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アリナ、ローラと入れ替わる
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「イヴァキン嬢、あなたなの?」
教会に入り一息尽きたところを、ローラは眩い光に襲われた。
そして次に目を開けた時には、目の前に、アリナ・イヴァキンと名乗る自分と瓜二つな人物が立っていた。
「なに、それは変化の魔法?」
ローラは興味津々というように、一歩アリナに近づく。それに対し、自分の顔をしたアリナがたじろいだように一歩下がった。
「違うわ。これは変化なんて簡単な魔法じゃないわ。この体は正真正銘あなた、エルモレンコ様のものよ、そして」
指を指されたローラがそれに沿って視線を下げる、そこで初めて、自分がいままで着ていた服もそしてそこから覗く手も足も違うことに気がついた。
「もしかして、私は今イヴァキン嬢になっているの!?」
驚愕の響きの中に興奮した響きも混じっていたが、アリナはそれには気がつかず、一気にまくしたてた。
「そうこれは禁忌魔法とされている。入れ替わりの魔法です。もしエルモレンコ様が素直に、過ちを正してくれるのなら、私はこの体を傷つけることなくお返しします。でももし、聞いて下さらないというのなら、私はこのまま、この体で皆さんの前で罪を告白します」
すみれ色の瞳に涙を称えながら、プルプルと震えながらそう訴える。
「あら、やだ、そうしてると、私って結構守ってあげたくなる可憐な令嬢にみえるわね」
「何をいっているのですか、エルモレンコ様、今の状況わかってますか?」
「うーん、よくわからないけど、脅されてる?」
「確かに、脅してますね。でもそれもこれも、あなたがあんな卑怯な手を使うから」
「卑怯な手って」
アリナの予想なら、体を入れ替えられたショックで焦り、罪の告白を受け入れるはずだったローラは、アリナの予想とは裏腹に、あっけらかんとしているばかりか、好奇心旺盛な子供のように、キラキラとした瞳でこの状況を楽しんでいるように見えた。
そんな反応にどう対処すべきか、アリナが一瞬固まる。
「私、気がついているんです。あなたが卑怯にも魅了の力を使って、周りの人達を自分の意のままにしようとしていることを!」
真っ赤な顔でそう叫んだアリナに、思わずローラが噴き出した。
「ちょっと待って、魅了ですって」
「そうです。私はこう見えて、魔力感知が優れているんです。だからあなたが微弱とはいえ常に魔法を発動しながら周りに接しているのはわかってるんですから!」
たとえ喧嘩をしていても、ローラが近づくとみな一様に、安らかで穏やかな顔になり、うっとりとした表情をローラに向けるのを何度も目撃したのだ。
「ふーん、だから私が魅了を使っているというのね」
「そうです」
「でもそれって、私に本当に魅力があるってだけとは思わないの?」
「えっ」
「だってこれでも私、女神様公認の聖女様よ」
「えっ、でも、そしたらなんで常に怪しい魔力を身にまとっているんですか……」
聖女という言葉に、先ほどまで強い眼差しでローラを睨んでいたアリナが、しどろもどろになる。
「確かに、私は常に魔法を発動してるけど、それには他に理由があるとは思わないの?」
「でも常に魔法を発動してるなんて、危険だし、他にどんな意味が」
魔法は魔力で発動できるが、魔力にも限度がある、魔力が枯渇すれば、それは死に直結する。そんな危険なことをわざわざする理由は、何かたくらみがあってのことだとしかアリナには思えなかった。
そしてローラの周りの反応から、それは魅了によって、みんなの人気を集めるためだとアリナは考えたのだ。
「皇太子妃になるために、人気を集めたくて、常に魅了を使っているのではないのですか!?」
「皇太子妃ね」
ハァっと鼻で笑う。
そうこの国の皇太子妃は国民達の支持率で決まるのだ。
そして今回の皇太子妃候補の一人として、ローラはその名が挙がっていた。
「違うといったら、あなたは素直に信じてくれるのかしら?」
まだ疑惑の眼差しを向けているアリナに問う。
「それは……、じゃあ、じゃあ、なぜダニーに近づくんですか」
「ダニー……、あぁキリリチェフのこと」
初めは警戒するように自分を見ていた鳶色の瞳が、言葉を交わすうちに、柔らかくなっていくのがわかった。
人嫌いなようでいて、頼って来た人を邪険に追い返すことはしない、一言で言うとお人よし。それがダニー・キリリチェフだった。
ローラがようやく腑に落ちたという顔をした。
「なんだ、魅了だ。卑怯だというから、何かと思ったら」
見慣れているはずの自分の顔が、いじわるっぽく歪むのを見てアリナがビクリと体を強張らす。
「違いますよ、イヴァキン嬢。それは誤解です。私は彼に相談事をしていただけで、決してやましい気持ちはありません」
じっとこちらを見つめるアリナにそういった。
「あなたの想い人を、誘惑しようなんて。これっぽちも思っていませんよ」
「想い人」
アリナの魂が宿っているローラの透けるような白い肌が、見る見る真っ赤に染まっていく。
「違います。彼は私の大切な研究者仲間で、別にそんな私はっ!」
耳まで赤く染め上げながら、アリナが叫ぶ。それから、キッと赤く染まった顔をあげると。
「もう、いいです。直接この姿で彼に会えばわかります」
いうが早いかアリナは、ローラの横をすり抜けると扉に手をかけた。
教会の中に、爽やかな風が入って来る。
「待って! でちゃダメ!」
体が入れ替わったと気がついた時も冷静だったローラが、その時初めて取り乱した声をあげた。
驚いて思わず振りかえったアリナだったが、すでにその足は一歩教会の外に出ていた。
「聖なる風よ! 私を守って!」
伸ばされたローラの手と発せられた魔法の言葉は、しかしアリナの体からは発動することなく、ただ虚しい叫びとなって教会にこだました。
「エルモレンコ様、何を……」
言いかけた言葉は最後まで発せらることなく、アリナはウッっと呻くと、喉を押さえた。そしてそのまま、陸に打ち上げられて魚のように、パクパクと口を動かしながら、その場に崩れ落ちたのだった。
教会に入り一息尽きたところを、ローラは眩い光に襲われた。
そして次に目を開けた時には、目の前に、アリナ・イヴァキンと名乗る自分と瓜二つな人物が立っていた。
「なに、それは変化の魔法?」
ローラは興味津々というように、一歩アリナに近づく。それに対し、自分の顔をしたアリナがたじろいだように一歩下がった。
「違うわ。これは変化なんて簡単な魔法じゃないわ。この体は正真正銘あなた、エルモレンコ様のものよ、そして」
指を指されたローラがそれに沿って視線を下げる、そこで初めて、自分がいままで着ていた服もそしてそこから覗く手も足も違うことに気がついた。
「もしかして、私は今イヴァキン嬢になっているの!?」
驚愕の響きの中に興奮した響きも混じっていたが、アリナはそれには気がつかず、一気にまくしたてた。
「そうこれは禁忌魔法とされている。入れ替わりの魔法です。もしエルモレンコ様が素直に、過ちを正してくれるのなら、私はこの体を傷つけることなくお返しします。でももし、聞いて下さらないというのなら、私はこのまま、この体で皆さんの前で罪を告白します」
すみれ色の瞳に涙を称えながら、プルプルと震えながらそう訴える。
「あら、やだ、そうしてると、私って結構守ってあげたくなる可憐な令嬢にみえるわね」
「何をいっているのですか、エルモレンコ様、今の状況わかってますか?」
「うーん、よくわからないけど、脅されてる?」
「確かに、脅してますね。でもそれもこれも、あなたがあんな卑怯な手を使うから」
「卑怯な手って」
アリナの予想なら、体を入れ替えられたショックで焦り、罪の告白を受け入れるはずだったローラは、アリナの予想とは裏腹に、あっけらかんとしているばかりか、好奇心旺盛な子供のように、キラキラとした瞳でこの状況を楽しんでいるように見えた。
そんな反応にどう対処すべきか、アリナが一瞬固まる。
「私、気がついているんです。あなたが卑怯にも魅了の力を使って、周りの人達を自分の意のままにしようとしていることを!」
真っ赤な顔でそう叫んだアリナに、思わずローラが噴き出した。
「ちょっと待って、魅了ですって」
「そうです。私はこう見えて、魔力感知が優れているんです。だからあなたが微弱とはいえ常に魔法を発動しながら周りに接しているのはわかってるんですから!」
たとえ喧嘩をしていても、ローラが近づくとみな一様に、安らかで穏やかな顔になり、うっとりとした表情をローラに向けるのを何度も目撃したのだ。
「ふーん、だから私が魅了を使っているというのね」
「そうです」
「でもそれって、私に本当に魅力があるってだけとは思わないの?」
「えっ」
「だってこれでも私、女神様公認の聖女様よ」
「えっ、でも、そしたらなんで常に怪しい魔力を身にまとっているんですか……」
聖女という言葉に、先ほどまで強い眼差しでローラを睨んでいたアリナが、しどろもどろになる。
「確かに、私は常に魔法を発動してるけど、それには他に理由があるとは思わないの?」
「でも常に魔法を発動してるなんて、危険だし、他にどんな意味が」
魔法は魔力で発動できるが、魔力にも限度がある、魔力が枯渇すれば、それは死に直結する。そんな危険なことをわざわざする理由は、何かたくらみがあってのことだとしかアリナには思えなかった。
そしてローラの周りの反応から、それは魅了によって、みんなの人気を集めるためだとアリナは考えたのだ。
「皇太子妃になるために、人気を集めたくて、常に魅了を使っているのではないのですか!?」
「皇太子妃ね」
ハァっと鼻で笑う。
そうこの国の皇太子妃は国民達の支持率で決まるのだ。
そして今回の皇太子妃候補の一人として、ローラはその名が挙がっていた。
「違うといったら、あなたは素直に信じてくれるのかしら?」
まだ疑惑の眼差しを向けているアリナに問う。
「それは……、じゃあ、じゃあ、なぜダニーに近づくんですか」
「ダニー……、あぁキリリチェフのこと」
初めは警戒するように自分を見ていた鳶色の瞳が、言葉を交わすうちに、柔らかくなっていくのがわかった。
人嫌いなようでいて、頼って来た人を邪険に追い返すことはしない、一言で言うとお人よし。それがダニー・キリリチェフだった。
ローラがようやく腑に落ちたという顔をした。
「なんだ、魅了だ。卑怯だというから、何かと思ったら」
見慣れているはずの自分の顔が、いじわるっぽく歪むのを見てアリナがビクリと体を強張らす。
「違いますよ、イヴァキン嬢。それは誤解です。私は彼に相談事をしていただけで、決してやましい気持ちはありません」
じっとこちらを見つめるアリナにそういった。
「あなたの想い人を、誘惑しようなんて。これっぽちも思っていませんよ」
「想い人」
アリナの魂が宿っているローラの透けるような白い肌が、見る見る真っ赤に染まっていく。
「違います。彼は私の大切な研究者仲間で、別にそんな私はっ!」
耳まで赤く染め上げながら、アリナが叫ぶ。それから、キッと赤く染まった顔をあげると。
「もう、いいです。直接この姿で彼に会えばわかります」
いうが早いかアリナは、ローラの横をすり抜けると扉に手をかけた。
教会の中に、爽やかな風が入って来る。
「待って! でちゃダメ!」
体が入れ替わったと気がついた時も冷静だったローラが、その時初めて取り乱した声をあげた。
驚いて思わず振りかえったアリナだったが、すでにその足は一歩教会の外に出ていた。
「聖なる風よ! 私を守って!」
伸ばされたローラの手と発せられた魔法の言葉は、しかしアリナの体からは発動することなく、ただ虚しい叫びとなって教会にこだました。
「エルモレンコ様、何を……」
言いかけた言葉は最後まで発せらることなく、アリナはウッっと呻くと、喉を押さえた。そしてそのまま、陸に打ち上げられて魚のように、パクパクと口を動かしながら、その場に崩れ落ちたのだった。
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