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アリナ、母親と対面する3
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「お母様、一人で食べれます」
スプーンを持ったエルモレンコ公爵夫人に、アリナがもう、どうしていいかわからないというように、真っ赤な顔で断りを入れる。
「そうなの? 遠慮しなくてもいいのよ」
『母は心配性で世話好きおせっかい』と書いてあったことを思い出していた、そして『全て断って』とも書かれていた。
たぶんローラなら強い口調で断固拒否なのだろうが、アリナにそこまで強い態度をとるのは無理な話である。
それにしても思っていた以上に、構ってくる。
よく呪いを受けた状態で、この母親から許可を得て、いや、許可はでてないのだろうが、突破して学園に毎日通えるなと、変なところを感心する。
「でも昨夜は学園から帰ってきた途端、倒れるように眠ってしまったし。今朝だって様子がおかしかったわよ。やっぱり無理してるんじゃない」
流石母親。いつもとなにか違うことを察知したようだ。しかしまさか中身が違うとまでは考えが及ばないらしい。
ただただいつもと何か違う娘を”心配”だ。とすみれ色の瞳が訴える。
ただでさえあんな夢を見た後だ、これ以上この可愛らしい娘想いの夫人を無下にするのはアリナの心が痛む。
今はボロを出すわけにはいかない、ローラがやらないような行動を取るべきではない。頭ではそうわかってはいるのだが。
パクリと、エルモレンコ公爵夫人の持つスプーンから食事を一口いただく。
パッと夫人の白い頬が嬉しそうにバラ色に染まった。
「こぼれそうだったからです。あとは自分で食べれますから。本当に子供扱いは勘弁してください」
プイッとそっぽを向くと、エルモレンコ公爵夫人からスプーンを奪い、アリナはそういった。
「あらあら。いつものローラに戻っちゃったわね。さっきまで迷子の子供のような顔をしてたのに」
食事をするアリナを見詰めながら、エルモレンコ公爵夫人がニコニコと微笑む。
食べていたスープが詰まりそうになる。
「いつまでいるんですか。もう出てってください」
これ以上観察されたらあぶない。危険を感じローラに教えられたように家族に強気で接する。
「本当に、ローラはひどいわ。お母さんこんなに心配なのに、呪いをかけた犯人だって、エルモレンコ家が総力を挙げて探してるから、わざわざ危険を冒してまでローラが学園に行く必要はないのよ」
拗ねたような口調口を尖らす。
『お母様は少し子供っぽいところがあるから、私がしっかりしないといけないんだ』
ローラの言葉が蘇る。
『だから、一刻も早く犯人を探し出して、お母様を安心させたい。それには私が元気な姿を見せつけていれば、呪いをかけた相手が、また仕掛けて来るかもしれない』
ローラはそう言って、結界の張られた屋敷から自らをおとりにするため、両親の反対を押し切って学園に通っているのだ。
「本当に、なんで……」
さっきまでニコニコと娘の食事姿を眺めていたエルモレンコ公爵夫人が、急に顔を背けた。その肩が小刻みに揺れる。
「お母様……」
伸ばしかけた手は、いつもの癖で、夫人に触れる前に引き戻してしまった。
呪いがかかった状態でも、いままで強気で元気な姿を見せていたローラが、昨夜は帰って来るなり、疲れて眠ってしまい、今朝は赤子のように泣いていたのだ、心配しない親などいないだろう。
「私は大丈夫です。きっと犯人も捕まえて、呪いも解いてみせます」
ローラと約束したからではない、子を想う親の愛をアリナは痛いほど知っている。だから早くこの目の前で本人より心配で心を痛めて倒れてしまいそうな人を安心させてあげたかった。
「ローラ」
何か言いかけたエルモレンコ公爵夫人の言葉を遮るように、その時ドアがノックされた。
スプーンを持ったエルモレンコ公爵夫人に、アリナがもう、どうしていいかわからないというように、真っ赤な顔で断りを入れる。
「そうなの? 遠慮しなくてもいいのよ」
『母は心配性で世話好きおせっかい』と書いてあったことを思い出していた、そして『全て断って』とも書かれていた。
たぶんローラなら強い口調で断固拒否なのだろうが、アリナにそこまで強い態度をとるのは無理な話である。
それにしても思っていた以上に、構ってくる。
よく呪いを受けた状態で、この母親から許可を得て、いや、許可はでてないのだろうが、突破して学園に毎日通えるなと、変なところを感心する。
「でも昨夜は学園から帰ってきた途端、倒れるように眠ってしまったし。今朝だって様子がおかしかったわよ。やっぱり無理してるんじゃない」
流石母親。いつもとなにか違うことを察知したようだ。しかしまさか中身が違うとまでは考えが及ばないらしい。
ただただいつもと何か違う娘を”心配”だ。とすみれ色の瞳が訴える。
ただでさえあんな夢を見た後だ、これ以上この可愛らしい娘想いの夫人を無下にするのはアリナの心が痛む。
今はボロを出すわけにはいかない、ローラがやらないような行動を取るべきではない。頭ではそうわかってはいるのだが。
パクリと、エルモレンコ公爵夫人の持つスプーンから食事を一口いただく。
パッと夫人の白い頬が嬉しそうにバラ色に染まった。
「こぼれそうだったからです。あとは自分で食べれますから。本当に子供扱いは勘弁してください」
プイッとそっぽを向くと、エルモレンコ公爵夫人からスプーンを奪い、アリナはそういった。
「あらあら。いつものローラに戻っちゃったわね。さっきまで迷子の子供のような顔をしてたのに」
食事をするアリナを見詰めながら、エルモレンコ公爵夫人がニコニコと微笑む。
食べていたスープが詰まりそうになる。
「いつまでいるんですか。もう出てってください」
これ以上観察されたらあぶない。危険を感じローラに教えられたように家族に強気で接する。
「本当に、ローラはひどいわ。お母さんこんなに心配なのに、呪いをかけた犯人だって、エルモレンコ家が総力を挙げて探してるから、わざわざ危険を冒してまでローラが学園に行く必要はないのよ」
拗ねたような口調口を尖らす。
『お母様は少し子供っぽいところがあるから、私がしっかりしないといけないんだ』
ローラの言葉が蘇る。
『だから、一刻も早く犯人を探し出して、お母様を安心させたい。それには私が元気な姿を見せつけていれば、呪いをかけた相手が、また仕掛けて来るかもしれない』
ローラはそう言って、結界の張られた屋敷から自らをおとりにするため、両親の反対を押し切って学園に通っているのだ。
「本当に、なんで……」
さっきまでニコニコと娘の食事姿を眺めていたエルモレンコ公爵夫人が、急に顔を背けた。その肩が小刻みに揺れる。
「お母様……」
伸ばしかけた手は、いつもの癖で、夫人に触れる前に引き戻してしまった。
呪いがかかった状態でも、いままで強気で元気な姿を見せていたローラが、昨夜は帰って来るなり、疲れて眠ってしまい、今朝は赤子のように泣いていたのだ、心配しない親などいないだろう。
「私は大丈夫です。きっと犯人も捕まえて、呪いも解いてみせます」
ローラと約束したからではない、子を想う親の愛をアリナは痛いほど知っている。だから早くこの目の前で本人より心配で心を痛めて倒れてしまいそうな人を安心させてあげたかった。
「ローラ」
何か言いかけたエルモレンコ公爵夫人の言葉を遮るように、その時ドアがノックされた。
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