【完結】呪われ聖女と入れ替わり令嬢~拗らせ片思い~

トト

文字の大きさ
上 下
2 / 53

アリナ、ローラと入れ替わる

しおりを挟む
「イヴァキン嬢、あなたなの?」

 教会に入り一息尽きたところを、ローラは眩い光に襲われた。
 そして次に目を開けた時には、目の前に、アリナ・イヴァキンと名乗る自分と瓜二つな人物が立っていた。
 
「なに、それは変化へんげの魔法?」

 ローラは興味津々というように、一歩アリナに近づく。それに対し、自分の顔をしたアリナがたじろいだように一歩下がった。

「違うわ。これは変化なんて簡単な魔法じゃないわ。この体は正真正銘あなた、エルモレンコ様のものよ、そして」

 指を指されたローラがそれに沿って視線を下げる、そこで初めて、自分がいままで着ていた服もそしてそこから覗く手も足も違うことに気がついた。

「もしかして、私は今イヴァキン嬢になっているの!?」

 驚愕の響きの中に興奮した響きも混じっていたが、アリナはそれには気がつかず、一気にまくしたてた。

「そうこれは禁忌魔法とされている。入れ替わりの魔法です。もしエルモレンコ様が素直に、過ちを正してくれるのなら、私はこの体を傷つけることなくお返しします。でももし、聞いて下さらないというのなら、私はこのまま、この体で皆さんの前で罪を告白します」

 すみれ色の瞳に涙を称えながら、プルプルと震えながらそう訴える。

「あら、やだ、そうしてると、私って結構守ってあげたくなる可憐な令嬢にみえるわね」
「何をいっているのですか、エルモレンコ様、今の状況わかってますか?」
「うーん、よくわからないけど、脅されてる?」
「確かに、脅してますね。でもそれもこれも、あなたがあんな卑怯な手を使うから」
「卑怯な手って」

 アリナの予想なら、体を入れ替えられたショックで焦り、罪の告白を受け入れるはずだったローラは、アリナの予想とは裏腹に、あっけらかんとしているばかりか、好奇心旺盛な子供のように、キラキラとした瞳でこの状況を楽しんでいるように見えた。
 そんな反応にどう対処すべきか、アリナが一瞬固まる。

「私、気がついているんです。あなたが卑怯にも魅了の力を使って、周りの人達を自分の意のままにしようとしていることを!」

 真っ赤な顔でそう叫んだアリナに、思わずローラが噴き出した。

「ちょっと待って、魅了ですって」
「そうです。私はこう見えて、魔力感知が優れているんです。だからあなたが微弱とはいえ常に魔法を発動しながら周りに接しているのはわかってるんですから!」

 たとえ喧嘩をしていても、ローラが近づくとみな一様に、安らかで穏やかな顔になり、うっとりとした表情をローラに向けるのを何度も目撃したのだ。

「ふーん、だから私が魅了を使っているというのね」
「そうです」
「でもそれって、私に本当に魅力があるってだけとは思わないの?」
「えっ」
「だってこれでも私、女神様公認の聖女様よ」
「えっ、でも、そしたらなんで常に怪しい魔力を身にまとっているんですか……」

 聖女という言葉に、先ほどまで強い眼差しでローラを睨んでいたアリナが、しどろもどろになる。
 
「確かに、私は常に魔法を発動してるけど、それには他に理由があるとは思わないの?」
「でも常に魔法を発動してるなんて、危険だし、他にどんな意味が」

 魔法は魔力で発動できるが、魔力にも限度がある、魔力が枯渇すれば、それは死に直結する。そんな危険なことをわざわざする理由は、何かたくらみがあってのことだとしかアリナには思えなかった。
 そしてローラの周りの反応から、それは魅了によって、みんなの人気を集めるためだとアリナは考えたのだ。

「皇太子妃になるために、人気を集めたくて、常に魅了を使っているのではないのですか!?」
「皇太子妃ね」

 ハァっと鼻で笑う。
 そうこの国の皇太子妃は国民達の支持率で決まるのだ。
 そして今回の皇太子妃候補の一人として、ローラはその名が挙がっていた。

「違うといったら、あなたは素直に信じてくれるのかしら?」

 まだ疑惑の眼差しを向けているアリナに問う。

「それは……、じゃあ、じゃあ、なぜダニーに近づくんですか」
「ダニー……、あぁキリリチェフのこと」

 初めは警戒するように自分を見ていた鳶色の瞳が、言葉を交わすうちに、柔らかくなっていくのがわかった。
 人嫌いなようでいて、頼って来た人を邪険に追い返すことはしない、一言で言うとお人よし。それがダニー・キリリチェフだった。
 ローラがようやく腑に落ちたという顔をした。

「なんだ、魅了だ。卑怯だというから、何かと思ったら」

 見慣れているはずの自分の顔が、いじわるっぽく歪むのを見てアリナがビクリと体を強張らす。

「違いますよ、イヴァキン嬢。それは誤解です。私は彼に相談事をしていただけで、決してやましい気持ちはありません」

 じっとこちらを見つめるアリナにそういった。

「あなたの想い人を、誘惑しようなんて。これっぽちも思っていませんよ」
「想い人」

 アリナの魂が宿っているローラの透けるような白い肌が、見る見る真っ赤に染まっていく。

「違います。彼は私の大切な研究者仲間で、別にそんな私はっ!」

 耳まで赤く染め上げながら、アリナが叫ぶ。それから、キッと赤く染まった顔をあげると。

「もう、いいです。直接この姿で彼に会えばわかります」

 いうが早いかアリナは、ローラの横をすり抜けると扉に手をかけた。
 教会の中に、爽やかな風が入って来る。

「待って! でちゃダメ!」

 体が入れ替わったと気がついた時も冷静だったローラが、その時初めて取り乱した声をあげた。
 驚いて思わず振りかえったアリナだったが、すでにその足は一歩教会の外に出ていた。

「聖なる風よ! 私を守って!」

 伸ばされたローラの手と発せられた魔法の言葉は、しかしアリナの体からは発動することなく、ただ虚しい叫びとなって教会にこだました。

「エルモレンコ様、何を……」

 言いかけた言葉は最後まで発せらることなく、アリナはウッっと呻くと、喉を押さえた。そしてそのまま、陸に打ち上げられて魚のように、パクパクと口を動かしながら、その場に崩れ落ちたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

処理中です...