上 下
50 / 53

告白2

しおりを挟む
「なぜ、私に魔晶石を飲ませたの」
「魔力暴走を起こさせたかったの」
「なぜ」
「そうすれば、まだ力のコントロールができない未熟な聖女として、皇太子妃候補から外されると思ったの」
「まさかディアが皇太子妃候補を狙っていたなんて」
「狙ってないわ」
「じゃあどうして」
「それは」

 ※ ※ ※

「私、ミハイル殿下が好き」

 そういって笑う彼女はキラキラしていてディアは眩し気に目を細めた。

「もちろんディアのことも好きよ」

 父に連れられてやってきた王宮で同じく父親についてきたライザと初めて出会ったのは、ディアが7歳の時だった。
 それからよく父たちの話が終わるまで王宮の庭で遊ぶようになった二人のもとに、楽し気な声を聞きつけ現れたのが、ミハイルだった。
 大人ばかりに囲まれ同世代の友達などいなかった三人は、すぐに仲良くなった。
 ただ、ミハイルは皇太子なのでそんなに毎回会うことはできず、それでもディアとライザは、二人でよくミハイルが勉強している部屋をこっそり覗き見たり、ミハイルも隙をついて抜け出して三人で遊んだ。

 しかし、10歳になることにはライザも父の仕事の手伝いや勉強で忙しくなり、ミハイルも多忙を極めた。
 ディアも剣士として訓練に励んだが、しかし、それは兄や父たちには認められることはなかった。
『剣を振るより、将来皇太子妃となるマナーを学べ』
 男のような格好で、兵士たちの訓練場に混ざるディアを父親はそう言って追い出した。

 ライザの父親はライザの才能を早くから知って、後を継がせるべく付き添わせたのとは違い、ディアは皇太子妃候補として、幼いころからミハイルに気に入らせようと、父親の企みで王宮に連れてこられていたことを知ったディアは、自分とライザとの違いに、傷ついた。
 それでも、初めてできた友達を憎むことはできず、将来の夢を口にするキラキラした瞳から目を離すこともできず、ディアはライザと会い続けた。

 ミハイルも皇太子という決められた道だったが、それに誇りを持って進んでいたのがわかった。そしてライザと同じように、真っ直ぐで輝く瞳を持っていた。
 嫉妬にも似た気持ちに、二人から離れようと思ったこともあったが、ディアは二人から離れることはできなかった。
 そんな時ライザがディアにそう告げた。
 それは別に牽制とかそういうものでなく、純粋に、好きな人を大切な友達に教えた。それだけだった。
 しかしディアはその時、二人が二人だけの世界を作り、自分だけ、置いて行かれてしまうような気がした。
 ライザは素敵な女性だった。ミハイルがライザを見詰める目も愛情に溢れていることをディアは知っていた。
 二人が付き合うことになれば、それは友達としてとても喜ばしいことだった。同時に自分だけまた光の輪の外に追い出されてしまうそんな恐怖があった。

 そんな時皇太子妃候補に、自分とライザが選ばれたことを知った。
 ミハイルはすでにライザのことを好きなのだから、国民に問う必要はないと思ったが、それはこの国の決まり、でもライザなら国民からの支持もすぐ得られ愛されるから、大丈夫だろうと思った。
 自分は辞退したかったが、もし辞退して、おかしな令嬢が候補に挙がりライザにちょっかいをかけてこられても困るので、ディアはその申し込みを受けた。
 
 予想通りライザは平民たちからの支持が高かった。
 しかしそれをよく思わない貴族も少なくなかった。
 ローラとアリナは本人たちも特に支持を得ようと大きな動きもなく、そんな脅威にはならなかった。
 ただリズはその真っすぐな性格と、明るい笑顔で、色々なところから支持を集めていたが、その突飛な行動が目に余るところがあり、貴族間の中では、彼女は皇太子妃にしてはいけないという暗黙の了解ができていたので安心していた。
 しかし父が手を回したのか何気にディアの支持率は高く、それにはディアは少し困っていた。でも一方で、もし自分が皇太子妃になれば、三人の関係はいままで通りではないかという期待もあった。ディアはミハイルのことが友としては好きだが、異性としては何の感情もなかった。だからもし自分が皇太子妃に選ばれたら、形だけは皇太子妃になって、第二妃にライザを迎えれば、そして、ライザとミハイルが子をなせばいいのだとディアは考えていた。
 そうすれば、あのキラキラした二人の間にいつまでもいられる。
 騎士を継ぐことのできない自分がもし、皇太子妃にも慣れなかったら、あの父親のことだ、どこか金持ちの貴族に嫁に出されてしまうだろう。
 もしライザが皇太子妃になっても、二人にお願すれば、本当はライザの騎士になりたいが、侍女ぐらいにはしてもらえるかもしれない。
 そんなことを考えていた。

 そんな時、ローラが神託を受け聖女になった。

 聖女の支持率は絶大だ。平民だけでなく、貴族の中でも聖女を悪く言うようなものはほとんどいない。

 このままではローラが皇太子妃になってしまう。

 ライザは宰相を継ぐかもしれないが、ライザの恋は終わってしまう。自分でない女性を傍におくミハイルに宰相として使えることが果たしてできるだろうか。
 ライザのキラキラした瞳が濁ることがディアにはどうしても許せなかった。
 その時ディアは気がついた。自分はライザを愛しているのだと。そして同時に理解した、この愛は決して報われない。唯一報われるとすれば、ライザが好きな人と結婚して、幸せになり、自分はそれを近くで見守ることだと。
 

 ※ ※ ※

「全ては、私一人がやったことだ。私が私の愛のためにしたことだ」

 ディアは真っすぐにローラを見つめ言い切った。

「でもミハイル殿下はあなたが薬を渡す時、一緒にいたのでしょ」
「殿下は何の薬かは知らなかった。私がダニーを信用させるために近くにいてもらったに過ぎない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

処理中です...