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告白2
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「なぜ、私に魔晶石を飲ませたの」
「魔力暴走を起こさせたかったの」
「なぜ」
「そうすれば、まだ力のコントロールができない未熟な聖女として、皇太子妃候補から外されると思ったの」
「まさかディアが皇太子妃候補を狙っていたなんて」
「狙ってないわ」
「じゃあどうして」
「それは」
※ ※ ※
「私、ミハイル殿下が好き」
そういって笑う彼女はキラキラしていてディアは眩し気に目を細めた。
「もちろんディアのことも好きよ」
父に連れられてやってきた王宮で同じく父親についてきたライザと初めて出会ったのは、ディアが7歳の時だった。
それからよく父たちの話が終わるまで王宮の庭で遊ぶようになった二人のもとに、楽し気な声を聞きつけ現れたのが、ミハイルだった。
大人ばかりに囲まれ同世代の友達などいなかった三人は、すぐに仲良くなった。
ただ、ミハイルは皇太子なのでそんなに毎回会うことはできず、それでもディアとライザは、二人でよくミハイルが勉強している部屋をこっそり覗き見たり、ミハイルも隙をついて抜け出して三人で遊んだ。
しかし、10歳になることにはライザも父の仕事の手伝いや勉強で忙しくなり、ミハイルも多忙を極めた。
ディアも剣士として訓練に励んだが、しかし、それは兄や父たちには認められることはなかった。
『剣を振るより、将来皇太子妃となるマナーを学べ』
男のような格好で、兵士たちの訓練場に混ざるディアを父親はそう言って追い出した。
ライザの父親はライザの才能を早くから知って、後を継がせるべく付き添わせたのとは違い、ディアは皇太子妃候補として、幼いころからミハイルに気に入らせようと、父親の企みで王宮に連れてこられていたことを知ったディアは、自分とライザとの違いに、傷ついた。
それでも、初めてできた友達を憎むことはできず、将来の夢を口にするキラキラした瞳から目を離すこともできず、ディアはライザと会い続けた。
ミハイルも皇太子という決められた道だったが、それに誇りを持って進んでいたのがわかった。そしてライザと同じように、真っ直ぐで輝く瞳を持っていた。
嫉妬にも似た気持ちに、二人から離れようと思ったこともあったが、ディアは二人から離れることはできなかった。
そんな時ライザがディアにそう告げた。
それは別に牽制とかそういうものでなく、純粋に、好きな人を大切な友達に教えた。それだけだった。
しかしディアはその時、二人が二人だけの世界を作り、自分だけ、置いて行かれてしまうような気がした。
ライザは素敵な女性だった。ミハイルがライザを見詰める目も愛情に溢れていることをディアは知っていた。
二人が付き合うことになれば、それは友達としてとても喜ばしいことだった。同時に自分だけまた光の輪の外に追い出されてしまうそんな恐怖があった。
そんな時皇太子妃候補に、自分とライザが選ばれたことを知った。
ミハイルはすでにライザのことを好きなのだから、国民に問う必要はないと思ったが、それはこの国の決まり、でもライザなら国民からの支持もすぐ得られ愛されるから、大丈夫だろうと思った。
自分は辞退したかったが、もし辞退して、おかしな令嬢が候補に挙がりライザにちょっかいをかけてこられても困るので、ディアはその申し込みを受けた。
予想通りライザは平民たちからの支持が高かった。
しかしそれをよく思わない貴族も少なくなかった。
ローラとアリナは本人たちも特に支持を得ようと大きな動きもなく、そんな脅威にはならなかった。
ただリズはその真っすぐな性格と、明るい笑顔で、色々なところから支持を集めていたが、その突飛な行動が目に余るところがあり、貴族間の中では、彼女は皇太子妃にしてはいけないという暗黙の了解ができていたので安心していた。
しかし父が手を回したのか何気にディアの支持率は高く、それにはディアは少し困っていた。でも一方で、もし自分が皇太子妃になれば、三人の関係はいままで通りではないかという期待もあった。ディアはミハイルのことが友としては好きだが、異性としては何の感情もなかった。だからもし自分が皇太子妃に選ばれたら、形だけは皇太子妃になって、第二妃にライザを迎えれば、そして、ライザとミハイルが子をなせばいいのだとディアは考えていた。
そうすれば、あのキラキラした二人の間にいつまでもいられる。
騎士を継ぐことのできない自分がもし、皇太子妃にも慣れなかったら、あの父親のことだ、どこか金持ちの貴族に嫁に出されてしまうだろう。
もしライザが皇太子妃になっても、二人にお願すれば、本当はライザの騎士になりたいが、侍女ぐらいにはしてもらえるかもしれない。
そんなことを考えていた。
そんな時、ローラが神託を受け聖女になった。
聖女の支持率は絶大だ。平民だけでなく、貴族の中でも聖女を悪く言うようなものはほとんどいない。
このままではローラが皇太子妃になってしまう。
ライザは宰相を継ぐかもしれないが、ライザの恋は終わってしまう。自分でない女性を傍におくミハイルに宰相として使えることが果たしてできるだろうか。
ライザのキラキラした瞳が濁ることがディアにはどうしても許せなかった。
その時ディアは気がついた。自分はライザを愛しているのだと。そして同時に理解した、この愛は決して報われない。唯一報われるとすれば、ライザが好きな人と結婚して、幸せになり、自分はそれを近くで見守ることだと。
※ ※ ※
「全ては、私一人がやったことだ。私が私の愛のためにしたことだ」
ディアは真っすぐにローラを見つめ言い切った。
「でもミハイル殿下はあなたが薬を渡す時、一緒にいたのでしょ」
「殿下は何の薬かは知らなかった。私がダニーを信用させるために近くにいてもらったに過ぎない」
「魔力暴走を起こさせたかったの」
「なぜ」
「そうすれば、まだ力のコントロールができない未熟な聖女として、皇太子妃候補から外されると思ったの」
「まさかディアが皇太子妃候補を狙っていたなんて」
「狙ってないわ」
「じゃあどうして」
「それは」
※ ※ ※
「私、ミハイル殿下が好き」
そういって笑う彼女はキラキラしていてディアは眩し気に目を細めた。
「もちろんディアのことも好きよ」
父に連れられてやってきた王宮で同じく父親についてきたライザと初めて出会ったのは、ディアが7歳の時だった。
それからよく父たちの話が終わるまで王宮の庭で遊ぶようになった二人のもとに、楽し気な声を聞きつけ現れたのが、ミハイルだった。
大人ばかりに囲まれ同世代の友達などいなかった三人は、すぐに仲良くなった。
ただ、ミハイルは皇太子なのでそんなに毎回会うことはできず、それでもディアとライザは、二人でよくミハイルが勉強している部屋をこっそり覗き見たり、ミハイルも隙をついて抜け出して三人で遊んだ。
しかし、10歳になることにはライザも父の仕事の手伝いや勉強で忙しくなり、ミハイルも多忙を極めた。
ディアも剣士として訓練に励んだが、しかし、それは兄や父たちには認められることはなかった。
『剣を振るより、将来皇太子妃となるマナーを学べ』
男のような格好で、兵士たちの訓練場に混ざるディアを父親はそう言って追い出した。
ライザの父親はライザの才能を早くから知って、後を継がせるべく付き添わせたのとは違い、ディアは皇太子妃候補として、幼いころからミハイルに気に入らせようと、父親の企みで王宮に連れてこられていたことを知ったディアは、自分とライザとの違いに、傷ついた。
それでも、初めてできた友達を憎むことはできず、将来の夢を口にするキラキラした瞳から目を離すこともできず、ディアはライザと会い続けた。
ミハイルも皇太子という決められた道だったが、それに誇りを持って進んでいたのがわかった。そしてライザと同じように、真っ直ぐで輝く瞳を持っていた。
嫉妬にも似た気持ちに、二人から離れようと思ったこともあったが、ディアは二人から離れることはできなかった。
そんな時ライザがディアにそう告げた。
それは別に牽制とかそういうものでなく、純粋に、好きな人を大切な友達に教えた。それだけだった。
しかしディアはその時、二人が二人だけの世界を作り、自分だけ、置いて行かれてしまうような気がした。
ライザは素敵な女性だった。ミハイルがライザを見詰める目も愛情に溢れていることをディアは知っていた。
二人が付き合うことになれば、それは友達としてとても喜ばしいことだった。同時に自分だけまた光の輪の外に追い出されてしまうそんな恐怖があった。
そんな時皇太子妃候補に、自分とライザが選ばれたことを知った。
ミハイルはすでにライザのことを好きなのだから、国民に問う必要はないと思ったが、それはこの国の決まり、でもライザなら国民からの支持もすぐ得られ愛されるから、大丈夫だろうと思った。
自分は辞退したかったが、もし辞退して、おかしな令嬢が候補に挙がりライザにちょっかいをかけてこられても困るので、ディアはその申し込みを受けた。
予想通りライザは平民たちからの支持が高かった。
しかしそれをよく思わない貴族も少なくなかった。
ローラとアリナは本人たちも特に支持を得ようと大きな動きもなく、そんな脅威にはならなかった。
ただリズはその真っすぐな性格と、明るい笑顔で、色々なところから支持を集めていたが、その突飛な行動が目に余るところがあり、貴族間の中では、彼女は皇太子妃にしてはいけないという暗黙の了解ができていたので安心していた。
しかし父が手を回したのか何気にディアの支持率は高く、それにはディアは少し困っていた。でも一方で、もし自分が皇太子妃になれば、三人の関係はいままで通りではないかという期待もあった。ディアはミハイルのことが友としては好きだが、異性としては何の感情もなかった。だからもし自分が皇太子妃に選ばれたら、形だけは皇太子妃になって、第二妃にライザを迎えれば、そして、ライザとミハイルが子をなせばいいのだとディアは考えていた。
そうすれば、あのキラキラした二人の間にいつまでもいられる。
騎士を継ぐことのできない自分がもし、皇太子妃にも慣れなかったら、あの父親のことだ、どこか金持ちの貴族に嫁に出されてしまうだろう。
もしライザが皇太子妃になっても、二人にお願すれば、本当はライザの騎士になりたいが、侍女ぐらいにはしてもらえるかもしれない。
そんなことを考えていた。
そんな時、ローラが神託を受け聖女になった。
聖女の支持率は絶大だ。平民だけでなく、貴族の中でも聖女を悪く言うようなものはほとんどいない。
このままではローラが皇太子妃になってしまう。
ライザは宰相を継ぐかもしれないが、ライザの恋は終わってしまう。自分でない女性を傍におくミハイルに宰相として使えることが果たしてできるだろうか。
ライザのキラキラした瞳が濁ることがディアにはどうしても許せなかった。
その時ディアは気がついた。自分はライザを愛しているのだと。そして同時に理解した、この愛は決して報われない。唯一報われるとすれば、ライザが好きな人と結婚して、幸せになり、自分はそれを近くで見守ることだと。
※ ※ ※
「全ては、私一人がやったことだ。私が私の愛のためにしたことだ」
ディアは真っすぐにローラを見つめ言い切った。
「でもミハイル殿下はあなたが薬を渡す時、一緒にいたのでしょ」
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