31 / 147
第一章 出会いからもう一度
魔法道具研究所同好会
しおりを挟む
学園には六つの大きな塔がある。
一年生だけが集められた一年生塔。二年生以上の生徒たちが学部ごとに振り分けられている、三大学部塔と呼ばれる騎士学部塔、魔法学部塔、行政学部塔。学園に残り研究を続ける者たちのための研究塔。そして職員や来賓施設が入っている管理塔である。
それらの塔を上空からみれば、各塔が六芒星の頂点になるよう建てられていることがわかる。
そしてそれは学園全体を魔法の防壁で包み外部からのいかなる侵入をも防ぐ魔術の発動の要を担っていた。
そんな魔法学部塔と行政学部塔の中間、生徒たちが溢れる校内エリアからだいぶ奥まった薄暗い雑草が生えた歩道とは到底言えないような獣道のような道を抜けた先に、その小屋はひっそりと存在した。
「どうぞ中へ」
ユアンとキールがチラシに書かれている案内に沿ってやってきたものの、そのあまりのみすぼらしさに本当にこの小屋であっているのかと、立ち往生していると小屋の中から声がかけられた。
「お邪魔します」
みすぼらしい外見の割に、中はこじんまりとはしているが、清潔な空気できれいに整理整頓されていた。
そして、さらにみすぼらしい小屋とは不釣り合いな、キラキラとした銀髪の美少年が一人ユアン達を出迎えていた。
「あっ」
ユアンは少年を見るなり合っていたと言う安堵とともに、さっきとはまたうってかわって、爽やかな笑顔の少年を疑いの眼差しで見つめる。
そこらへんの女生徒たちなら、少年がこんな笑顔を向けてきたらそれこそイチコロだろう、しかしユアンは長年の経験で少年の笑顔が作られたもので、眼鏡の奥からかすかに覗くその紫色の瞳がじっとこっちを冷静に品定めしているということがわかった。
「そんなところに立っていないで、どうぞ中に入ってください」
警戒しながらもとりあえず言われるがままに中に入る。
「えー今日は見学ですか、それとも入部ですか」
ニコニコと対応する銀髪の少年。
「あなたが来いって言ったんじゃないですか」
本当はきたくなかったと言うように、眉間にしわを寄せる。
「……!?」
ニコニコと細められていた目が、一瞬大きくこちらをとらえたと思ったら、少しの沈黙の後スッと細められる。
「──あぁ、お前達が」
先ほどまでのウェルカムな雰囲気とは違い、明らかに部屋の温度が2、3度下がったような、心のそこから底冷えするような低い低音で、誰にともなくそうつぶやく。
「なっ、なんだよ」
さっきも思ったが、あまりにコロコロ態度を変えてくる、情緒不安定なんじゃないか?
──または二重人格者!?
「そうか、そうだな、まぁ確かに」
黙っているユアンたちをよそに、少年はぶつぶつと独り言を呟く。
「こないだは悪かったな、巻き込むつもりはなかったんだ。だいたいあえて人通りのない裏路地に入ったってのに、勝手についてきたお前らが悪いだろ」
── いったい自分たちはなにを聞かされているのだろう。人を呼びつけといて、どういうつもりだ!?
「もう結構です、キール行くぞ」
ユアンが珍しく強い口調でそう言って出口に向かう。
「あっ、あとそこの赤髪!僕は確かに美しいがれっきとした男だ、何を勘違いしてるんだか知らないが、二度と僕のことを探して魔法学部をウロチョロするんじゃないぞ。目障りだ」
「──!?」
(今目の前の男は何と言った? 本当にキールがこんなやつを探していた? なんで……?)
「…………」
それまで一言も話さなかったキールがぼりぼりと頭をかく。
「?」
「?!」
「先輩みたいだから大人しくしてましたが。俺が探してるのはあなたじゃないです」
何を言っているのかわからずキョトンとするユアン。対照的に、今まで冷たくあしらうように対応していた少年が初めて大きく目を見開き動揺を見せた。
「なに馬鹿なこと言ってるんだ? この間路地裏でお前たちに怪我をさせかけたのはこの僕だ!」
「あなた自分で男だといったじゃないですか。俺が探してるのは女の子だ!」
「──っ! だからそれは僕だ! 僕のあまりの美しさとあの時の混乱で、お前が勘違いしてるだけだ!」
話についていけずキールと少年を交互に見る。
「えっ、えっ」
(同一人物ではなかったのか!? 確かにずっと違和感はあったが──)
その時ちょうど小屋の扉が大きく開いた。
「アスタ、彼が来てるって!?」
太陽の光を背に浴びて、キラキラと輝く銀色の髪。眼鏡の奥から大きく見開かれてこちらを除く紫色の瞳。
今目の前でキールと訳の分からない言い争いをしている少年と、全く同じ顔がそこにはあった。
「双子だったのか!?」
「残念、三つ子です」
ユアンの言葉にかぶせるように、さらに後から一回り大きなやはり同じ顔の少年が姿を現す。
「もうアスタ。勝手に話を終わらせようとしないように」
この場のこの何とも言えないカオスな雰囲気の中。そんなこと微塵も感じさせない呑気な口調で、同じ顔だが少しだけ背の高い少年がそう言って微笑む。
チラシを渡してきたのはこの少年だな、混乱する頭の中でユアンはそれだけ確信するのが精一杯だった。
一年生だけが集められた一年生塔。二年生以上の生徒たちが学部ごとに振り分けられている、三大学部塔と呼ばれる騎士学部塔、魔法学部塔、行政学部塔。学園に残り研究を続ける者たちのための研究塔。そして職員や来賓施設が入っている管理塔である。
それらの塔を上空からみれば、各塔が六芒星の頂点になるよう建てられていることがわかる。
そしてそれは学園全体を魔法の防壁で包み外部からのいかなる侵入をも防ぐ魔術の発動の要を担っていた。
そんな魔法学部塔と行政学部塔の中間、生徒たちが溢れる校内エリアからだいぶ奥まった薄暗い雑草が生えた歩道とは到底言えないような獣道のような道を抜けた先に、その小屋はひっそりと存在した。
「どうぞ中へ」
ユアンとキールがチラシに書かれている案内に沿ってやってきたものの、そのあまりのみすぼらしさに本当にこの小屋であっているのかと、立ち往生していると小屋の中から声がかけられた。
「お邪魔します」
みすぼらしい外見の割に、中はこじんまりとはしているが、清潔な空気できれいに整理整頓されていた。
そして、さらにみすぼらしい小屋とは不釣り合いな、キラキラとした銀髪の美少年が一人ユアン達を出迎えていた。
「あっ」
ユアンは少年を見るなり合っていたと言う安堵とともに、さっきとはまたうってかわって、爽やかな笑顔の少年を疑いの眼差しで見つめる。
そこらへんの女生徒たちなら、少年がこんな笑顔を向けてきたらそれこそイチコロだろう、しかしユアンは長年の経験で少年の笑顔が作られたもので、眼鏡の奥からかすかに覗くその紫色の瞳がじっとこっちを冷静に品定めしているということがわかった。
「そんなところに立っていないで、どうぞ中に入ってください」
警戒しながらもとりあえず言われるがままに中に入る。
「えー今日は見学ですか、それとも入部ですか」
ニコニコと対応する銀髪の少年。
「あなたが来いって言ったんじゃないですか」
本当はきたくなかったと言うように、眉間にしわを寄せる。
「……!?」
ニコニコと細められていた目が、一瞬大きくこちらをとらえたと思ったら、少しの沈黙の後スッと細められる。
「──あぁ、お前達が」
先ほどまでのウェルカムな雰囲気とは違い、明らかに部屋の温度が2、3度下がったような、心のそこから底冷えするような低い低音で、誰にともなくそうつぶやく。
「なっ、なんだよ」
さっきも思ったが、あまりにコロコロ態度を変えてくる、情緒不安定なんじゃないか?
──または二重人格者!?
「そうか、そうだな、まぁ確かに」
黙っているユアンたちをよそに、少年はぶつぶつと独り言を呟く。
「こないだは悪かったな、巻き込むつもりはなかったんだ。だいたいあえて人通りのない裏路地に入ったってのに、勝手についてきたお前らが悪いだろ」
── いったい自分たちはなにを聞かされているのだろう。人を呼びつけといて、どういうつもりだ!?
「もう結構です、キール行くぞ」
ユアンが珍しく強い口調でそう言って出口に向かう。
「あっ、あとそこの赤髪!僕は確かに美しいがれっきとした男だ、何を勘違いしてるんだか知らないが、二度と僕のことを探して魔法学部をウロチョロするんじゃないぞ。目障りだ」
「──!?」
(今目の前の男は何と言った? 本当にキールがこんなやつを探していた? なんで……?)
「…………」
それまで一言も話さなかったキールがぼりぼりと頭をかく。
「?」
「?!」
「先輩みたいだから大人しくしてましたが。俺が探してるのはあなたじゃないです」
何を言っているのかわからずキョトンとするユアン。対照的に、今まで冷たくあしらうように対応していた少年が初めて大きく目を見開き動揺を見せた。
「なに馬鹿なこと言ってるんだ? この間路地裏でお前たちに怪我をさせかけたのはこの僕だ!」
「あなた自分で男だといったじゃないですか。俺が探してるのは女の子だ!」
「──っ! だからそれは僕だ! 僕のあまりの美しさとあの時の混乱で、お前が勘違いしてるだけだ!」
話についていけずキールと少年を交互に見る。
「えっ、えっ」
(同一人物ではなかったのか!? 確かにずっと違和感はあったが──)
その時ちょうど小屋の扉が大きく開いた。
「アスタ、彼が来てるって!?」
太陽の光を背に浴びて、キラキラと輝く銀色の髪。眼鏡の奥から大きく見開かれてこちらを除く紫色の瞳。
今目の前でキールと訳の分からない言い争いをしている少年と、全く同じ顔がそこにはあった。
「双子だったのか!?」
「残念、三つ子です」
ユアンの言葉にかぶせるように、さらに後から一回り大きなやはり同じ顔の少年が姿を現す。
「もうアスタ。勝手に話を終わらせようとしないように」
この場のこの何とも言えないカオスな雰囲気の中。そんなこと微塵も感じさせない呑気な口調で、同じ顔だが少しだけ背の高い少年がそう言って微笑む。
チラシを渡してきたのはこの少年だな、混乱する頭の中でユアンはそれだけ確信するのが精一杯だった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる