【完結】二度目の人生、君ともう一度!〜彼女を守りたいだけなのに〜

トト

文字の大きさ
上 下
19 / 147
第一章 出会いからもう一度

猫は運命を招きよせる

しおりを挟む
「まったく、キールは本当に僕に甘いんだから」

 キールの格好良くなったという言葉を思い出し、また顔を赤くしながらユアンは首を振った。

「おせいじにもほどがある。だいたいキールは僕が痩せようが太ってようが、いつだって格好いいというようなやつなんだから」

 そうなのだ、なぜかキールは昔からユアンを否定するようなことを言ったことがない。いつもユアンの味方でいてくれる唯一の友なのだ。

 それから改めてキールに言われたことを思いだす。
 カツアゲ野郎と思われたんではなくて、ナンパ野郎と思われた可能性について考える。

「確かにあの状況ならなくもないな」

 しかしカツアゲ男からナンパ男に変わったところで、どうころんでも悪い印象でしかない。

「あぁ、いったいどうすればいいんだよ僕は」

(もういっそ、何もかも考えるのはやめてずっと走っていたい)

 部屋を飛び出したユアンがあれからいつもの癖で、いつものランニングコースを走っていた。

 その時である、女子寮の横にある雑木林のほうからカーカーと激しいカラスの鳴き声と、威嚇してるのか、か細い生き物の声が聞こえてきた。
 ユアンはとっさに鳴き声のする方に歩みを向けていた。

 ※ ※ ※

 突然の乱入者に驚いたのかカラスがバタバタと飛び立っていく、ユアンはさらに先ほどまでカラスがいたあたりに駆け寄ると、今までカラスが突いていたその小さな生き物をそっと両手で抱き上げた。

「子猫か、まだ小さいな」

 ユアンに抱えられたその小さな子猫は体の全身の毛を逆立たせ、精一杯威嚇の牙を向け立ち上がろうとする。
 しかし、あちこち突かれたのだろう、傷だらけの体はすぐにぐったりと力をなくし、ユアンの手の中に倒れ込む。それでもシャーシャーとか細い吐息のような声で威嚇だけは続けている。

「どうしよう早く治療してあげないと」

  今にも生きたえそうな子猫をどうしていいかわからず、あたふたとしていると、

「みーちゃん、ご飯だよー、でておいで」

  馴染みのある声音がユアンの耳に届いた。

「メアリー、さん!」

 突然の名前を呼ばれたメアリーは、びくりとその場に立ち止まる。

「あっ、こんばんは。えーと、ハーリング様ですよね」

 驚きと疑惑、色々な感情がその瞳に浮かぶ。
 夕食前の夕暮れ時、それも女子寮の裏にある人が滅多に入り込まない雑木林。

(完全に不審人物だと思われてるよな)

 ナンパ男の次は不審者とは……。
 しかし今はそんなことで落ち込んでいる場合ではない、両手に抱えた子猫をメアリーの前に突き出す。

「みーちゃん!」

 手の上でぐったりとしている子猫を見て、メアリーが駆け寄ってくる。

「カラスに襲われてて」

 ユアンの説明を聞きながら、メアリーは肩に下げていたカバンから、バスタオルを取り出すと、そっと子猫を移す。
 子猫はバスタオルの上でヒクヒクと鼻を動かすと、かすかに目を開け、メアリーに声をかけるようにニャーと鳴いた。

「痛かったね、頑張ったね、みーちゃん。今、治してあげるからね」

 猫に優しく声をかけながら、メアリーは両手を子猫に向ける。
 淡い白い光が子猫を包む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

150年後の敵国に転生した大将軍

mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。 ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。 彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。 それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。 『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。 他サイトでも公開しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...