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18 初めまして、で正解ですよね?

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「あ…」


私はアドルフ皇太子殿下に挨拶しようとそちらに向き直った。しかし、私の前に王太子殿下が立ちはだかったので殿下の背中しか見えなくなってしまった。


「こんばんは、アドルフ皇太子殿下。楽しまれていますか?」


「ええ。楽しいですよ。後ろにいらっしゃるのはリリア公爵令嬢ですね」


アドルフ殿下は王太子殿下の反応を楽しむように私の方を見つめる。王太子殿下はわずかにピクッと眉をひそめた。


「…ええ、私の婚約者です」


「おや、そうだったのですか」


アドルフ殿下の返答に王太子殿下はあからさまに顔をしかめた。私が王太子殿下の婚約者であることを帝国の皇太子が知らないはずはない。王太子殿下をからかっているのか、それとも政治的な駆け引きが行われているのか。私がどうすべきか混乱していると、王太子殿下は渋々といった感じで私を前に出した。挨拶をしてもいいということだろうと思い、静かに前に出る。


「初めてお目にかかります、公爵家長女リリア・カーテノイドでございます。どうぞお見知りおきを」


「リリア公爵令嬢。もちろん存じていますよ。あなたのことは有名ですからね」


アドルフ殿下は笑顔で私に答えた。その笑顔がどこかで見たことがあるような気がしてぼうっと見つめてしまった。そのせいで殿下がすぐそばまで近づいたのに気づかず、手を取られたときにははっと息をのんだ。


「ほんとうにお美しい。王太子殿下がうらやましいですよ」


普通、男性が女性の許可なく手に触れることはない。マナー違反と思われてもおかしくない行動だ。私が戸惑っていると、握られた手のひらに何か紙のような感触があった。何か手渡されたのだ、と気づき皇太子殿下の顔を見ると、何食わぬ顔で私を見返し、ニコリと笑った。


「では皆さまよい夜をお過ごしください」


アドルフ殿下はそう言うとひらりとマントを翻して去った。残された私や王太子殿下は呆然とそれを見つめた。


「いきなり女性の手を取るなんて信じられないな。皇太子とは思えない無作法だ。だいたい人の婚約者を紹介もなく…」


王太子殿下がブツブツと不満げにこぼすのも耳に入らず、私は殿下に告げていた。


「すみません、殿下。気分が優れませんので少し休んでもよろしいでしょうか?」


「え?あ、ああ、かまわない。無礼な客の相手で疲れただろう」


「ありがとうございます」


皇太子殿下が私に伝えたいこと…一体何だろう。婚約破棄のことを知っているような口ぶりだった。そして、もう一度会って確かめたい。幼い日に出会ったのはアドルフ殿下だったのかを。人気のない廊下に出てあたりに人がいないことを確認すると、私は恐る恐る紙を取り出した。


「…会って話したい。王宮裏庭」


もはや行かないという選択肢はなかった。私はその紙を握りしめ、王宮の裏庭に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やあ、ほんとうに来てくれた」


アドルフ殿下は何でもないことのように平然と裏庭にいた。裏庭は普段の舞踏会の最中は恋人たちの逢瀬の場所だが、今日に限って誰もいない。殿下が人が来ないようにしたのだろう。


「先ほどぶりですわね、殿下。このような場所に女性を呼び出すのはあまり褒められたことではありませんわよ」


「君はそれに応じてくれたじゃないか。それに、こうでもしないと君と二人で話せないからな」


殿下は愛想笑いを顔から消し、自嘲気味に口角を上げた。


「一体何のお話でしょう?」


「さっき初めまして、と言ったね、リリア?もしかして私のことは忘れた?」


「え…」


ドクンと心臓が音を立てる。殿下の顔がアップになって近づいてくる。


「小さい頃会ってるはずなんだけど、覚えてないか。まあ仕方ないよね」


「お…覚えて、ます」


思わずそう言ってしまい、はっとして殿下の顔を見るとみるみる口元が緩んで頬に血色が現れた。


「ぼんやりと、ですけど…」


「ああ、ほんとうに!?よかった、もう忘れられても仕方ないと思って諦めてたのに…夢みたいだ」


あんまり殿下がはしゃぐので、私は驚いて見つめてしまった。殿下は照れたように視線を外した。


「すまない…嬉しくて我を忘れてしまった」


「い、いえ、謝られるようなことでは…あの、何かご用がおありだったのでは?」


殿下は咳払いをすると私に向き直り、目を合わせた。


「本題なのだが…私と帝国に来てくれないか?」

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