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第一章 出会いからもう一度
学術祭と銀髪美少年再び
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魔法であがった色とりどりの煙幕を合図にこれから二日間フーブル学園学術祭が開催される。
その間は学園には生徒やその親族だけではなく、王族や騎士団の団長、近隣の貴族や地主、遠く国外からも様々な人がやってくる。中でも目玉の剣術大会と魔術大会には将来の人材を獲得すべく熱い視線が注がれる。
「じゃあキール、頑張れよちゃんと見に行くからな」
『集え未来の剣士達』は初日の午前中である。
「……あぁ」
珍しく緊張しているのだろうか、いつもだったら自信満々に優勝宣言してきてもよさそうなのところ、どうにも朝から覇気がない。
「どうした?」
まさかあの後に怪我をしてしまったのか。
心配げにキールの顔を覗き込む。
「なんだよその顔は、俺が優勝しないとでも思っているのか」
ユアンの頭をグイとつかむとワシャワシャとこねくりまわす。
(気のせいか?)
いつものキールの笑顔にホッと胸をなぜ下す。
「じゃぁ準備があるから、俺は先に行く」
元気に部屋を飛び出していく幼なじみに「がんばれよ」と背中に声をかけながら見送る。
「さて僕はどうしたものか」
今の人生ではやせたおかげで陰口も叩かれることもなかったが、特に友達を作ろうと努力をすることもしてこなかったユアンは、やはり前の人生と同じように1日目は1人で学術祭を回ることになりそうだ。
「キールが出る大会まではまだ時間もあるし」
スケジュールの書かれた学術祭のパンフレットを眺めながら試行する。
「メアリーのクラスの出し物でも見に行こうかな、今日は店番みたいだし」
──断られた理由ではあるが、会わない理由にはならない。
そうと決まれば善は急げだ。ユアンもすぐに部屋を飛び出した。
いつもは学園関係者と生徒しか入れない学園内に今日は朝から王族や貴族のそして特別に市街地の平民たちも自由に出入りしていた。
緑が多く広々とした中庭も、今日は生徒たちた開いている屋台やクラブ活動の勧誘をする生徒たちであふれている。
「あっ、すみません」
パンフレットの地図を見ながら歩いていたせいで、横から飛び出してきた人物を避けきれず、ユアンはおっとと、とよろめいた。
「こちらこそすみません、大丈夫ですか?」
物腰の柔らかな声音。しかしどこか聞き覚えのあるようなないような。ユアンがそう思って相手を見上げる。
「あっ、あの時の」
サラサラの銀色の髪がキラリと光る。まごうことなき美少年。
「キールに怪我をさせかけた魔法使い」
思わず睨み付けたユアンに、魔法使いの少年の顔がすっと近づく。黒縁メガネの奥の紫色の瞳が、なにかを確認でもしているかのようにクルクル動く。
あまりに少年が顔を近いので、思わずカッと顔が赤くなるのがわかった。
「ちょっと近いですよ」
思わずドンと突き放す。あの時は自分たちより儚く華奢な少年に見えたのだが、腕に伝わってきたのは、年相応にしっかりした厚みのある体つきだった。
それになんだか今目の前に立っている彼は、あの時より少し大きく大人っぽくも見える。
それは魔術学部の生徒が着る真っ黒な制服のせいなのか。その少し妖艶な光を放つ紫の瞳のせいなのか。
「あぁ、あの時一緒にいた……」
それからしばらく何か思考を巡らしたかと思うと、突然親し気にユアンの手を取る。
「その節はすまなかったね。怪我はなかったんだよね?」
慣れ慣れしいその軽い口調と、うさん臭げなニコニコ顔にユアンは掴まれた腕を引っ込めた。
「お詫びがしたいから、ぜひ研究室に遊びにきてよ」
思いっきり顔で嫌だと答える。
「まぁ、君は嫌みたいだね」
それを見てなぜか彼は小さく笑った。
「でもあの赤髪の子は俺に会いたがってるみたいだけど」
と意味深なことを言うと、ユアンに持っていたチラシを1枚押し付けた。
~~~~~~~~~~~~~~
<魔法道具研究同好会>
魔法道具に興味のある方!
人の役に立つ道具の開発!
魔力がない方でも大歓迎!
メンバー募集中
~~~~~~~~~~~~~~
勧誘用紙だ。
「いりません」
「赤髪君に渡しといて」
「なんでそんなことっ!」
チラシをつき返そうとしたが、どんな魔法を使ったのか、すでに彼は遠く人ごみの中に消えていた。
「なんて強引な人なんだ、あんな人だと思わなかった」
初めて会った時と印象が違いすぎて、軽い頭痛を感じた。でもあの髪と瞳、この世に二つとないだろう美しい容姿は記憶の中の彼そのままだ。
「なんなんだよ。それよりももう試合の席を取りにいかないと」
すっかり時間を無駄にしてしまった。
入場が始まった合図である花火の音を聞いてユアンは受け取ったチラシを無造作にポケットに突っ込んだ。
その間は学園には生徒やその親族だけではなく、王族や騎士団の団長、近隣の貴族や地主、遠く国外からも様々な人がやってくる。中でも目玉の剣術大会と魔術大会には将来の人材を獲得すべく熱い視線が注がれる。
「じゃあキール、頑張れよちゃんと見に行くからな」
『集え未来の剣士達』は初日の午前中である。
「……あぁ」
珍しく緊張しているのだろうか、いつもだったら自信満々に優勝宣言してきてもよさそうなのところ、どうにも朝から覇気がない。
「どうした?」
まさかあの後に怪我をしてしまったのか。
心配げにキールの顔を覗き込む。
「なんだよその顔は、俺が優勝しないとでも思っているのか」
ユアンの頭をグイとつかむとワシャワシャとこねくりまわす。
(気のせいか?)
いつものキールの笑顔にホッと胸をなぜ下す。
「じゃぁ準備があるから、俺は先に行く」
元気に部屋を飛び出していく幼なじみに「がんばれよ」と背中に声をかけながら見送る。
「さて僕はどうしたものか」
今の人生ではやせたおかげで陰口も叩かれることもなかったが、特に友達を作ろうと努力をすることもしてこなかったユアンは、やはり前の人生と同じように1日目は1人で学術祭を回ることになりそうだ。
「キールが出る大会まではまだ時間もあるし」
スケジュールの書かれた学術祭のパンフレットを眺めながら試行する。
「メアリーのクラスの出し物でも見に行こうかな、今日は店番みたいだし」
──断られた理由ではあるが、会わない理由にはならない。
そうと決まれば善は急げだ。ユアンもすぐに部屋を飛び出した。
いつもは学園関係者と生徒しか入れない学園内に今日は朝から王族や貴族のそして特別に市街地の平民たちも自由に出入りしていた。
緑が多く広々とした中庭も、今日は生徒たちた開いている屋台やクラブ活動の勧誘をする生徒たちであふれている。
「あっ、すみません」
パンフレットの地図を見ながら歩いていたせいで、横から飛び出してきた人物を避けきれず、ユアンはおっとと、とよろめいた。
「こちらこそすみません、大丈夫ですか?」
物腰の柔らかな声音。しかしどこか聞き覚えのあるようなないような。ユアンがそう思って相手を見上げる。
「あっ、あの時の」
サラサラの銀色の髪がキラリと光る。まごうことなき美少年。
「キールに怪我をさせかけた魔法使い」
思わず睨み付けたユアンに、魔法使いの少年の顔がすっと近づく。黒縁メガネの奥の紫色の瞳が、なにかを確認でもしているかのようにクルクル動く。
あまりに少年が顔を近いので、思わずカッと顔が赤くなるのがわかった。
「ちょっと近いですよ」
思わずドンと突き放す。あの時は自分たちより儚く華奢な少年に見えたのだが、腕に伝わってきたのは、年相応にしっかりした厚みのある体つきだった。
それになんだか今目の前に立っている彼は、あの時より少し大きく大人っぽくも見える。
それは魔術学部の生徒が着る真っ黒な制服のせいなのか。その少し妖艶な光を放つ紫の瞳のせいなのか。
「あぁ、あの時一緒にいた……」
それからしばらく何か思考を巡らしたかと思うと、突然親し気にユアンの手を取る。
「その節はすまなかったね。怪我はなかったんだよね?」
慣れ慣れしいその軽い口調と、うさん臭げなニコニコ顔にユアンは掴まれた腕を引っ込めた。
「お詫びがしたいから、ぜひ研究室に遊びにきてよ」
思いっきり顔で嫌だと答える。
「まぁ、君は嫌みたいだね」
それを見てなぜか彼は小さく笑った。
「でもあの赤髪の子は俺に会いたがってるみたいだけど」
と意味深なことを言うと、ユアンに持っていたチラシを1枚押し付けた。
~~~~~~~~~~~~~~
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勧誘用紙だ。
「いりません」
「赤髪君に渡しといて」
「なんでそんなことっ!」
チラシをつき返そうとしたが、どんな魔法を使ったのか、すでに彼は遠く人ごみの中に消えていた。
「なんて強引な人なんだ、あんな人だと思わなかった」
初めて会った時と印象が違いすぎて、軽い頭痛を感じた。でもあの髪と瞳、この世に二つとないだろう美しい容姿は記憶の中の彼そのままだ。
「なんなんだよ。それよりももう試合の席を取りにいかないと」
すっかり時間を無駄にしてしまった。
入場が始まった合図である花火の音を聞いてユアンは受け取ったチラシを無造作にポケットに突っ込んだ。
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