別々の学部塔になったら挽回する機会なんてなくなるず、今は慎重にクラブ活動で自分の魅力をアピールしてからでも遅くはない!

 一瞬の迷いだった。しかしその一瞬がユアンの勢い任せの告白に急ブレーキをかけた。

「どうしました、ユアン様?」

 若草色の瞳が問いかける。

「メアリーさんならきっと大丈夫です。きっとりっぱな回復魔法士にだってなれますよ」
 
 若草色の瞳を見つめ返しながらゆっくりとでも力強く言葉にする。それは本当に思っていたことなので、ちょっと初めの勢いとはニュアンスが違っていたかもしれないが、それでも嘘偽りない言葉として届いたに違いない。

「なんてったって、魔術大会優勝者のアレクさんが直接指導してくれているんですよ。それに本当に魔具研で魔法石に込める魔力量も増えてきているじゃないですか」

 アスタが毎日部員の魔力量を計測しているが、もともと魔力量の多いアレクは訓練してもほとんど変わらないのに対し、魔力の少なかったメアリーは少しづつではあるが、確実にその量を増やしていっていた。
 それに伴い魔法の威力も増していっているのがしっかりと数値として表れている。

「本当にそう思いますか」
「えぇ、来年魔法学部でさらにちゃんとした指導を受ければ、きっとメアリーさんは魔法使いだろうが、回復魔法士だろうが、きっとあなたがなりたいものになれますよ」

 隠すように口元を手で覆いながら、その瞳が嬉しそうに細めらる。

「ユアン様にそう言ってもらえたら、なんだか私もできそうな気がしてきました」
「メアリーさんなら大丈夫です。自信をもって頑張ってください」
「ありがとうございます。私頑張ります」

 未来を夢見て瞳を輝かすメアリーを見ながら、ユアンは今回はこの流れで間違っていなかったとそう確信した。ただ──
 
「メアリーさん」
「なんですか?」
「来年、魔法学部と行政学部、学部も塔も違ってしまいます」

 何を言いたいのかわからないと言いうように、メアリーが首をかしげる。

「素敵な出会いもあるかもしれません。でもこれからも僕たちはずっと魔具研の仲間です。だから、これからも良いお友達として、末永くよろしくお願いします!」

 真っ赤な顔でそういうユアンにメアリーはちょっとびっくりした様子だったが、すぐに「あたりまえじゃないですか。こちらこそ、よろしくお願いします」と、言って満面の笑みを向ける。
 その頬もユアン同様少し赤らんで見えたのは夕焼けに照らされただけのせいなのか。

(メアリー)

 キラキラ輝く可愛らしいメアリーの顔が脳裏に浮かぶ──


「それでも、一歩前進したんだよな」
「あぁ、そうだな」

 抱きついたまま押し黙っているユアンがようやく呟いた一言に、話が全く見えないがとりあえずキールが同意する。
 
 もうすぐ一学年が終わろうとしている時期のことである。
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