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アリナ、容疑者を聞く2
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「ダニーのことは、いいお兄ちゃんだと思っている。でもそれ以上になりたいわけじゃないの。だって私なんて……」
泣き笑いのような笑みを浮かべたアリナを見て、笑っていたローラの笑みが引っ込む。
「この、傷を気にしてるの」
そういうと、ローラは、アリナの右側半分隠している髪をかき上げた。
「あっ」
しかしかき上げた髪の下には、本来あるはずの額から顎までの切り傷はなかった。
「どうして……」
「女は化粧でいくらでも化けれるのよ」
「そうなんだ、化粧で消しただけか」
一瞬本当に傷か消えたのかと思った。
「でも、今は化粧でごまかしてるけど、この傷は消せるわよ」
「えっ」
「確かに、この傷は普通の切り傷と違って、強い魔力でつけられたものだから、治り方にも影響がでてるけど、私を誰だと思っているの」
ニヤリと得意げに笑うローラを見ながら。こんなに自信あふれた表情ができたんだと、アリナは本来の自分の顔を不思議なものを見るように見つめた。
「聖女よ。聖女。まったくなんでこんな魔力も普通で、性格も普通の私が聖女に選ばれたのか、女神様も間違えたとしかおもえないけど、それでも私は聖女の力を授かってしまったの。そしてその力を使えば、治せない傷なんてないわ。そしてこの傷は私が治せる」
どうだと言わんばかりに胸を張るローラに思わず、プッと噴き出す。
「でも、いいの。これは私の罰だから」
しかしそんなローラにアリナは静かに首を横に振った。
「お母様を死に追いやった罰」
魔力暴走を起こして、荒れ狂う魔力の刃の中、傷だらけになりながら私のもとに辿りついた母親。そのあと、病魔にかかり亡くなった。
そのことはすでにローラには否定されたが、やはりどうしてもアリナは自分に罪がないとは考えることができなかった。
「なにが罰よ。イヴァキン侯爵夫人はとても綺麗で優しい人だったと聞いているわ。その娘であるあなたが、こんな傷一つで、自分のことを綺麗じゃないと貶めて。でもこれは罰だから消さなくていいと。そんなことを言うの。お母様があなたにそんなことを望んでいるというの」
『私の可愛いアリナ』
傷だらけなのに、痛くてたまらないはずなのに、私のもとにたどり着いた母は、いつもの優しい笑みで、朝の挨拶をするように、私を抱きしめるとおでこにキスをしてくれた。
『大丈夫。もう怖くないわ』
「言わない。お母様は、私を誰よりも可愛いと」
「私もそう思うわ! あなたはとても可愛いわ」
いつも人目につかないように身をかがめ、顔の半分も伸ばした前髪で隠していたアリナはローラの言葉を聞いて顔をあげる。
確かに今目の前に立っているローラの魂を宿したアリナは、服も髪型も同じはずなのに、ピンと伸びた背筋や自信あふれる表情だけで、こんなにも人の印象は変わるものなのかと驚くほど、別人に見えた。
「可愛いなんて……」
自分じゃないと思ってみれば、確かに可愛く見えなくもない。
恥ずかしそうに顔を赤らめてアリナが口を尖らした。
「フフッ。ならこの傷治しちゃっていいわね」
「ダメ」
でもそこだけはきっぱりと否定する。
自分でもわかっているのだ、きっとお母さんなら、治せる傷は治せというだろうと。それでも、アリナはそれを拒否する。
これはお母さんが自分を愛していたという思い出でもあるのだ。
「そう。でも気が変わったらいつでも言ってね」
「ありがとう、ローラ」
罰としてではなく思い出として傷を残そうと思ったことで、少しだけ気持ちが温かくなった気がした。
泣き笑いのような笑みを浮かべたアリナを見て、笑っていたローラの笑みが引っ込む。
「この、傷を気にしてるの」
そういうと、ローラは、アリナの右側半分隠している髪をかき上げた。
「あっ」
しかしかき上げた髪の下には、本来あるはずの額から顎までの切り傷はなかった。
「どうして……」
「女は化粧でいくらでも化けれるのよ」
「そうなんだ、化粧で消しただけか」
一瞬本当に傷か消えたのかと思った。
「でも、今は化粧でごまかしてるけど、この傷は消せるわよ」
「えっ」
「確かに、この傷は普通の切り傷と違って、強い魔力でつけられたものだから、治り方にも影響がでてるけど、私を誰だと思っているの」
ニヤリと得意げに笑うローラを見ながら。こんなに自信あふれた表情ができたんだと、アリナは本来の自分の顔を不思議なものを見るように見つめた。
「聖女よ。聖女。まったくなんでこんな魔力も普通で、性格も普通の私が聖女に選ばれたのか、女神様も間違えたとしかおもえないけど、それでも私は聖女の力を授かってしまったの。そしてその力を使えば、治せない傷なんてないわ。そしてこの傷は私が治せる」
どうだと言わんばかりに胸を張るローラに思わず、プッと噴き出す。
「でも、いいの。これは私の罰だから」
しかしそんなローラにアリナは静かに首を横に振った。
「お母様を死に追いやった罰」
魔力暴走を起こして、荒れ狂う魔力の刃の中、傷だらけになりながら私のもとに辿りついた母親。そのあと、病魔にかかり亡くなった。
そのことはすでにローラには否定されたが、やはりどうしてもアリナは自分に罪がないとは考えることができなかった。
「なにが罰よ。イヴァキン侯爵夫人はとても綺麗で優しい人だったと聞いているわ。その娘であるあなたが、こんな傷一つで、自分のことを綺麗じゃないと貶めて。でもこれは罰だから消さなくていいと。そんなことを言うの。お母様があなたにそんなことを望んでいるというの」
『私の可愛いアリナ』
傷だらけなのに、痛くてたまらないはずなのに、私のもとにたどり着いた母は、いつもの優しい笑みで、朝の挨拶をするように、私を抱きしめるとおでこにキスをしてくれた。
『大丈夫。もう怖くないわ』
「言わない。お母様は、私を誰よりも可愛いと」
「私もそう思うわ! あなたはとても可愛いわ」
いつも人目につかないように身をかがめ、顔の半分も伸ばした前髪で隠していたアリナはローラの言葉を聞いて顔をあげる。
確かに今目の前に立っているローラの魂を宿したアリナは、服も髪型も同じはずなのに、ピンと伸びた背筋や自信あふれる表情だけで、こんなにも人の印象は変わるものなのかと驚くほど、別人に見えた。
「可愛いなんて……」
自分じゃないと思ってみれば、確かに可愛く見えなくもない。
恥ずかしそうに顔を赤らめてアリナが口を尖らした。
「フフッ。ならこの傷治しちゃっていいわね」
「ダメ」
でもそこだけはきっぱりと否定する。
自分でもわかっているのだ、きっとお母さんなら、治せる傷は治せというだろうと。それでも、アリナはそれを拒否する。
これはお母さんが自分を愛していたという思い出でもあるのだ。
「そう。でも気が変わったらいつでも言ってね」
「ありがとう、ローラ」
罰としてではなく思い出として傷を残そうと思ったことで、少しだけ気持ちが温かくなった気がした。
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