35 / 147
第一章 出会いからもう一度
それは一つのターニングポイント
しおりを挟む
──夢を見た。
寮の窓から眼前に広がる田園風景、その先には活気に満ちた街や港が見える。
夕焼けが海を真っ赤に染めていく。しかしその赤色は海だけでなく港や街にも広がって、そして気づけばのどかだった風景は、燃え盛る炎に飲み込まれていた。
「──!!」
ユアンの声にならない叫び声に、隣でぐっすりと寝むっていたキールが飛び起きた。
「ど、どうした!?」
シーツがぐっしょりと湿るほどの汗。
「……大丈夫……ただの夢だ…………」
「びっくりさせるなよ」
それを聞いて、キールが重い瞼をこすりながら再び布団に潜り込む。
一人暗闇の残されたユアンは、まだ小さく震えている体を抱きしめた。
「夢だ、これは夢だ……」
自分にいい聞かすように何度も呟く。
そうして学術祭2日目の朝は開けた。
※ ※ ※
「あれ、また来たんだ」
歓迎してるのかそうでないのかわからない笑顔を貼り付けながら、三つ子の次男であるアスタが入ってきたユアンにそう言った。
「今日は一人?」
「ちょっと確認したいことがありまして」
本来ならクラスの出し物の手伝いで裏方に徹してる時間だったが、宣伝係に頼んで変わってもらったのだ。
「だからそんな、看板胸から下げてるんだ」
「サボるわけにはいかないですからね」
「こんな人が滅多にこないとこで、宣伝って」
鼻で笑われる。
(いちいち突っかかてくるな、この人は。でも今日はキールがいないせいか、睨みつけてはこないな、やはり、シスコンか)
心の中で悪態をつく。
「魔法石の研究はどこまで進んでるんですか?」
「なに、興味持っちゃったの」
ニヤニヤと聞き返すアスタに、素気なくユアンは続けた。
「本当に特別な契約もなしに、魔力がない人でも魔法が使えたりするんですか?」
チラリとアスタの表情を窺う。
「知りたい? でも関係者でもない人に教えるのはなぁ」
アスタはアスタで、チラリとユアンを見ながら勿体ぶったようにそうかえした。
「でも僕たちは魔力のないアンリさんが魔法を使うのをみたんですよ。今更……」
「まぁそうだよね。でもそれは、僕たちが三つ子だから……かもしれないだろ」
まだ何か秘密があるのか、少し含んだような言い方をする。
「えっ、……」
ユアンの残念そうな表情を見て、アスタが首を横に振った。
「まあ、そうがっかりするな。本当のところまだ僕たちもよくわからないんだよ」
アスタが肩をすくめる。
「実験は成功したのか。それともアンリだから使えたのか。ただ僕はアンリさえ魔法が使えるようになったのなら、それはそれで成功といってもいいんだけどね。そもそもこの研究を始めたのは、三人の中でアンリだけ魔法が使えないのがかわいそうだっただけだし」
さらりと言う。
「でも、アンリはそうじゃない、本当にみんなが魔法が使えるようになったらいいと思ってる。本当に優しい子だよ」
アレクはどういうつもりかわからないけど。と付け加える。
「そうだ。ねっ、キミは魔力ないよね」
眼鏡の奥でその紫色の瞳が怪しく輝いた。
「ユアン・ハーリング君、キミ僕らのモル、協力者になるきない」
視線が空中で絡み合う、背筋にぞくりとした寒気が走った。
(──っ! 今、モルモットって言おうとしただろ)
「そしたら、この実験が本当に成功しているのか、それとも僕らだけの絆の力のなせる業なのかがわかるじゃないか」
ニコニコとアレクが続ける。
「世のため人のためとかはどうでもいいけど、僕の考えた研究が本当に成功しているかどうかは僕も気になるところだし、キミもこの研究に興味があるんでしょ、これはフィフティフィフティの取引じゃないかな」
(いや、どう考えても僕が苦労する未来しか見えないが)
しかしとも思う。
(僕が協力すれば、あの発明が早まるかもしれない)
「わかった」と返事をしようとアレクの顔をみた瞬間、言いかけた言葉を飲み込んだ。本能が警鐘を鳴らす。
(──絶対、ヤバいやつだ。それに本当にこんな偶然あるのか、もしかした他のところでも同じような研究は行われていて、そっちが僕の知る発明品を作るかもしれないじゃないか)
「一度考えさせてください」
ユアンはそう言い残すと早足に小屋を後にした。
寮の窓から眼前に広がる田園風景、その先には活気に満ちた街や港が見える。
夕焼けが海を真っ赤に染めていく。しかしその赤色は海だけでなく港や街にも広がって、そして気づけばのどかだった風景は、燃え盛る炎に飲み込まれていた。
「──!!」
ユアンの声にならない叫び声に、隣でぐっすりと寝むっていたキールが飛び起きた。
「ど、どうした!?」
シーツがぐっしょりと湿るほどの汗。
「……大丈夫……ただの夢だ…………」
「びっくりさせるなよ」
それを聞いて、キールが重い瞼をこすりながら再び布団に潜り込む。
一人暗闇の残されたユアンは、まだ小さく震えている体を抱きしめた。
「夢だ、これは夢だ……」
自分にいい聞かすように何度も呟く。
そうして学術祭2日目の朝は開けた。
※ ※ ※
「あれ、また来たんだ」
歓迎してるのかそうでないのかわからない笑顔を貼り付けながら、三つ子の次男であるアスタが入ってきたユアンにそう言った。
「今日は一人?」
「ちょっと確認したいことがありまして」
本来ならクラスの出し物の手伝いで裏方に徹してる時間だったが、宣伝係に頼んで変わってもらったのだ。
「だからそんな、看板胸から下げてるんだ」
「サボるわけにはいかないですからね」
「こんな人が滅多にこないとこで、宣伝って」
鼻で笑われる。
(いちいち突っかかてくるな、この人は。でも今日はキールがいないせいか、睨みつけてはこないな、やはり、シスコンか)
心の中で悪態をつく。
「魔法石の研究はどこまで進んでるんですか?」
「なに、興味持っちゃったの」
ニヤニヤと聞き返すアスタに、素気なくユアンは続けた。
「本当に特別な契約もなしに、魔力がない人でも魔法が使えたりするんですか?」
チラリとアスタの表情を窺う。
「知りたい? でも関係者でもない人に教えるのはなぁ」
アスタはアスタで、チラリとユアンを見ながら勿体ぶったようにそうかえした。
「でも僕たちは魔力のないアンリさんが魔法を使うのをみたんですよ。今更……」
「まぁそうだよね。でもそれは、僕たちが三つ子だから……かもしれないだろ」
まだ何か秘密があるのか、少し含んだような言い方をする。
「えっ、……」
ユアンの残念そうな表情を見て、アスタが首を横に振った。
「まあ、そうがっかりするな。本当のところまだ僕たちもよくわからないんだよ」
アスタが肩をすくめる。
「実験は成功したのか。それともアンリだから使えたのか。ただ僕はアンリさえ魔法が使えるようになったのなら、それはそれで成功といってもいいんだけどね。そもそもこの研究を始めたのは、三人の中でアンリだけ魔法が使えないのがかわいそうだっただけだし」
さらりと言う。
「でも、アンリはそうじゃない、本当にみんなが魔法が使えるようになったらいいと思ってる。本当に優しい子だよ」
アレクはどういうつもりかわからないけど。と付け加える。
「そうだ。ねっ、キミは魔力ないよね」
眼鏡の奥でその紫色の瞳が怪しく輝いた。
「ユアン・ハーリング君、キミ僕らのモル、協力者になるきない」
視線が空中で絡み合う、背筋にぞくりとした寒気が走った。
(──っ! 今、モルモットって言おうとしただろ)
「そしたら、この実験が本当に成功しているのか、それとも僕らだけの絆の力のなせる業なのかがわかるじゃないか」
ニコニコとアレクが続ける。
「世のため人のためとかはどうでもいいけど、僕の考えた研究が本当に成功しているかどうかは僕も気になるところだし、キミもこの研究に興味があるんでしょ、これはフィフティフィフティの取引じゃないかな」
(いや、どう考えても僕が苦労する未来しか見えないが)
しかしとも思う。
(僕が協力すれば、あの発明が早まるかもしれない)
「わかった」と返事をしようとアレクの顔をみた瞬間、言いかけた言葉を飲み込んだ。本能が警鐘を鳴らす。
(──絶対、ヤバいやつだ。それに本当にこんな偶然あるのか、もしかした他のところでも同じような研究は行われていて、そっちが僕の知る発明品を作るかもしれないじゃないか)
「一度考えさせてください」
ユアンはそう言い残すと早足に小屋を後にした。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる