【完結】二度目の人生、君ともう一度!〜彼女を守りたいだけなのに〜

トト

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第一章 出会いからもう一度

変わってしまった思い出を

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『飼い猫を助けようとして、私が木から落ちちゃって、それで入学式は出れなかったんだよね』

 てへっ。と無邪気に笑いながらそんな話をしてたことを思い出す。

 「言ってたなぁ。それ」

 寮に戻りベッドに倒れ込むと、枕に顔をうずめる。

「どうしよう。今からお見舞いに行こうかな」

 メアリーの実家は馬車を使っても二日ほどかかる辺境にある。

「いや待て、待て、メアリーは僕のことなんて覚えてないだろうし、怖すぎるだろ」

 見ず知らずの同級生が、遠路遥々突然実家に押しかけるなど意味がわからない。

「いや待てよ、前の時はメアリーが僕に気がついて話しかけてくれたはず」

 実はユアンが初めてメアリーを認識したのは、洗礼パーティーの時ではない。
 カップケーキを半分こにしたことは覚えていたが、それが誰でどんな顔の女の子だったかなど、その時は気にもしてなかったし、たぶんメアリーから声をかけてくれなければ、同じクラスになっても彼女に気付きさえしなかっただろう。

「僕がメアリーを、カップケーキの少女と認識したのは……」

 遠い記憶をよみがえらせる。

「メアリーが、僕に声をかけることになったきっかけは……」

 脳裏に夢で見た天使の姿が浮かぶ。


「──お団子」

 東洋の神秘。
 その日は初めてこの国に、東の小さな国から貿易船がやって来る日だった。
 ユアンはもちろん学園中が朝からソワソワしていた。
 耳ざとい貴族たちは、すでにどんなものが届くかは知っていた、もちろんユアンも父親から情報を得ていた。
 その中でも一番楽しみにしていたのが、”団子”と呼ばれるスイーツだった。

 だが運が悪くその日掃除当番になったユアンは、掃除をサボっていなくなったクラスメートのせいで、一人で掃除をやる羽目になった。
 そして全てを終わらせて団子屋に着いたときには、時すでに遅し。
 店じまいを始めている店の前で、がくりと膝から崩れ落ち、ポロポロとユアンは涙を流した。
 そこに、舞い降りたのが団子を持った天使だった。

『一緒に食べませんか』
 
 袋から差し出された、2本のお団子。
 一本は彼女の口に、もう一本はユアンの顔の前に。

『どうして?』

 団子と一緒にしっかりと彼女の手を握りしめ、その時ユアンは尋ねた。
 すると、天使はニコリと微笑みながら。

『カップケーキを半分くれたお礼です』

 そう答えた。

 その時、怪我をして入学が遅れてしまい、まだ知り合いがいないこと。
 一人でお団子を食べようとしていた時に、ユアンを見つけておもわず声をかけてしまったことなどを聞いた。
 お団子の黄金色のタレよりはるかに美しい輝きを放つ栗色の髪。自分に向けられるどこまでも優しい若草色の瞳を見たとき、人生で初めて目の前のスイーツ以外に目を奪われた。

 そのあとしっかりもらったお団子を食べたユアンだったが、いつもなら一瞬で食べれる量が、どうしてだか胸がいっぱいで、すごく長い時間をかけて食べた記憶がある。

「あの時の僕は、それが恋に落ちた瞬間だとまだ気がつかなかったんだよな」

 思い出にひたり思わず顔がニヤつく。
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