12 / 147
第一章 出会いからもう一度
変わってしまった思い出を
しおりを挟む
『飼い猫を助けようとして、私が木から落ちちゃって、それで入学式は出れなかったんだよね』
てへっ。と無邪気に笑いながらそんな話をしてたことを思い出す。
「言ってたなぁ。それ」
寮に戻りベッドに倒れ込むと、枕に顔をうずめる。
「どうしよう。今からお見舞いに行こうかな」
メアリーの実家は馬車を使っても二日ほどかかる辺境にある。
「いや待て、待て、メアリーは僕のことなんて覚えてないだろうし、怖すぎるだろ」
見ず知らずの同級生が、遠路遥々突然実家に押しかけるなど意味がわからない。
「いや待てよ、前の時はメアリーが僕に気がついて話しかけてくれたはず」
実はユアンが初めてメアリーを認識したのは、洗礼パーティーの時ではない。
カップケーキを半分こにしたことは覚えていたが、それが誰でどんな顔の女の子だったかなど、その時は気にもしてなかったし、たぶんメアリーから声をかけてくれなければ、同じクラスになっても彼女に気付きさえしなかっただろう。
「僕がメアリーを、カップケーキの少女と認識したのは……」
遠い記憶をよみがえらせる。
「メアリーが、僕に声をかけることになったきっかけは……」
脳裏に夢で見た天使の姿が浮かぶ。
「──お団子」
東洋の神秘。
その日は初めてこの国に、東の小さな国から貿易船がやって来る日だった。
ユアンはもちろん学園中が朝からソワソワしていた。
耳ざとい貴族たちは、すでにどんなものが届くかは知っていた、もちろんユアンも父親から情報を得ていた。
その中でも一番楽しみにしていたのが、”団子”と呼ばれるスイーツだった。
だが運が悪くその日掃除当番になったユアンは、掃除をサボっていなくなったクラスメートのせいで、一人で掃除をやる羽目になった。
そして全てを終わらせて団子屋に着いたときには、時すでに遅し。
店じまいを始めている店の前で、がくりと膝から崩れ落ち、ポロポロとユアンは涙を流した。
そこに、舞い降りたのが団子を持った天使だった。
『一緒に食べませんか』
袋から差し出された、2本のお団子。
一本は彼女の口に、もう一本はユアンの顔の前に。
『どうして?』
団子と一緒にしっかりと彼女の手を握りしめ、その時ユアンは尋ねた。
すると、天使はニコリと微笑みながら。
『カップケーキを半分くれたお礼です』
そう答えた。
その時、怪我をして入学が遅れてしまい、まだ知り合いがいないこと。
一人でお団子を食べようとしていた時に、ユアンを見つけておもわず声をかけてしまったことなどを聞いた。
お団子の黄金色のタレよりはるかに美しい輝きを放つ栗色の髪。自分に向けられるどこまでも優しい若草色の瞳を見たとき、人生で初めて目の前のスイーツ以外に目を奪われた。
そのあとしっかりもらったお団子を食べたユアンだったが、いつもなら一瞬で食べれる量が、どうしてだか胸がいっぱいで、すごく長い時間をかけて食べた記憶がある。
「あの時の僕は、それが恋に落ちた瞬間だとまだ気がつかなかったんだよな」
思い出にひたり思わず顔がニヤつく。
てへっ。と無邪気に笑いながらそんな話をしてたことを思い出す。
「言ってたなぁ。それ」
寮に戻りベッドに倒れ込むと、枕に顔をうずめる。
「どうしよう。今からお見舞いに行こうかな」
メアリーの実家は馬車を使っても二日ほどかかる辺境にある。
「いや待て、待て、メアリーは僕のことなんて覚えてないだろうし、怖すぎるだろ」
見ず知らずの同級生が、遠路遥々突然実家に押しかけるなど意味がわからない。
「いや待てよ、前の時はメアリーが僕に気がついて話しかけてくれたはず」
実はユアンが初めてメアリーを認識したのは、洗礼パーティーの時ではない。
カップケーキを半分こにしたことは覚えていたが、それが誰でどんな顔の女の子だったかなど、その時は気にもしてなかったし、たぶんメアリーから声をかけてくれなければ、同じクラスになっても彼女に気付きさえしなかっただろう。
「僕がメアリーを、カップケーキの少女と認識したのは……」
遠い記憶をよみがえらせる。
「メアリーが、僕に声をかけることになったきっかけは……」
脳裏に夢で見た天使の姿が浮かぶ。
「──お団子」
東洋の神秘。
その日は初めてこの国に、東の小さな国から貿易船がやって来る日だった。
ユアンはもちろん学園中が朝からソワソワしていた。
耳ざとい貴族たちは、すでにどんなものが届くかは知っていた、もちろんユアンも父親から情報を得ていた。
その中でも一番楽しみにしていたのが、”団子”と呼ばれるスイーツだった。
だが運が悪くその日掃除当番になったユアンは、掃除をサボっていなくなったクラスメートのせいで、一人で掃除をやる羽目になった。
そして全てを終わらせて団子屋に着いたときには、時すでに遅し。
店じまいを始めている店の前で、がくりと膝から崩れ落ち、ポロポロとユアンは涙を流した。
そこに、舞い降りたのが団子を持った天使だった。
『一緒に食べませんか』
袋から差し出された、2本のお団子。
一本は彼女の口に、もう一本はユアンの顔の前に。
『どうして?』
団子と一緒にしっかりと彼女の手を握りしめ、その時ユアンは尋ねた。
すると、天使はニコリと微笑みながら。
『カップケーキを半分くれたお礼です』
そう答えた。
その時、怪我をして入学が遅れてしまい、まだ知り合いがいないこと。
一人でお団子を食べようとしていた時に、ユアンを見つけておもわず声をかけてしまったことなどを聞いた。
お団子の黄金色のタレよりはるかに美しい輝きを放つ栗色の髪。自分に向けられるどこまでも優しい若草色の瞳を見たとき、人生で初めて目の前のスイーツ以外に目を奪われた。
そのあとしっかりもらったお団子を食べたユアンだったが、いつもなら一瞬で食べれる量が、どうしてだか胸がいっぱいで、すごく長い時間をかけて食べた記憶がある。
「あの時の僕は、それが恋に落ちた瞬間だとまだ気がつかなかったんだよな」
思い出にひたり思わず顔がニヤつく。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

150年後の敵国に転生した大将軍
mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。
ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。
彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。
それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。
『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。
他サイトでも公開しています。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる