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第一章 出会いからもう一度

無関係です

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『良かったら、これどうぞ』
 
 差し出されたのは一本の団子。
 串に丸い団子が3つ刺さっているあれである。そこに塗られている眩いばかりの甘いタレは黄金の輝きを放っているようだった。

『天使だ』

 そんな神々しいものをくれる人は天使に違いない。
 まるで祈るように膝まづき、ユアンは天使から団子を受け取った。
 しかしいざ団子を食べようとすると、団子に羽が生え、するりと串から抜け出した。
 そして羽のはえた団子は天使と一緒に歌いながら空に舞い上がる。

『待って、待って下さい。天使様』
『僕のお団子!!』

 そこでハッと目が覚めた。

「わっ! キールおかえり」

 目覚めると同時に、キールの整った顔が目の前にあってびっくりして声が裏返る。

「って、なんで僕の手握ってるの」
「いや、よく見ろ、お前が握ってるんだろ」

 冷静に突っ込まれ、真っ赤になりながら慌ててキールの手を離す。

「どうせ食いもんの夢でもみてたんだろ」

 口元を指差しながらキールがいたずらっ子のように笑った。
 慌てて、袖口で自分の口元をぬぐうと、ごまかすように「今何時?」と聞いた。

「19時半」
「僕、そんな寝てたんだ」

 学園から帰ってきて、制服のままベッドに倒れ込んだまま今まで眠ってしまっていたみたいだ。

「夕飯まだだろ、行こうぜ」

 寮では朝、晩と食事を出してくれる。
 ただ、時間が決まっているので、それを逃すと食いっぱぐれてしまうのだ、夜は20時までだ。
 キールが部屋に帰って来なかったら危なく一食ぬかすとこだった。

「そうだキール、明日うちのクラスの令嬢たちがランチしたいって、どうする?」

 しかし返事を聞くまでもなく、あからさまに「面倒臭い」と顔に書いてあるのがわかった。
 そうだった、この頃のキールは”一に鍛錬二に鍛錬、三、四が無くて、五に鍛錬”女っ気がないのも納得の鍛錬バカだったのを思い出す。

「わかった。適当に断っとく」
「よろしく」

 ※ ※ ※


 ──翌日

(なぜ、こんなことに)

 行けないということを伝えて終わるはずだったのに、何故かユアンは女生徒たちに囲まれていた。

(キールの話が聞きたいんだな)と手短なところで終わらすつもりが、

「ハーリング様もやはり騎士を目指してらっしゃるの?」
「ご兄弟はいらっしゃるの?」
「学部は何を?」
「将来はどのようにお考えですの?」

 いつの間にか質問は、キールのことからユアンのことに変わっていた。

 「えっと、あの……」

 女性徒たちの圧にたじろぎながら、少しづつ後ずさる。

「あなたたちは、ここをパーティー会場かなにかだと勘違いしていらっしゃるのですね」
 
 凛とした冷たい響きが、ムクドリの囀りのようなその場を一瞬にして沈黙させた。

「フローレス様」

 ユアンに前のめりに詰め寄っていた女性徒達が、しゃんと背筋を伸ばすと、ローズマリー・フローレスに向かって綺麗に一礼する。

「もうすぐ午後の授業が始まりますわ。皆さんもおしゃべりはその辺にして、準備をなさった方がよろしくてわ」

 ローズマリーの一言で、クモの子を散らすように女生徒たちがユアンから離れていく。
  質問攻めから解放されほっとしたユアンは、その時ふと思って、去っていこうとする女生徒の一人に声をかけた。

「あの、メアリー・ベーカー 嬢をご存知ありませんか?」
 
 しかし呼び止めれた令嬢も、他の令嬢も首をかしげるばかり、ただローズマリーだけが、

「入学前に怪我をして、まだ登校できていないご令嬢が、確かそのようなお名前でしたような気がしますわ」

 と答えた。

「怪我だって!」

 思わずガッとローズマリーの肩をつかむ。

「ひどい怪我なのですか?」
「私も詳しくは、わかりませんわ」

 ユアンのあまりの剣幕にローズマリーが、しどろもどろに答える。

「こうしちゃいられない、すぐにいかないと」

 走り出さんばかりのユアンの腕を、今度はローズマリーが掴んだ。

「なんですか? 早くいかないと」
「ハーリング様、そのご令嬢とはどういったご関係で?」

 そこでハッと我にかえる。

(今現在、僕と彼女の関係は──)

「無関係です」

 ローズマリーが一瞬ポカンとユアンを見た。

「今は無関係で、赤の他人です! でも心配なんです」

 今にも泣きだしそうな顔でそう叫ぶと、呆気に取られて動けないローズマリーを残し、ユアンはその場から走り去ったのだった。
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