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第一章 出会いからもう一度
死は突然に
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「なんてことだ」
長くもない廊下に所狭しと並べられた天使の銅像や異国の甲冑。無駄に大きいだけの花瓶、謎の置物。
父親の趣味で集められたそれらは、母親がすべて処分しようとしたものだったが、父親の泣きの抵抗によって一時保管としてその時はまだ別荘だったこの屋敷、そして今はユアン・ハーリングの新居となった屋敷に運ばれたまま放置されていたものだった。
「父さん…」
恨み言をこぼしても仕方ない、自分も面倒でほったらかしていたのも事実。
グラリ。いままでより大きくはないが小さくもない揺れが再び屋敷を襲う。
(こんなところで立ち止まっている場合では無い)
倒れ重なりあった先に目指す部屋がある。ユアンは目の前に倒れている石像の1つに手をかけた。
「…重い」
(キールがいつも言ってたようにもっと体を鍛えとけばよかった)
幼馴染の顔を思い出しながら後悔のため息をつく。
(どかして進むのは無理か)
周りを見渡し通れそうな隙間を見つけてそこに潜り込む。
しかし頭と腕が通ったところでムギュとなにかが引っかかった。四つん這いの状態で確認すれば垂れに垂れた腹がつっかえてるのが見えた。
『見てあのだらしない体』
誰かが話してたヒソヒソ声が頭をよぎる。
「フン!」
顔を真っ赤にしながら、足をバタつかせ力任せにどうにか隙間を抜ける。だが目的の部屋まではまだいくつか同じことを繰り返さなければならない。
「メアリー…」
最愛の妻の名をつぶやく。
『私は大丈夫だから、いってらっしゃい』
今朝、送り出してくれる時にそう言ってほほ笑んでくれた。
しかしいつも明るく澄んでいた若草色の瞳は、どこか暗い陰りを帯びていて、笑顔もぎこちないものだった。
(君を一人残して行くべきじゃなかった)
(君が苦しい時に僕はいつもそばにいてあげられない)
「せめて最後ぐらい…」
背後からパチパチとなにかが弾ける音がした。それと同時に階段の下から白い煙が上がってくるのが見えた。
煙を吸わないよう口元を抑え、隙間を探して前に進む。
しかし煙は廊下を容赦なく白く染めていく。隙間もユアンの巨体を拒絶するように、どんどん狭くなっていっている気がする。
視界がぼやける、息苦しい。
あと少しでメアリーが取り残されている部屋にたどり着く。
(もう一度。もう一目だけでも…)
「メアリー……」
そこでユアンの意識はプツリと途絶えた。
長くもない廊下に所狭しと並べられた天使の銅像や異国の甲冑。無駄に大きいだけの花瓶、謎の置物。
父親の趣味で集められたそれらは、母親がすべて処分しようとしたものだったが、父親の泣きの抵抗によって一時保管としてその時はまだ別荘だったこの屋敷、そして今はユアン・ハーリングの新居となった屋敷に運ばれたまま放置されていたものだった。
「父さん…」
恨み言をこぼしても仕方ない、自分も面倒でほったらかしていたのも事実。
グラリ。いままでより大きくはないが小さくもない揺れが再び屋敷を襲う。
(こんなところで立ち止まっている場合では無い)
倒れ重なりあった先に目指す部屋がある。ユアンは目の前に倒れている石像の1つに手をかけた。
「…重い」
(キールがいつも言ってたようにもっと体を鍛えとけばよかった)
幼馴染の顔を思い出しながら後悔のため息をつく。
(どかして進むのは無理か)
周りを見渡し通れそうな隙間を見つけてそこに潜り込む。
しかし頭と腕が通ったところでムギュとなにかが引っかかった。四つん這いの状態で確認すれば垂れに垂れた腹がつっかえてるのが見えた。
『見てあのだらしない体』
誰かが話してたヒソヒソ声が頭をよぎる。
「フン!」
顔を真っ赤にしながら、足をバタつかせ力任せにどうにか隙間を抜ける。だが目的の部屋まではまだいくつか同じことを繰り返さなければならない。
「メアリー…」
最愛の妻の名をつぶやく。
『私は大丈夫だから、いってらっしゃい』
今朝、送り出してくれる時にそう言ってほほ笑んでくれた。
しかしいつも明るく澄んでいた若草色の瞳は、どこか暗い陰りを帯びていて、笑顔もぎこちないものだった。
(君を一人残して行くべきじゃなかった)
(君が苦しい時に僕はいつもそばにいてあげられない)
「せめて最後ぐらい…」
背後からパチパチとなにかが弾ける音がした。それと同時に階段の下から白い煙が上がってくるのが見えた。
煙を吸わないよう口元を抑え、隙間を探して前に進む。
しかし煙は廊下を容赦なく白く染めていく。隙間もユアンの巨体を拒絶するように、どんどん狭くなっていっている気がする。
視界がぼやける、息苦しい。
あと少しでメアリーが取り残されている部屋にたどり着く。
(もう一度。もう一目だけでも…)
「メアリー……」
そこでユアンの意識はプツリと途絶えた。
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