魔法使いの弟子 ~不愛想師匠とドジっ子弟子は、今日も村人たちに愛されている~

トト

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師匠

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「師匠ただいま戻りました」
「で、どうだった?」

 ユキは指を顎に当てながら、うーんと頭をひねる。

「カイルとサラが気持ち悪くなって口を押えて途中でどっかにいったぐらいで、これといって──」

 頭をかしげる。

「なんだつまらない」

 リオンは心底つまらなそうにつぶやく。

「後はいつも以上に、からかわれました」

 そう言ってハッとしたように師匠を睨みつける。

「もしかしてからかわれる薬だったんですか」

 プクッと頬を膨らませながら怒った表情を見せる。

「どんな風にからかわれたんだい?」
「いつも以上に、ドジっ子で可愛い、女の子より可愛いって。ひどいですよ」

 腕を組みながらプンプンと怒る。その様子にリオンがプハッと噴き出した。
 ユキが珍しいものでも見るようにそんな師匠を見上げる。いつも難しい顔をして笑顔など見せない(何かを企んでいるような笑みはよく浮かべているが)師匠が腹を抑えて笑っている。
 それを見てユキも思わず笑みを浮かべる。

「愛されてるなユキは」
「あぁ、そうだ。師匠にも『結婚してくれと』伝言頼まれたんだった」

 でも相手はなぜかみな男だったので、きっとこれもからかいの一つなのだろう。ユキが「師匠をからかう人もいるんですね」と思わず笑って話したが、しかし先ほどまで笑っていたリオンは急に真顔になると、「どいつだそんなことをいうやつは」と冷たい声音で尋ねたのでユキの笑いはすぐに引っ込んだ。

「師匠……」
「一生トイレから出れない体にしてやろうか」

 ニヤリと笑う顔は美しすぎて恐ろしくもある。

「そうだ、エルフだってことなんで黙ってたんですか?」

 慌てて話をそらす。

「別に黙ってたわけではないぞ、お前が聞いてこなかったんじゃないか」
「だって、耳のことを聞いた時」
「エルフだって耳の形はそれぞれ違うから、そう答えただけだ」
「う~」

 なんだかうまく言いくるめられている気がする。しかし珍しく素直に答えてくれるリオンにユキはそれで満足することにした。
 いつもなら、面倒くさそうな顔をして追い払われるか、無視されることがほとんどだからだ。
 なんだかわからないが、これだけ答えてくれるということは機嫌がいいのかもしれない。さっきから、やたら頭も撫ぜてくれるし。ここでしつこくしてまたいつもの師匠に戻ってしまうのは一秒でも遅らせたい。

【告白の薬】
 愛の告白だけをさしているわけではない、普段思っていることをついポロリともらしてしまう、いわば、口を滑らせやすくする薬、または自分に正直になる薬である。

 ユキのかぶった薬はそれだった。

「ところで師匠、結局何の薬だったんです?」

 好奇心に満ちた目で見上げてくる可愛い弟子に、リオンは無言でニコリと微笑んだのだった。
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