上 下
37 / 53

アリナ、お茶会でライザ・ムルマンと会う

しおりを挟む
 それから間もなくして、生徒会主催のお茶会が盛大に催された。

「ローラ様お久しぶりです。その後お体の具合はどうですか?」

 華やかに着飾った令嬢中、生徒会役員のメンバーたちは、男女とも同じ礼服を身にまとっていた。
 そしてそんな礼服を着ていても、隠し切れないオーラを放っている存在がいた。
 生徒会会長であるミハイル皇太子と、副会長であるライザ令嬢である。

 動きやすいように、アップにした栗色の髪、他の令嬢たちのように煌びやかな装飾を身に付けていないのに、その翡翠色の瞳だけでどの令嬢より、彼女は眩い輝きを放っているように見えた。

「心配ありがとうございます。生徒会の皆様にはその節はおせわになりました」

 魔力暴走を起こした際に発生した突風により、転倒した生徒や、騒ぎを聞きつけてやってきたやじ馬たちの整備をしたのは生徒会であった。
 まあ、治癒の魔法だったので、転倒した生徒も怪我は全くなかったのだが。

「それは、よかったです」

 ニコリと微笑む笑顔は、慈愛に満ちている。
 前のアリナだったら、『私を心配してくれて優しい』とでも思っていたことだろう、でもローラ曰く呪いをかけた容疑者の第一有力候補である。その優しい笑顔さえ、今日は素直に受け取ることはできない。

「あの後も何度か倒れかけたと、リズ様からお聞きして心配してたのですけど、もう大丈夫みたいですね」

 あの魔力暴走後、もう決闘を挑んでくることはリズはなかったが、なぜか懐かれたようで、ローラと待ち合わせている教会にちょこちょこ顔を出すようになっていた。
 まったく作戦会議の邪魔でしかならないのだが、追い払う理由を思い浮かばず、困っているのだ。
 そしてまたあれからアリナはちょこちょこ体調を崩して学園を休んでもいた。ローラもそのことは心配しているのだが、実はアリナは、あれから毎日家に帰ってから、魔力探知を使ってローラの身体から、呪いの原因となっているものを探っているから、寝不足で起きれていないだけなのだが、それはまだローラにも話していない事だった。 

「成人を迎えてから聖女の力を授かるなんて異例ですもの、うまくコントロールできないのは仕方ないことですわ」

 心配げに見上げる瞳からは、彼女が本当にアリナを心配しているという気持ちが伝わってくる。
 これが全てお芝居だというのなら、すごい女優になれるだろう。

(やはりローラ様の見当違いなのでは……)

 そう思わすにはいられなかった。

「そういえば、来年度はローラ様も生徒会に入るから、そのために今度生徒会の手伝いに入るってミハイル様からお聞きしましたわ。でも私、ローラ様が心配です。まだ聖女の力になれていないご様子なのに、生徒会の仕事を手伝うなんて」

 その瞬間アリナはハッとした。いつも人の顔色を伺っているアリナだから気がついた、何かを探ろうとする気配と、気遣うようでいて、牽制ともとれる言葉。

「大丈夫です。あの時は少し疲れてしまっていて。もともと入学と同時に生徒会のお手伝いにはいる予定でしたので、半年もお休みをいただいて、その分皆様のお手を煩わせてしまいました。これからはその分も取り戻せるよう、全力を尽くしますわ」

 いつも優しい微笑みを称えているその笑顔の奥が、一瞬垣間見えた気がして肌が粟立つ。

(いったい私は彼女の何を見て、いままで優しい人だと思っていたのだろう)

 それでも、初めに見せた心配そうな表情は、今も本当の気持ちだったと思う。
 アリナは混乱した心を隠しながら、ニコリと微笑み返す。

「ローラ様」

 そこにアリナの姿をしたローラがやって来た。

「こんにちは、ライザ様」
「あら、アリナ様ではないですか。こういう行事に参加されるは初めてじゃないですか」

 驚きつつ、うれしそうに目を輝かす。

「はい。いままでの私はもう卒業して、これからは皇太子妃候補に選ばれた者として恥ずかしくない私になろうとおもいまして」

 皇太子妃候補という単語に、ピクリとライザが反応した。

「そうですね。お互い、恥ずかしくないよう、がんばりましょうね」

 でもそれも一瞬で、すぐに誰もを魅了するような聖母のような優しい笑顔を浮かべる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

処理中です...