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第一章 出会いからもう一度
猫は運命を招きよせる
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「まったく、キールは本当に僕に甘いんだから」
キールの格好良くなったという言葉を思い出し、また顔を赤くしながらユアンは首を振った。
「おせいじにもほどがある。だいたいキールは僕が痩せようが太ってようが、いつだって格好いいというようなやつなんだから」
そうなのだ、なぜかキールは昔からユアンを否定するようなことを言ったことがない。いつもユアンの味方でいてくれる唯一の友なのだ。
それから改めてキールに言われたことを思いだす。
カツアゲ野郎と思われたんではなくて、ナンパ野郎と思われた可能性について考える。
「確かにあの状況ならなくもないな」
しかしカツアゲ男からナンパ男に変わったところで、どうころんでも悪い印象でしかない。
「あぁ、いったいどうすればいいんだよ僕は」
(もういっそ、何もかも考えるのはやめてずっと走っていたい)
部屋を飛び出したユアンがあれからいつもの癖で、いつものランニングコースを走っていた。
その時である、女子寮の横にある雑木林のほうからカーカーと激しいカラスの鳴き声と、威嚇してるのか、か細い生き物の声が聞こえてきた。
ユアンはとっさに鳴き声のする方に歩みを向けていた。
※ ※ ※
突然の乱入者に驚いたのかカラスがバタバタと飛び立っていく、ユアンはさらに先ほどまでカラスがいたあたりに駆け寄ると、今までカラスが突いていたその小さな生き物をそっと両手で抱き上げた。
「子猫か、まだ小さいな」
ユアンに抱えられたその小さな子猫は体の全身の毛を逆立たせ、精一杯威嚇の牙を向け立ち上がろうとする。
しかし、あちこち突かれたのだろう、傷だらけの体はすぐにぐったりと力をなくし、ユアンの手の中に倒れ込む。それでもシャーシャーとか細い吐息のような声で威嚇だけは続けている。
「どうしよう早く治療してあげないと」
今にも生きたえそうな子猫をどうしていいかわからず、あたふたとしていると、
「みーちゃん、ご飯だよー、でておいで」
馴染みのある声音がユアンの耳に届いた。
「メアリー、さん!」
突然の名前を呼ばれたメアリーは、びくりとその場に立ち止まる。
「あっ、こんばんは。えーと、ハーリング様ですよね」
驚きと疑惑、色々な感情がその瞳に浮かぶ。
夕食前の夕暮れ時、それも女子寮の裏にある人が滅多に入り込まない雑木林。
(完全に不審人物だと思われてるよな)
ナンパ男の次は不審者とは……。
しかし今はそんなことで落ち込んでいる場合ではない、両手に抱えた子猫をメアリーの前に突き出す。
「みーちゃん!」
手の上でぐったりとしている子猫を見て、メアリーが駆け寄ってくる。
「カラスに襲われてて」
ユアンの説明を聞きながら、メアリーは肩に下げていたカバンから、バスタオルを取り出すと、そっと子猫を移す。
子猫はバスタオルの上でヒクヒクと鼻を動かすと、かすかに目を開け、メアリーに声をかけるようにニャーと鳴いた。
「痛かったね、頑張ったね、みーちゃん。今、治してあげるからね」
猫に優しく声をかけながら、メアリーは両手を子猫に向ける。
淡い白い光が子猫を包む。
キールの格好良くなったという言葉を思い出し、また顔を赤くしながらユアンは首を振った。
「おせいじにもほどがある。だいたいキールは僕が痩せようが太ってようが、いつだって格好いいというようなやつなんだから」
そうなのだ、なぜかキールは昔からユアンを否定するようなことを言ったことがない。いつもユアンの味方でいてくれる唯一の友なのだ。
それから改めてキールに言われたことを思いだす。
カツアゲ野郎と思われたんではなくて、ナンパ野郎と思われた可能性について考える。
「確かにあの状況ならなくもないな」
しかしカツアゲ男からナンパ男に変わったところで、どうころんでも悪い印象でしかない。
「あぁ、いったいどうすればいいんだよ僕は」
(もういっそ、何もかも考えるのはやめてずっと走っていたい)
部屋を飛び出したユアンがあれからいつもの癖で、いつものランニングコースを走っていた。
その時である、女子寮の横にある雑木林のほうからカーカーと激しいカラスの鳴き声と、威嚇してるのか、か細い生き物の声が聞こえてきた。
ユアンはとっさに鳴き声のする方に歩みを向けていた。
※ ※ ※
突然の乱入者に驚いたのかカラスがバタバタと飛び立っていく、ユアンはさらに先ほどまでカラスがいたあたりに駆け寄ると、今までカラスが突いていたその小さな生き物をそっと両手で抱き上げた。
「子猫か、まだ小さいな」
ユアンに抱えられたその小さな子猫は体の全身の毛を逆立たせ、精一杯威嚇の牙を向け立ち上がろうとする。
しかし、あちこち突かれたのだろう、傷だらけの体はすぐにぐったりと力をなくし、ユアンの手の中に倒れ込む。それでもシャーシャーとか細い吐息のような声で威嚇だけは続けている。
「どうしよう早く治療してあげないと」
今にも生きたえそうな子猫をどうしていいかわからず、あたふたとしていると、
「みーちゃん、ご飯だよー、でておいで」
馴染みのある声音がユアンの耳に届いた。
「メアリー、さん!」
突然の名前を呼ばれたメアリーは、びくりとその場に立ち止まる。
「あっ、こんばんは。えーと、ハーリング様ですよね」
驚きと疑惑、色々な感情がその瞳に浮かぶ。
夕食前の夕暮れ時、それも女子寮の裏にある人が滅多に入り込まない雑木林。
(完全に不審人物だと思われてるよな)
ナンパ男の次は不審者とは……。
しかし今はそんなことで落ち込んでいる場合ではない、両手に抱えた子猫をメアリーの前に突き出す。
「みーちゃん!」
手の上でぐったりとしている子猫を見て、メアリーが駆け寄ってくる。
「カラスに襲われてて」
ユアンの説明を聞きながら、メアリーは肩に下げていたカバンから、バスタオルを取り出すと、そっと子猫を移す。
子猫はバスタオルの上でヒクヒクと鼻を動かすと、かすかに目を開け、メアリーに声をかけるようにニャーと鳴いた。
「痛かったね、頑張ったね、みーちゃん。今、治してあげるからね」
猫に優しく声をかけながら、メアリーは両手を子猫に向ける。
淡い白い光が子猫を包む。
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