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アリナ、母親と対面する5

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「あの、まだすぐに呪いが解けるとは……」
「そうなの、そうなのね。なら、応接間にお通しして、それから最高級の茶葉と、この間取り寄せた、ほら、あの外国のクッキー。それもお出しして。あと、侯爵様にも至急帰ってきてもらうように──」
「ちょっと、お母様。だからまだ呪いが解けると決まったわけじゃないって言ってるでしょ」
 
 もう呪いが解けたも同然とばかりに、喜び勇んで指示をだすエルモレンコ公爵夫人にアリナが叫ぶ。

「まだ呪いについて詳しくわかってないのに、お母様もお父様まで呼んでそんな期待した目で迫ったら、私……も、アリナも困ってしまうじゃない」
「そ、そうよね」

 娘の剣幕に押されたのか、しぶしぶ頷く。

「今日は、アリナと二人だけでゆっくり話したいから、お母様たちは部屋に入ってこないで」
「そうなの、そうよね……」

 ウルウルと瞳を潤ませながら、諦めたように頷く。

「でも本当に、彼女は犯人じゃないのよね?」
「はい、それだけは断言できます」

 しっかりとエルモレンコ公爵夫人の目を見ながら力強く頷く。
 それを見てすみれ色の瞳にも安堵の色が広がった。

「わかったわ。あなたがそこまでいうのなら、きっと信頼に足りる人だったのでしょう。イヴァキン家はうちよりもこういった系統について詳しいだろから、きっとあなたの助けになると信じていますわ」

「そうです。エルモレンコ侯爵夫人。私たちで必ず呪いを解く方法を見つけ、犯人も捕まえてみせますわ」

 その時いつの間に入ってきたのか、アリナの姿をしたローラが声高らかに宣言した。

「イヴァキン令嬢」
「アリナとお呼びください。おか……、エルモレンコ公爵夫人。だから、もう少しのご辛抱を」

 がしりとローラは母親の手を両手で包み込むと、真っ直ぐにその瞳を覗き込み、ふわりと笑って見せた。

「娘をよろしくお願いします。アリナ嬢」

 自信あふれる黒曜石のような瞳に魅了の力でも宿しているのか、エルモレンコ公爵夫人の中にわずかに残っていた不信の火が一瞬で消え去ったのがわかった。

 真っ直ぐに伸ばされた背筋、力強い瞳、そして人を安心させる優しい口調。その姿は自分のものなのに、それは全くの別人にアリナにも見えた。

「はい。任せてください」

 中身が違うだけで、人はこうも変わるものなのか、屋敷の者には自分はどう映っているのだろうと、ふとアリナは思った。
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